日常7
さて、話が大分逸れてしまったので戻そうか。
俺はまだこの時齢7歳。考え方も行動も幼稚、拙過ぎて笑えてくるレベルだ。
今のままもし過去に飛べたのなら恐らく当時と違う、いわゆるもっと「大人」な反応が出来たのだろうけど、残念ながらそんな魔力を俺は持ち合わせていない。
噂に寄ると、この魔法に溢れたこの国において、そんなものを操れるのは王族のみで、その中でもほんの僅か、さらに、力の継承者は悪用した瞬間身体の中を内側から百万の鋭い爪に引き裂かれるような激痛と共に、身体中の穴という穴から全身の血を吹き出して死ぬという。
そんな能力なら、こっちから願い下げだ。
…………まあ、気を引かれない訳では無いけれど。
ま、まあそんなわけで、その時の餓鬼に出来たことと言えばひとつ。
頭に置かれた手を振り払い、全力で命乞いをすることだけだった。
………勿論、大号泣というあまり有難くないオプション付きで。
今でも心から消してしまいたい思い出ワースト10には入ると思う。
俺は必死で泣き叫びながら、床に頭を擦り付けた。
「…………………ご、ごめんなさぁい!!!へん、なこと、ひっく、いっ、ちゃってえ、ご、ごめんなさい、だ、ひっく、だから、こ、ころさないでぇええ!!!!!!」
そう叫びながら土下座する7歳児を、祖母はどう思ったのだろうか。
もしかしたら、不快な姿をさらしたから殺されるのかな?
そんな一抹の不安に戦慄したその刹那。
腹部に走った衝撃。
え?
驚きで思わず閉じていた瞳を見開き、愕然とする。
そして見えたのは。
まず開けた視界。
くるくると回ることから、幼い頭でようやく理解したのは、宙を飛んでいる、という事実。
ん?
…………宙を飛んでいる?
その疑問が解消されるよりも早く、驚くほどスローモーションになった世界に祖母の右脚が映り込む。
その脚は振り上げた形で静止していて、それは、つまり。
…………蹴られた?
祖母に??
その言葉を脳が理解した瞬間、急に世界が速度を取り戻して、激痛が神経を伝って視界が滲んだ。そして悲鳴をあげるより速く、重力に逆らえない身体は部屋の床に落下の勢いを殺さず叩きつけられた。
更なる激痛が身体を伝い、衝撃に耐えきれずその場に嘔吐する。
なにしろ人間の身体なんてどこもかしこも柔らかいのだ。簡単に壊すことができる。
そして、祖母もきっとそれをきちんと理解した上で蹴ったことをなんとなく理解して、更なるものが込み上げてきて再度戻してしまう。
「うえ……………げほっ、げほっ!」
涙目になりながらよろめく身体を支え身体を起こした時。
水の膜が張りぼやけた俺の視界に映ったものを見て、俺は知らぬうちに悲鳴を家中に響きわたらせていた。
「うわあああああああああああぁぁぁ!!!!!」