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 数日の後、波の上に小さな筏がプカプカと浮いているのが山の上からも確認できた。準備万端整ったのだろう。今日中に出航する気かもしれない。

 美香子は案外冷静だった。人がいなくなるのは確かに寂しいが、もう迷いはない。

「……最後のお別れでも、しようかねっ!」

 ひざを打って勢いよく立ち上がった。

「……? あれ?」

 山を登って来る準一郎の姿が目に入った。久しぶりに見るヒゲ面はいつもより若干強張っているだろうか。

 準一郎は美香子の前を素通りし、山頂に立って深呼吸をする。

「……ついにこの島ともお別れかぁ」

「寂しくなるね」

 美香子は肩をすくめる。

「食料も水も十分にある。大丈夫だよな? え? 準一郎よ」

 準一郎のひざががくがくと震えだした。

「……大丈夫そうには見えないね」

「ちくしょ。なにブルってんだよ。雅美が待ってんだ。止まれよ!」

 震えは止まらない。力が抜けたようにひざをつく。

「……怖いよ。めちゃくちゃ怖いよ。ちゃんと見つけてもらえんのかなぁ。海の上で死んじまうんじゃねーだろーな」

 両手を硬く組んで準一郎は止まらない震えに耐えている。

「神様。いるなら俺を守ってくれよ」

 美香子はあきれたように鼻から息を吐く。

「しょうがない奴ね。じゃせっかくだから天使らしいことでもしてやろうっか」

 準一郎の前に回り込み、そのヒゲだらけの頬に手を添えた。

 ハッとしたように顔を上げた準一郎だが、その目にはやはり美香子の姿は映っていない。

 しかし頬に何かが触れていることは、はっきりと感じているはずだ。

「……よく見たら、あんまいい男じゃないね」

 相手に見えていないと分かりつつも、美香子は優しく微笑む。

「大丈夫。あたしが守ってあげるよ」

 耳元で囁いた後、半開きになっている準一郎の唇に、自分の唇を優しく押し当てた。

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