面接までの道のり
「俺が案内するのはここまでだ」
おじさんはそう言うと、屋敷の玄関と思しき場所まで僕を案内してそのまま門の方へと戻っていった。
僕をこんな広い玄関で一人残されるとなんか落ち着かないなあ。どんな人が来るんだろう?
僕がここに待たされてから15分ぐらいたった。しかし、まだ誰も来ないのはなんでだろう?もう時間立ちすぎて緊張をあまり感じなくなってしまっている、慣れって怖いね。
僕がそんな風にくだらないことを考えていると、遠くのほうからこちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。やっと誰かきたのかな?
目の前にある階段から降りてきたのはハーフパンツにタンクトップを着たラフな格好をした女の子だった。
「どなたですか?」
へー、綺麗な子だな、見た感じ中学生ぐらいだと思うけど
「返答する意思がないようなので不審者として通報しましょう」
「わああ!待って待って、言うよ、名前言うから通報は勘弁してください」
僕はあわてて自己紹介をした。
「僕は三日月幹也って言います、家庭教師募集とネットでみて来ました」
少女は少し思案をすると
「聞いてませんね、やっぱり通報しましょう」
それを聞いて僕が最初に考えたことは、あの守衛のおじさんをどうやって復習するかである、あのおじさんは俺のことをだましたんか?
そういろいろ考えていると、僕の思考はおじさんへの復習から、どうしようという思考に変わっていき、気がつくとパニックを起こさないのが不思議なほどうろたえていた。
そんな僕の耳にクスクス笑う声が聞こえてきた。何事かと思って音のした方向を見ると、少女が右手を口元に持っていって笑っていた。
「すみません、冗談です、でも反応がとっても好かったですよ」
笑った顔もとても可愛くって、言われた冗談も許してしまえるぐらい可愛くって。自分がロリコンなのでわないかという疑惑に駆られてしまった。いやいや、僕は健全だよ。
「なんだ冗談だったんだね。えっと、君は?」
「ああ、ご紹介が遅れました、私は麻桐幇歌といいます。立ち話もなんですし、面接をする場所にご案内しますね」
「ありがとうございます。麻桐さん」
僕がそう答えると
「この家では名字で呼ぶことはおススメしませんんw、だってみんな麻桐なんですから」
ああ、そういえばそうだったな。でも女の子を名前で呼んだことないしな。変な声にならないといいけど…
「わかりゅまひゅた…」
思いっきり噛みました。恥ずかしさで死ねるかもしれない。
目の前の幇歌さんは噴出さないように堪えているのか肩を振るわせている。まあ、ここまで笑われると逆にスッキリしてしまうかもしれない、そう考えると別に道化師になってもよかったと思えてしまう。
「では、純粋な疑問ですがあなたはどうして家庭教師になろうと思ったんですか?」
そう訊ねてくる幇歌さん、いやしかし声も綺麗だな、もう惚れてしまうかもしれない。いや、相手とはほどほどに歳離れてるかもしれないんだ。落ち着け僕
「そうですね、ちょっとやむをえない事情で今月生き残れないかもしれないので、臨時でバイトをしようと思ったんです。それでどうせするなら、そんなにたくさんの人と関わらない家庭教師にしようと思ったんです」
これは嘘偽りのない僕の本心である。そりゃあ、最初はもらえるお金が多いからと思っていたけど、こっちなら、人とはそんなに関わらないと思ったからである
「へえ、そうなんですか。できればその事情の方を教えていただけますか?」
やっぱり聞いてきたか、これはあんまり教えたくないんだよなあ。
僕がそう考えていると幇歌さんがこちらをクルリと振り向いてきて
「あの、教えていただけないんですか?」
と聞いてくる、何この可愛い生き物、何でも教えてしまいたくなっちゃう…待てよ、あんな情けないことをこれからお世話になるかもしれないところで暴露するわけには。しかし可愛い、もうたまらん、襲っちゃいたいぐら
「落ち着け僕うううぅぅぅ」
そう叫びながら僕は床にヘッドバットを開始した
「立ち去れ煩悩!」
そのまま頭を打ち続けていると、出血した気がするけど少し落ち着いた
「スイマセン、それはちょっと言えません」
僕は血まみれの頭をドン引きした幇歌さんの方へ下げながらあやまった。
「いえ、大丈夫ですよ。そんなに言いたくないことだったんですか」
「ちょっとあれは恥ずかしすぎるので、勘弁してくれると嬉しいです。」
幇歌さんはわかりましたと言うとそのまま前を向いて歩きだした。僕を面接する人って一体誰なんだろう。やっぱり幇歌さんの親なのかな?
ふと幇歌さんが足を止めた。僕はうつむき気味になっていた顔を上げた。目の前には他の部屋の扉よりも少し大きめの扉があった。なるほど、ここに僕の面接官がいるのか。
今更緊張なんてしていない。あるのは当たって砕けろの精神とこの面接を乗り切れば幇歌さんと定期的に会えるかもしれないという微妙に下心のある考えで、決してここでバイトできなければ路頭に迷うかもしれないなどという恐怖心ではなかった。
「では開けますね」
幇歌さんがそう言いながら扉に手をかけて扉を開いた
向かい側に窓でもあるのか開けると逆光になる形で視界が白く塗りつぶされていく。思わず僕は手を自分の目の前にかざした。
扉が開き切り、目が慣れるにつれてかざした手を下げる
ちゃんと目が慣れると部屋はやっぱり向かい側に窓があり、そこから十分すぎるほどの光が取り込まれている。部屋の真ん中には向かい合うように設置されたソファ、その間に高さの低い机が置いてある。窓から取り込んでいる光をバックににして座っている人物がいる。逆光のせいで座っている人物のシルエットしか見えない。
「お母さん、この人は合格ですよ」
へ?合格?ここに着くまでが面接だったって事?そういえばいろいろ話してたからその間になにか重要な質問でもあったのかな?
「おめでとうございます、1次試験は合格です。次が最後でお母様との面接です」
幇歌はそう告げると部屋から退室していった。残された僕は何をすればよいのか分からずに途方にくれるしかなかった。