主様と僕
着替えを澄まして、主様を待つために玄関口へ向かう。
「あ…」
すると、そこには我が宿敵かつ世界で一番嫌いな男がおりました。
「よう。ちんくしゃ」
「……」
相手にすればバカにされるので無視。この男、宮部渉は主様のビジネスパートナーです。そして、前世ではなんと敵対していた宮部家御当主様でした。しかし、それは昔の話。好敵手として、前の世界で主様から高評価を受けていた方が、現世では主様をお支えしている。私は心中複雑かつ薄れぬ敵対心を持っているのですが…。主様は違うようです。そもそも、この本邸に上がれる人間はごく限られており、会社では唯一許されている存在。ああ、人生どうなるかわかりませんね。
「秘書が務まるのか心配だ。忍者バカはそれしか芸がないしな」
「……」
「時代遅れもいいところさ。思考までかたっ苦しいしなあ」
何を言われようとも無視。影に喜怒哀楽は不要だ。しかし、前から全く進歩のない方。人に絡むときに第一声が悪態です。幼稚さがますます嫌いな要素でもあります。
「……はあ。今日も無視かよ」
大げさに肩を上げる。何がしたいのか理解不能だ。
「おまたせ、千景、渉」
「主様」
主様の気配を察知し、さっと膝をついた。――ああ、今日もスーツが素敵です。先ほどの打掛もお似合いでしたが、洋服もいい。
そんなことを考えていたら、あることに気が付いた。 ……喜怒哀楽よりも、邪念が不要なのかもしれない…。トホホ、修行が足りない忍で申し訳ありません…。
「本日の命を」
「うん。そうだね。千景は私のガードを、渉は今回の商談をまとめること」
「御意」 「了解」
嗚呼。
今日も一日、忙しくなりそうだ。