バイトのきっかけ
グシャッ!
僕は買ったばっかりのアイスを落としてしまった、なんで落としたかって?
向かい側から歩いてきた小さな女の子の振り回した手が、俺のアイスを持つ手に当たったからである。
その結果アイスは俺の手からすっぽ抜けて、宙を舞って地面にたたきつけられてしまった。
さっきまで元気に友達と騒ぎながら楽しそうに歩いていた女の子は、いまやシュンとした様子でうなだれてしまっている。
「ご、ごめんなさい」
女の子は泣き出しそうな顔であやまってくる。こんな泣きそうな様子の女の子を前にして許さないという選択肢を取るやつは鬼畜だと僕は思うね
「一番安いやつだから気にしなくていいよ、でも今後は気をつけてね」
実は嘘である、ホンとは一番高いアイスを奮発して買ったものである
「う、うん、でもそれ一番高いやつじゃないの?」
「いやいや、ほんとに気にしなくていいから」
そういうと女の子はお礼を言いながら立ち去っていった。
さて、これからどうしようか。アイスの落ちたところを見ると、近くに高そうな靴があって、その靴に高そうなスーツをはいた足が包まれて、そのスーツにもアイスが落ちた際にとんだであろうシミができてしまっている。さあ、そこから視線を上に上げてみよう。
視線を上げると上下しっかりとしたスーツ姿で、おそらくオーダーメイドの品であることが伺える。着ている者の表情は明らかに怒りの表情を浮かべている。
ああ、この表情は明らかにあっちの、怖い世界の人間ですわ、そんなにカリカリしてたら人生損しちゃうぞ。
「ほうほう、少年はもちろん弁償してくれるんだよな」
ニッコリとおじさんは笑いかけてくる、やっぱりこの人は優しい人なんだ、よっかたよかった
…………。
僕は今銀行に来ている、なんでかって?そりゃあ、スーツを弁償するためのお金を下ろしに来たのだ、親切なおじさんは俺の払える範囲での弁償を求めてきたからである。
いくらぐらいになるのかを、おじさんがスーツを買った店に連絡して見積もったら、ざっと15万ほどかかるみたいです、ハイ。もちろんそんな大金を学生である僕が払えるわけもなく、小遣いの9割を弁償金として渡すことになった。また僕のお金が飛んでいくのか。
僕…三日月幹也はこんなことがしょっちゅうおきる。というよりも、周りにいる人に運を吸われている気がする。たとえば…
友人とくじを引くと僕は必ずといっていいほど凶以下で友人は中吉以上を引く、しかもそれは僕の引くくじが低ければ低いほど友人は高いものを引くし、教員から嫌な仕事を任されそうなときは必ずといっていいほど僕を選んでくる、学校側からの僕の評価は低いのにかかわらずだ。
うむ、他にも犬にマーキングされたり、痴漢に間違われたり、行列に並ぶと目の前で必ず品切れになる、朝早くから店に並ぶとその店が臨時で休みになってしまう。まだまだある。
そんなことばかり起こるから、友達は作らなくなったし、極力誰かといることを止めた。
だが、僕のうわさを聞いてるやつは俺に近寄ってくる、どいつもこいつも下心が丸見えである。
だから、大学は遠い田舎の大学に行くことにまでした。おかげで、気ままな一人暮らしである、ボッチ生活は最高だ!
しかし、困ったことが今できてしまった、3日前に親から仕送りがあったばかりなのに弁償という形で仕送りのほとんどがなくなってしまったのである。
どっかに日雇いのバイトでもないかな…
そうだ、家庭教師でも始めてみようかな。これでも頭は――友達がいなかったから――いいほうだし、うまくすれば結構稼げるかもしれない。でも僕は他人とあんまり関わりあいたくない、この精神と幸運拡散体質のせいで、高校の先生方からの評価も低かったんだけどなあ。
でもこっちのほうに俺のことを知っている人間なんて、いやしないだろうからな、きっと大丈夫だろう
じゃあ、さっそくネットで探すとしよう
探してみると意外とあるものだな、近場に家庭教師を募集している家があった。
条件が意外と厳しかったけど、一応全部合格していたので喜び勇んで家庭教師をするための面接を受けに行くことにしよう。
えっと?ここで合ってるのか?やたら立派なお屋敷があるんだが…てかこういうところの家庭教師って、一般の人間じゃなくてもっといい人使うもんじゃないのかよ!?
僕はいつまでも門のところで佇んで動かないのをみて、門の近くに設置された建物から守衛と思しき体格のいい30代ぐらいのおじさんが出てきて
「ほらほら、観光地じゃないんだから、用がないんだったら早く帰りな」
めっちゃ睨んできながらそう言ってきた。これってもう僕疑われてる?
「えっとここの家庭教師の募集を見てきた者ですが…」
うわあ、守衛さんメッチャ訝しげな表情してるよ。何これ怖すぎる
「名前のほうを確認したいので教えてもらえませんか」
言わなきゃいけない雰囲気だ、ここで言わなかったら不審者としてしょっ引かれるんだろうな。
「僕は三日月幹也です」
僕の名前を聞くと守衛のおじさんは首をかしげて
「今日は家庭教師が来るとは聞いていますが、そのようなお名前ではなかったと思います」
え?どゆこと?
僕が呆然としているのを見た守衛のおじさんは
「まあ、とりあえず一度確認してみますので、しばしお待ちください」
そういうと守衛室に取り付けられている電話でどこかと連絡を取り始めた。おそらくは本館の人物だろう。
これで場所の間違えだったらやっぱり不審者として捕まるのだろうか、そんな不安感が僕の中で渦巻いている。今のうちに逃げてしまおうか。いや、それだと仮に家庭教師の件がホントだとしたらせっかくのバイトできる可能性がおじゃんになってしまう。
僕がそんな風に悩んでいると守衛のおじさんが戻ってきた。
僕は緊張で体を強張らせていると
「うん、一応これから面接ってことになっているようだな」
よかったここであってたんだ。でも、こんなにデカイ屋敷の家庭教師が僕なんかでいいのかな?
「その前に、中に通す前に一つ質問してくれと頼まれた。回答しだいでは追い返してくれと言われている」
こうくるなんてな、この世の中がそう簡単にいかないことぐらい予想済みだよ。
「では、質問内容を言うぞ」
さあ、ドンと来るがいい!
「三日月幹也君、君は…一人暮らしかい?」
僕はおじさんの言った言葉の意味を聞き間違えたのかとおもった。だけど、おじさんの様子を見る限り、間違いではないようだ。あれか?やっぱり僕は不審者として処分されるのか?いや、何かの条件かもしれないから真面目に回答するべきなのか?
…よし、決めた。どんな結果になろうがホントのことを話そう。
「僕は一人暮らしをしています!」
なんかすごい全力で返答してしまったけど大丈夫かな?
「・・・」
何この沈黙、怖すぎるよ。
「ついてこい、君を客間へと案内しよう」
今の返答であってるみたいでよかった…いや、待てよ?実はこれは別のところに案内されていて幽閉とかされるんじゃ…いやいや、そんなことある分けない…ないよね?
僕はそんな不安感を胸に押し込んでおじさんについていった。
これはもともと連載予定のなかったものが気がついたらこんな形になってしまったものです。そのため、気分が乗ったら更新される形になります。なので不定期での更新です