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第十五話 魔王様、狼ですか?

 俺はドルガ一向と共にティアルカを出発、キラーファングが潜んでいるという山へ向けて歩いていた。


 ちなみにドルガは取り巻き数名と共に、馬車にてさっさと目的地へと向かってしまった。


 俺は残された他冒険者数名と、そして見習い勇者のアルカと共に目的地へと向かう。


「おら、見習い! 今日はドルガさんと俺達が世話してやってんだからな! これぐらいは荷物を持てよ!」

 そう言って冒険者は俺へと荷物袋二つを渡した。中にはぎっしりと薬草やら道具やらが詰まっている。


 馬車があると言うのに、こんなに荷物がある訳がない。

 おそらくわざと残しておいたのだろう。


 そこまでして、嫌がらせをしたいか。逆に笑えてくる。


 そう思っていた矢先のことだった。


「サタンさん! ボクも一つ持ちますよ」

 アルカが俺へと手を差し出した。


 しかし、俺は首を横に振る。


「いや、良い。これは俺が任されたものだ」


「いえ、ボクにも持たせてください! 勇者とは言え、ボクも見習いなんですから」

 そう言って柔和な笑顔を見せる。


 ここまで言われては俺も頑なな態度を示す理由もない。


「おい、アルカ! その荷物はそのおっさんに預けてんだ! お前は持つな」

 その様子を見た他冒険者が止める。


 しかし、アルカは頑として首を横に振った。


「ですが! 今日は仲間なのですから! 彼の負担はボクも担うべきです!」


「ちッ……」

 根負けした様子の冒険者はそれ以降、何も言わなかった。


「見習いとは言え、サタンさんだけを消耗させる訳にはいきませんから! 皆さんは新人への扱きに熱心過ぎますよ」

 そう言ってアルカは、よいしょと荷物を背負う。


 勇者でありながら小柄な体格をしているアルカには少々大きすぎる荷物だったが、アルカは不満一つ言わずに歩く。


 これも修行の一環か何かだと思っているのだろうか。



「サタンさん。少し良いですか?」

 行程の半分も歩いた辺りだろうか、今まで無言だったアルカが話しかけてきた。


「何だ? 疲れたのか?」

 

「いえいえ。こんなんで疲れたと言えば勇者として失格ですよ」

 そう口にするアルカは明らかに体力を消費していた。


 ……まあ俺を助けるためとは言え、自業自得ではあるのだが。


「じゃあ、何だ?」


「いえ、サタンさんは何故冒険者になられたのか、と」


「そんなことが聞きたいのか?」


「はい。こんなことを言うのもなんですが……その歳で新たに見習いから冒険者を目指すのは相当な覚悟がいるのではないかと」

 アルカの問いに俺は少しばかり逡巡しつつ、答える。


「なに、のんびりと過ごしたかっただけだ。大層な理由はない。それに冒険者も日銭作りの一環で、金が溜まれば辞めるつもりだ」

 結局俺は嘘を吐かなかった。


 これぐらいであれば真実を言ったところで、何ら支障はあるまい。


「……なるほど。ですが、新たに挑戦するというのはいつだって凄いことです。のんびりするにも覚悟が要りますから」

 そんな俺の答えをアルカは良いように取ったらしい。


「では、お前は何故、勇者などしているんだ? 見習いなどになってまで」

 逆に俺はそう問いかける。


 勇者の申請は基本的に通るはずだ。「見習い」なんて扱いをされることはほとんどない。


 それはこいつがよっぽど弱いからであろう。


「ええと……その」

 その質問に対し、アルカは答えづらそうにする。


 どうやら込み入った事情があるらしい。



「答えにくいなら答えなくて構わん」


「いえ、その……すいません」


 アルカは俺の言葉にしゅんと首を項垂れる。


 どうも嘘が吐けない性格のようだ。そんなにも純粋で『勇者』などやってられるのだろうか。



 その後は会話なく歩き続ける。しかし、アルカはどんどん疲弊しているように思えた。

 やはり荷物がアルカの体格に合っていない所為だろう。


「……貸してみろ」

 俺はアルカの持っている荷物を強引に奪い取る。アルカは泣きそうな表情を浮かべた。


「あ、駄目です! 返してください、ボクはまだやれますから!」


「駄目だ。それにお前は魔物が出れば戦う身だろう? 俺は戦闘に参加するなと言われている。だったらここで消費すべきは俺であってお前ではない。それともお前は戦闘で他人に迷惑をかけて、非戦闘員の俺を危険に晒すつもりか?」


「それは……」

 アルカは眉間に皺を寄せる。こういう純粋に過ぎる奴は、『他人に迷惑が掛かるから』というと弱い。


「分かりました。申し訳ありませんが、宜しくお願いします」

 アルカはそう言って頭を下げた。


 その後は消費していたアルカの体力も回復したようだった。

 さすがに勇者だけあって体力はあるらしい。歩いているだけならば問題ないようだった。


 その時だった。


「モンスターが出たぞォ!」

 前方にて冒険者が大声で叫ぶ。


 俺は前方へと目を向ける。襲ってきたのは『クレイオオカミ』だった。

 草原に生息している魔物で、見た目は土気色をした狼だ。基本的には単体で行動して獲物を狩る。


 ただし、魔法『アースドール』を使って、自分と瓜二つの土人形を作り、その集団に混ざる。本体を倒さぬ限り、偽物のクレイオオカミは幾らでも湧いてくるために対処を誤るとかなり苦戦しかねない。


 ……まあそんなものは広範囲の魔法などを叩き込めば済む話なのだが。

 しかし、今回、冒険者の中に広範囲の魔法を所持している者はいないらしい。それぞれが一匹ずつの狼へと対処していた。


 ……これは時間がかかるかも知れないな。


 そう思っていた矢先、


「サタンさんはここに居てくださいね」


 アルカはそう口にするや否や、物凄いスピードでクレイオオカミの群れへと突っ込んだ。


 どうやらそれなりの身体強化スキルを使用しているらしい。いや……それだけじゃない。身体強化魔法なども用いて、さらなる加速を掛けている。


 そして接敵するクレイオオカミを自らの剣にて全て一刀に伏していた。

 遠目からはクレイオオカミがかまいたちを浴びて吹き飛んでいるようにも見える。


 さらにアルカは一点へと集中して進んでいるようだった。


「ここだァ!」

 アルカは叫ぶや否や一匹のクレイオオカミを一刀両断にする。


 そして、脚を止めた。瞬間、他冒険者が戦っていたクレイオオカミがただの土くれへと戻った。


 アルカはクレイオオカミから「魔石」を拾い上げると、冒険者に渡してから戻ってきた。


「何とかなりましたね。良かった」

 アルカは俺へとにっこりと笑いかけた。


「何だ。なかなかやるじゃないか」

 実際、アルカの強さは中々のものだった。


 クレイオオカミの「群れ」へと突っ込む前にその中からサーチスキルや魔力感知を用いて、本体をすでに見抜いていたのだろう。

 

 だからこそ、クレイオオカミの本体へと一直線に駆け抜けたのだ。


 しかも、直線上にいる偽物の狼を叩き斬る際も一切減速しなかった。

 手練れでなければ出来ない芸当だ。


「いえいえ。勇者であれば出来て当たり前のことですから」

 しかし、アルカはそれについて謙遜してみせる。


「どうかな。正直、お前が見習いというのが信じられないくらいだ」

 俺は何の気なしにそう言った。


 ただ、その瞬間、アルカの顔に影が差した。


「いえ、……そんなんじゃないですから」


 すぐにいつもの純粋そうな表情に戻ったが、それがやけに印象的で俺の脳裏にこびりついていた。


たぶん、今日はあと一回くらい更新できると思います。宜しければ続きもお願いします! 

多分、夜の更新です。

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