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鬼嫁の勇者

作者: 風早

チープな文ですか。読んでくださると嬉しいです。

鬼嫁の勇者


 勇者ブルーの目の前には、見上げれば首が痛くなるほどの高い門がそびえ立っていた。

 鎧は長旅の影響からか、ぼろぼろだ。余裕の笑みを浮かべると、ブルーは目の前の巨大な扉を開いた。

中に入ると、綺麗な庭園が広がっており、奥には豪華な宮殿が見える。

「悪いが邪魔するぜ」

そう言うと、門をくぐり抜けずかずかと中に入った。

中は静まりかえっており、魔王の部下などいない。

ブルーは城の手前、庭園の真ん中で、急に剣を抜いた。

剣が向けられた方向には、黒光りした角を生やし、岩さえ引き裂く長い爪を持ち暗黒世界の頂点に相応しい猛々し魔王が立ちはだかっていた。異常なまでに膨れ上がった筋肉は溢れんばかりの力強よさを与え、他の動物が生き残る為の進化なら、魔王は戦う為だけに進化したような体をしている。

「待っていたぞ勇者よ」

魔王は聞いているだけでも底冷えしてくるような、ドスの効いた声で呟いた。顔は全体的に笑っているが、目はギラギラとしている。

「俺の方こそ楽しみで仕方なかったぜ」

ブルーも笑う。

「時間がない。そろそろ、始めるとしようか」

「ちょっと待て!」

ブルーは、魔王城を睨みながら魔王を制止した。

「待てるか。時間がないと言っているだろ」

「魔王よ。禁断の儀式をするつもりか」

「お前には関係ないだろ」

「関係がないだと!世界が破滅するぞ」

「そんなに言うなら、ここで俺を倒して止めるんだな」

魔王は手を広げると、人の顔くらいの大きさの真っ黒に輝く球体を作り出した。球体は高速で回転しているようで、空気との摩擦で静電気が起こり火花が散っている。

「魔王は詠唱なしで魔法を使えるのか」

ブルーは、危険な臭いを感じとり、詠唱を開始した。すると、ブルーの半径一メートル付近は淡い光に包まれた。

「勇者ブルーよ。まずは挨拶代わりにもらってくれ」

魔王は漆黒の球体を勇者に向かって投げた。

球体は地面を削りながら真っ直ぐに進む。直撃の瞬間、ブルーが先ほど詠唱した防御魔法に触れたとたんに向きを変えて灰色の空へと飛んでいった。

ブルーは助かったと思ったのも、つかの間、球体は上空三百メートルの高さから光の矢となり降り注いだ。下から見ると花火のような美しさがあり、死神が勧誘しているかのように魅力的で見とれてしまった。 ブルーこのままでは死ぬと思い高速移動の魔法を詠唱し隙間のない光の矢を神業の如く交わした。なんとか交わし終えるとブルーの顔は綻び安堵した。

ブルーのいた場所は黒焦げになり辺りは焼けた臭いが立ち込めた。

「挨拶程度の攻撃でこれかよ。今度はこっちの番だぜ」

ブルーが詠唱すると、剣の鍔に付いている宝玉がキラリと光る。すると、馬鹿デカイ龍の形をした雷撃が魔王に向かって襲いかかった。

雷撃の龍が魔王の体にロープのように絡みつく。

魔王は大きく息を吸い込み咆哮した。雷撃は一息で消し飛び、信じられない事に攻撃は効かなかった。

「嘘でしょ。今の魔法は取って置きだったんだけど」

今まで余裕のブルーも、少し額に汗をかいた。

「あれが取って置きとは、私も舐められたものだな」

「なら、連続で、こちらの番だぜ」

ブルーが詠唱を始めると、またもや雷撃が魔王を襲った。怒り狂う龍はうねりを上げながら今度はダメージを与える処か地面にぶつかり霧散してしまった。まったくの検討外れな場所に飛んでしまったのだ。

動揺からか、コントロールまで狂い始めるという厳しい現実がブルーを襲う。

「どうした勇者よ」

魔王は小さく笑う。

「ちょっと動揺したかも」

「次は俺の番だな。そして、最後だ」

魔王は先ほどの片一方の腕で作ったのとは違い、両腕を天に向かって突き上げ、その上に、半径10メートルはあろうかという巨大エネルギーの集合体を作った。

ブルーの想像を絶する力が目の前に広がっている。逃げるのも忘れ思わず見とれるほどだ、たとえ逃げられたとしてどこに逃げれば良いのか検討もつかない。そして、答えはすぐにでる。

ついに魔王は投げようと足に力を入れると、右足が地面にめり込んだ。魔王はバランスが崩れ倒れないように慌てている。

無敵の存在の間抜けな所は滑稽で、ブルーは笑顔になり、

「ラッキー」

と、呟いた。

魔王は、風格ある自分の顔が引きつった事を感じた。

「貴様は!まさか、雷撃を外したのは、これを狙っていたのか!」

ブルーは魔王とは対照的に笑みがこぼれ、

「雷撃は効かなくとも、地面は関係ないからな、雷撃をぶつけて地中に穴を空けといたんだ」

雷撃を受けた地面は魔王の足下で海の様に波打ち、立っているのがやっとの状況である。

ブルーは剣を構えると、

「闇を切り裂く聖なる剣で、最高の一撃をお見舞いしてやる」

一気に切り込もうと足を前に出した。しかし、突然、前のめりにこけた。

ブルーは目を見開き唖然とした。最も重要な場面で転けてしまうなんて。

「いつまで、ちんたらやってるのよ!」

転けたブルーの背後から少女の声がした。

ブルーが振り向いた先には、十字架が描かれた長い布を前後に張り合わせた服をきた、美しい少女が立っていた。

「さっきから、なにちんたらやってるのよ。

逃げてばっかりじゃない」

「だから、今大事なチャンスだったのに!」

ブルーは魔王に背を向けて少女に怒りをぶちまけた。魔王に向けられた背中には少女の足跡がくっきりと付いている。

ブルーに対して少女も怒りが爆発した。

「よく口答えできるわね!あんたが魔王をさっさと倒して定職に就かないせいで、こっちはどんだけ迷惑してると思っているのよ!」

「しょうがないだろ!魔王、ちょー強いんだから!簡単に倒せたら、誰が先に倒してるよ!」

魔王を無視して勝手に話しは進んだ。すると、突然、魔王が雄叫びをあげた。

「ちょっと魔王さん、黙っていてもらえますか」

ブルーはうるさい魔王を一喝した。

「おい!魔王に、さん付けるんじゃねーよ!雰囲気ぶち壊しだろ。私は、目の前で無視されるのが一番嫌いなんだよ!大体、その女は誰だよ」

少女は呼ばれて、世界を支配した魔王を目の前にして、臆す処か堂々と立ちはだかった。あまりの堂々とした姿に魔王の方が少したじろいた。

「初めまして、私は聖なる神の御加護を承った天才僧侶ことアンナよ!特技は癒しの魔法、弱点はイケメンかな」

アンナがはにかみながら自己紹介を終えると、ブルーは砂まみれの顔で、

「自慢の鬼嫁です」

魔王に向かって、誇らしそうに親指を立てた。

「誰が鬼嫁ですって!」

アンナはブルーの後頭部を乱暴に踏みつけた。そして、魔王を指差すと、

「魔王め!私が出てきたからには、あなたの悪行も今日で終わりよ!」

「奥さんあのね。DVしてる人に悪行とか注意されたくないわ」

魔王はアンナの発言に顔をしかめながら言った。

「私を侮辱するなんて許せない!」

アンナの眉間の皺が険しい渓谷のようにそびえ立ち、顔が真っ赤に染まった。

「大体、あんたのせいで、私達、こんな辺境の地まで来てるのよ!批判するなんて許せない!しかも、批判の仕方も中途半端に生ぬるいし、もう、全てがイライラする!なんで、魔王の肩の所が少し汚れているのよ!」

アンナはヒステリックに吠えまくった。

魔王は驚き、異常者を見るような目で、黙って見ていると、アンナは吠え飽きたのか、今度はブルーに近づき、

「いいブルー!正面から切りかかって魔王の隙を作りなさい!」

「正面だって!ノーガードで魔王の攻撃を受けろと、そうおっしゃてるんですか?」

ブルーは振り返り、先ほどの魔王の攻撃の余熱で蒸気が上がる荒れ果てた大地を見た。

「うるさいわね!私に逆らうつもり?」

「逆らうとかじゃなくてさ」

「大丈夫ちゃんと作戦あるから」

「その作戦が成功する頃には、俺は、あの世だぞ」

「ごちゃごちゃ言わないの!」

ブルーは耳を引っ張られ、魔王の正面につき出された。そして、思いっきり背中に蹴りを入れられ矢面に立たされた。

ブルーは、魔王と対峙する恐怖に震えると同時に、横暴なアンナへの怒りに震えた。

「鬼嫁の前では全ての事が正当化されるのか。否!そんな事は有ってはならん!」

ブルーは振り向きアンナを睨んだ。

「あんた、殺されたいの!」

すぐさま、アンナが睨み返した。

「やらせて頂きます!」

ブルーは背筋は伸び謙虚な姿勢になる。

「謙虚でよろしい!」

ブルーは魔王を目の前にして謙虚な態度で勝てるのかと、疑問を持ちながらも、魔王の前に立ちはだかった。そして、剣を構えたが、剣先はプルプルと震えた。

「待たせたな」

「私を舐めてるのか!この魔王を前に仲間割れとは、随分余裕だな」

ブルーは余裕なんてあるわけないと思った。前門の虎、後門の狼という最悪の状況だ。ただ、もう逃げ場なんてないと認識すると震えは止まり、急に周りの雑音が消えた。

魔王はブルーの構えを見て、一瞬自分が切られている所を想像して、にやりと笑った。

「舐めていると言ったことは訂正しよう。迷いのない良い構えだ。見られているだけで針に刺されている気分だ」

ブルーは魔王に誉められたが、聞こえないかのように無言のままだ。

すると、魔王は、

「俺様の部下を倒して、この魔王城まで来ただけの事はあるな。だが、その集中力が仇となる時もある」

ブルーは、弓のようにパンパンに張った太ももの筋肉を解放し地面を蹴ると、矢のようなスピードで前に進んだ。

魔王の口角が少し上がり微笑した。

ブルーは何かに気が付き急いで止まった。

「もう、遅いわ!」

魔王の頭上には、夫婦喧嘩の最中に作っていた特大のエネルギーの塊が浮いていた。

ブルーの顔が真っ青に染まる。

魔王は空に向けて手をつき出すと、ブルーに向かって降り下ろした。

巨大な城くらいの大きさの漆黒の球体が地面を削りながらブルーに向かって突き進んだ。

魔法障壁では塞ぎきれない。移動魔法で逃げるか。いや、逃げ切れない。

世界を救う唯一の存在であるブルーの体は闇に覆われた。そして、体は勢いよくぶっ飛んだ。地面に何度も体を打ち付けてようやく止まった。ブルーは時を止めたかのよう沈黙した。

「コラコラコラ!なにやってるのよ」

アンナは険しい顔でブルーに駆け寄った。

鬼のような顔のアンナを目の前にしてブルーは慈悲を乞うように、

「ヤバイあばら骨いかれた」

「大丈夫?あんたレベル足りてないんじゃないの?」

ブルーは心配されて、イライライライラ!と、した。むくりと上半身だけ起き上がった。

魔王はブルーが起き上がったことに驚いた。

「なに!?復活しただと。いや、違う。魔法障壁を張った後に、移動魔法で斜め後ろに飛んでダメージを和らげていたか」

ブルーは、

「ちょっと!作戦はどうしたんだよ!」

近づいてきたアンナを怒鳴った。

「作戦て何の事?」

「俺が正面から切りかかったら、その隙に何かする作戦だったんだろ!」

「そういえばそうだったね、忘れてた」

ブルーは唖然とした。なんだ、その態度は、料理で使う調味料の塩と砂糖を間違えたくらいの軽い反応は!?俺は死んでたかも知れないのに。しかし、これ以上掘り下げれば夫婦喧嘩になると思いぐっと堪えた。夫婦喧嘩を堪えた先が、薔薇色ではないのに。

ストレスで悶えるブルーを目の前にアンナは、

「今のはゴメン、私が悪かったよ」

可愛くはにかんだ。

ブルーは、この魔界には人間は俺一人しかいないと、絶望した。

夫婦の会話を聞いていた魔王が声を発した。

「勇者さん!ちゃんと怒らないと駄目だよ!奥さんあんた酷いよ」

「魔王さん……」

ブルーは、まるで勇者を見るような熱っぽい目で見上げた。

「うるさいわね。魔王は関係ないでしょ。だまってて!」

アンナは強めに言い返した。

「それが関係有るんだよ。話を聞いていると、旦那を何だと思っている!」

魔王は心まで響いてくるような低音で一喝した。

「だってしょうがないじゃない!勇者ていうから、さぞかし強いのかと思ったら、こんな期待外れのゴミみたいな男だったんだから」

アンナは座り込んでいるブルーに向かって持っていた棍棒のような法具を投げようとした。

魔王はすかさずアンナの腕を掴んで止めた。

「ちょっと何触っているのよ!変態!スケベ!」

アンナの罵倒に対して魔王は怯むことなく、握っている腕をさらに強く握った。

「い、痛い、お願い離して」

万に一つも無いと思われていたアンナの弱い部分を見た魔王は、慌て腕を離した。そして、夜、夢にでも出るんではないかと思うくらいのおぞましさを感じた。

ブルーは、

「アンナ!大丈夫かい」

魔王の爪痕が残る腕をとり心配した。

「触らないでよ。気持ち悪い。魔王さんのように強くて引っ張ってくれる人と結婚すれば良かった」

最終決戦の魔王の城とは思えないくらい別世界の空気が流れ、ブルーと魔王は凍りついた。

「ア、アンナ!宿敵である魔王さんに、なんてことを言うんだ」

「うるさいな、貴方には関係ないでしょ」

「関係がない事もないだろ!夫妻だぞ!」

アンナはブルーの制止も無視をして、トロンとした熱っぽい目で魔王を見つめて、一歩二歩と進軍した。

「お、奥さん勘弁してくれよ」

魔王は生まれて初めて恐怖に顔が歪んだ。

アンナは、掴まれた方の手を魔王の頬に当てて軽く滑らせ、艶っぽい声で、

「魔王さんこの後どう?」

「この後てどういうことだ?旦那と俺が対決して旦那が酷い目にあった後の事か!」

魔王はアンナの誘惑に目玉をひんむいて驚き、勇者との間に険悪な雰囲気が漂った。

ブルーは異常な事態に、

「なぜ良い雰囲気になっているんだよ!また、浮気するつもりか!」

魔王はブルーの発言に、さらに驚いた。アンナの方を睨み、

「奥さん!貴方は鬼嫁で、しかも浮気までするのか!?」

「別に簡単にはやらせないわよ、ただでは」

「ただでは!?」

「なに、魔王さん私とやりたいの?」

魔王である自分がこんなに驚いても良いのかと思うくらい驚いた。

「やりたいのだと!?人間からやりたいの、なんて聞かれたの初めてだ! なんて不埒で罪深き人間なのだ!」

ブルーも黙っていられない、魔王と奥さんが不倫となれば、死ぬまで忘れられない地獄のような思い出になると焦った。

「なんて事をいうんだ。よりにもよって敵である魔王に向かって!」

ブルーは感情を爆発させてアンナに詰め寄った。

「だってあんたじゃ絶対に魔王さんに勝てないし、しょうがないじゃない!」

「そんなことわからないだろ!」

「わかるわよ、攻撃もワンパターンだし、夜もワンパターン、とりあえずデンマしとけばいいと思って……」

「こらこらこら!魔王さんの前でなんて事を言うんだ!」

ブルーは顔を真っ赤に染めて、魔王の前では本気で言ったら駄目な事だと伝えようと身振り手振りで訴えた。

「私の勝手でしょ」

アンナはブルーにそっぽを向いて不機嫌そうにすると、魔王の方を見て楽しそうに、胸が潰れるくらい密着して、

「魔王さんだったら私は別にタダでもいいよ」

魔王は慌ててアンナを腕で押し退け、距離をとり、

「奥さん浮気はよくないぞ」

と、たしなめた。

「だってこの人も浮気したからね」

アンナは、誰よりもブルー気持ち悪さを知っているような嫌悪感丸出しの顔で見つめた。

世界を救う絶対的正義の背徳行為に、魔王は腹正しく思った。

「浮気は駄目だろ勇者なのに、そこは絶対に冒険したら駄目!」

集中攻撃に対してブルーは、まっすぐアンナを見つめて、派手に呆れて見せた後に、イライラした感じで話しをした。

「それは結婚する前だし、あの頃は勇者にもなってなかった村人の時で、幼なじみの女の子と飯にいっただけだろ。何年も前の解決した話し、なんで持ち出すかな」

今まで腰が低い奴が、魔王の前で調子に乗って歯向かって来たことに、アンナは一瞬驚きで呼吸が止まる。そして、マグマの如く熱い怒りが吹き出す。

「私は、今思いだしたの!思いだしたらイライラしてきた!こいつ、殴っていい?」

アンナは持っていた鉄製のロッドを振り上げた。

いつもよりも、テンションが高いアンナを目の前に、ブルーの足はガクガクと震え、魔王の背中に、すっと隠れた。

 敵である自分の背中に隠れる不甲斐ない勇者に、魔王は、

「お前ら一体何しに来たんだよ。家庭の問題解決できないのに、世界を救える訳がないだろ!ここにきてからの一時間お前らの夫婦間のいざこざしか起きてないぞ」

アンナは急に黙り、視線を下に落とした。

「わかったわよ。もう決着つけましょ」

魔王の背中に隠れたブルーは迫力のあるアンナの姿に怯えながら、

「やるのか」

「やらないわよ。離婚よ」

魔王は、良くない展開になったことに責任を感じたのか、気まずい顔で、

「ちょっと、奥さん」

と、呟いた。

ブルーは衝撃的な発言を前に納得できない様子で、

「離婚なんて軽々しく口にするんじゃない!結婚する際にどれだけの人に迷惑かけたと思っているんだ。王様に頭を下げて城を貸してもらったり、冒険を支援してくださった方に遠くから遥々お越し頂いて、そんな方々になんて言うんだ!」

「なによちんけな挙式だったじゃない」

「ち、ちんけて……」

ガックリとブルーは肩を落とす。世界を照らす一筋の光である勇者という存在がここまで落ち込んでも良いのかと思うほどの落ち込みを見せた。

見かねた魔王は、

「奥さんそんな事は言わずに、結婚式を小さなながらも挙げたのは、彼にとって人生で一番の誇りなんだから認めてあげないと」

「魔王さんそこまでじゃないです」

「え!」

 フォローしたのに、結果的に馬鹿にした感じになり、魔王は気まずそうにした。

「魔王、粋だね」

アンナは無邪気な子供のような笑顔で魔王を茶化した。

「粋だねじゃねーんだよ!奥さんのせいでこんなことになっているんだから」

「酷い!さっきから、私ばっかりのせいにして」

アンナの目が潤み、大粒の涙が大地を潤し始めた。

「泣くなよ情緒不安定か!面倒くさい女だな!旦那さんもビシッと言わないと!勇者でしょ!」

怒られて、しょぼんとするブルー。

魔王は強引にブルーを引っ張りアンナと対面させた。

「どの道、離婚になるぞ。ガツンといったれや!」

このままでは離婚になるという事実がブルー背中を押した。

「わがままばかり言うんじゃない!」

魔王もこれ以上この話題で時間を費やしたくないと強引に話を進める。

「ほら、奥さんも旦那さんに謝って!」

「うん。わかった。でも、私寂しかったの辛い冒険で先は見えないし。私が悪かったけど、寂しい気持ちにさせたのはそっちの責任なんだからね。それは謝ってよ」

「奥さん、いつの間にか謝らないことになってますよ!」

「そっちが先に謝ったら謝るわよ」

「もういい!お前ら帰れ!世界征服も禁断の儀式はもうやめるから!」

魔王は立場も忘れて匙を投げた。そして、有無も言わさずブルーとアンナを魔王城の外に追い返した。魔王は疲れた顔で魔王城の扉を、開き中に入った。

中は宝石箱のようにきらびやかな世界が広がっていた。

魔王が一歩進む度に、城内にいる魔物か、盛大な拍手が送られた。一番奥の玉座の横にいる 一際大きいな宝石を大きいな胸元に光らす、美しく、そして、残酷そうな少女が立っている。

魔王は真顔で彼女に向かって、

「結婚式はやめよう。これは禁断の儀式だ」

「親戚も呼んでるのになにいってる」

少女は魔王の頭を殴った。



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