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「最後はとんだドタバタ劇でしたね」

「……おっと、懐かしい声ね」

 呆然と立ち尽くす美香子の横に、いつの間にか少年天使が立っていた。

「ま、なんつうの? 結果オーライ、みたいな。これはきっと合格ね」

「……そうなのですか?」

「あれ? あたし自身は結構がんばったつもりなんだけど……。ねぇ? 天使らしかったでしょ?」

「最後のが、ですか?」

「違くてさ」

「分かってますよ。ん~そうですね。最終的に自分のことではなく、他人の幸せを考えて決断した、と」

「そそそ。え~っと、そう自己犠牲」

 少年天使の顔を指さして喜ぶ。

「当たり前のことをしただけじゃありませんか?」

「……え?」

 笑顔のまま固まる。

「あなたは天使なんですから、あんな長々と悩む方がおかしいのですよ」

「で、でも天使としては合格でしょ?」

「天使に合格も不合格もありません」

「え、これって適性試験じゃないの? 天使の」

「なんですか。それ?」

「なんですかって、そりゃ……」

 美香子は一つ咳払いをして続ける。

「あなたはこの無人島で実によく天使らしい行動をしました。よってここにあなたが今後天使として活動することを認めます。ほんとによくがんばりましたね。さ、このわっかをどうぞ。……ありがとうございます! 美香子一生懸命がんばります。パパ、ママ! あたし今日から天使なの! おめでとう美香子。父さん誇らしいよ。おめでとう美香子。母さん誇らしいわ……って言う」

「そんなのありませんよ」

「えええっ! じゃどうしたらこの島から出てよくなるの?」

「いや、だから最初に言ったではありませんか? 目的が達成されない限りあなたはここから出られませんって。そしてその目的とはこの無人島を人も住めるような豊かな島にすることです、と。さすがに一年以上前のことですから細かい所まで記憶してませんけど」

 美香子はへなへなと座り込む。

「た、確かにそうだったわ。どこで勘違いしたんだろ?」

「納得していただけましたか?」

「納得っつうか、なんつうか。そもそもなんであたしは天使にされたのかな?」

「それは、あれです。世の中には、なんと申しましょうか、底意地の悪い人っているではありませんか。このまま生かしておくといいことないなぁっていう人。そういう人を……天使にしているわけではけしてありません」

 今ものすごく不自然なものの言い方をした。

 少年天使が慌てて手を振る。

「違います。本当ですよ。僕は天使なのでウソがつけないのです!」

 ウソをついてはいけない。

 ウソをついてもすぐばれる。

 今のはどっちの意味だ?

 すごく後者っぽい。

「あたしは生きてちゃいけませんでしたか?」

「ま、元気出して、がんばってください! 道のりはまだまだ長いですよ? ハハハァ」

 その態度が美香子の予想を肯定している。

「おっと、僕はこんなことを言いにきたのではありませんでした。これ、あなたのご両親や学校のお友達からのお手紙です」

「へぇ?」

「あなたの遺体とともに棺桶に入れられていたものです。燃やしたら最後、読めなくなってしまうので、僕が取っておいたのですよ。よかったですね。予想に反してこんなにたくさん」

「……ありがとう」

 美香子はものすごく不満そうにそれらを受け取る。

「確かに多いね」

「ほとんどの人が付き合いで書いたみたいですよ」

「大きなお世話だ」

「内容は八割方ゴボウを食えとか、食物繊維を摂れというアドバイスでした」

 いきなり読む気がなくなった。

「それでは、またそのうち来ますので。こう見えて結構忙しいのですよ。僕は」

 少年天使は言いたいこと言って、音もなく消えた。

 手元には多分読まない手紙。目の前に広がるのは、準一郎に荒らされてむしろ環境が悪化した感じのする無人島。

「……まるで地獄だわ」

 がんばれ美香子。天使の寿命は永遠だ。

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