表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/21

   主様と僕。

「おい、ちんくしゃ」

「何用でございますか、宮部殿」


 お昼時間。私は会社の裏にある林の樹木で昼食をとっていました。といっても、握り飯一つですが。あとは、練った丸薬で栄養補給をする簡易な昼食です。そこに、宿敵がやってきました。こんな林の中に。


「なんで風を使わなかった」

「愚問です」


 忍には、自然の力を借りて意のままに操れる術が使えます。風もまた、その一つ。しかし、その力は非常に強いもの。


「風を使えば、相互が傷つきます。女性にけがをさせるわけにはいかないですし、それを見て主様の御心を乱すわけにはいかないのです」

「へえ、そう」


 ……何しに来たんだ。

 心眼術で相手を探るほどでもない。しかし、警戒するにあたる人間だ。


「何かご用でしょうか。あと五分で主様がお戻りになりますよ」

「あ、いや…」


 歯切れの悪い返事。うぬぬ、何か策でも…。


「では、失礼仕る」


 闇に溶け込むように消えていく私を、宿敵はずっと見ていました。気持ち悪い。やはり、嫌いです。

 社長室へ姿を現すと、専務が失神しそうなほどの大声を上げられたので、瞬時に口封じをしてしまいました。ああ、とっさの判断とはいえ、ご無礼をいたしました。


「千景ちゃん~」

「守屋殿、申し訳ごさらん」

「’前’もそうだったよね。僕、いつもいつも…」


 縁は、切れない何かがあるのでしょう。九条院グループの専務・守屋もりや敏様としたか様は、前世では主様の筆頭家臣でした。昔と変わらぬ屈強くっきょうなお体を保たれておりますが、こう見えて御年50歳。お若いです。

 守屋様は、忍である私にそれはそれは御親切にしていただきました。まるで娘のように。しかし、前世では不運なことにとある戦で命を落とされ、主様の落ち込み様は見ていて痛いものでした。しかし、輪廻転生りんねてんせいことわりでこうしてめぐり合い、今は主様にお仕えできることがうれしいと常に仰っております。これも、紫弦さまのご人徳です。


「紫弦様は?」

「もう少しで戻ってくる」

「では守屋殿、主様によって来る寄生虫どもをどう処分しましょうか」


 ああ、私は矛盾だらけの女です。主様の奥方問題を憂い、おなごには優しくをモットーにしているのですが。群がってくるあの寄生虫の処分方法を模索している。……きっと、英語で言うならjealousyジェラシーでしょう。


「あ~やっぱり、お嫁さん?!」

「ご結婚には興味がないご様子」


 うん?! なぜだ。なぜそんな目で私を見つめるのですか、守屋殿。憐みと悲しみと少々バカにするような目で私を見ています。思わず眉間にしわができました。


「はあ、そうだね。千景ちゃん幸せだね。でも…かわいそう」


 なんですと!!

 カチンときましたが、感情の波を作らないのが忍の鉄則でした。あの『jealousy』や守屋殿へのカチンも、水に流して平静を保ちましょう。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ