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少年の声が聞こえたのはそんな時だ。
「あ、こうすると……こうすると痛い」
見れば、少年は左手を肩の高さまであげて顔をしかめている。
「……」
「いつつ。あ、落ち着きましたか?」
美香子と目が合って、少年は微笑む。
「……言いたい事があるならちゃんと言いなさいよ」
美香子は額に浮きそうになる青筋を手で抑えながら、努めて冷静に諭す。
「言いたいこと? なんだろう?」
少年の日和った態度に美香子の苛立ちはあっさり頂点に達する。
狙うは少年の左鎖骨。がっちり掴んで放さない。
「これよ、これ! これが痛いんでしょう!? これが!」
「いたたたたた!」
「あははははは!」
「は、はなしてください!」
美香子の手をなんとか振りほどいて、少年は荒い息をつく。
「文句があるならちゃんと言いなさい。強請りみたいなことしないでさ」
美香子の顔はどこか満足げである。
「殴られたこと、根に持ってんでしょ?」
「あぁ。そのことでしたか。そんなこと全っ然気にしてませんよ。なぜなら……」
肩を押さえて辛そうにしていた少年がそこでパァっと顔を輝かせる。
「ボクは天使なのだから!」
「……」
「どんな罪も許して差し上げましょう。おっとその顔は信じてませんね?」
「信じてるよ。あなたは天使。対するあたしは死んだ人。も、何でもいいわよ」
投げやりに言う。
「ちゃんと理解されたようですね?」
少年の確認に、美香子は鼻から息を吐いて頷く。