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やってしまった。
よその子をのしてしまった。
美香子は右手に残った感触に眉をしかめる。
相手は見たところ外国の子供。親は恐らくスキンヘッド。
いたいけな女子高生美香子に降りかかる人生初の国際問題だ。
かわいいジュニアが殴られたとあれば、家族想いの奴らのこと、歯に衣着せぬ暴言で美香子をへこますこと請け合いである。
英語が苦手な美香子でもファッキンジャップの意味ぐらい分かる。
「だ、大丈夫?」
とりあえず返事はない。
後頭部から血の気が失せていくのを感じながら、美香子は辺りを見回す。
一ヶ月に一度、わずか半日と制限されてしまった息子との貴重な時間を、黄色い豚めに邪魔されたとあっては、いかに仕事熱心で分別のあるポリスマンといえども、元凶である美香子のこめかみに銃を突きつけないとは言い切れないのだ。
日ごろから「自分は打たれ強い方だ」と自負している美香子だが、今この瞬間においてはそれが何の気休めにもならないことぐらい、どっこいお見通しだ。
熱い砂の上に低く伏せ、美香子は小動物のようにきょろきょろと辺りを窺う。気分はプレイリードッグ。楽しくない。
幸い、いくら待ってもハンバーガーを二つ持ったホントのパパが現れる様子はない。
ほっと胸をなでおろした美香子は、このまま何事もなかったかのように帰ろうか、とも一瞬思ったが、そのためにもこのガキには二、三尋ねなければならないことがあることに気づき舌を打つ。