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「ねぇ。まだ諦めてないの? あんたが来てからもう一年経つんだよ?」

 美香子は洞窟の隅でひざを抱え、少し媚びるような声音で準一郎の背中に声をかけた。パジャマだったものはすでにノースリーブとショートパンツ状態にまで破けてしまっていた。

 一方の準一郎は上半身裸、髪もヒゲものび放題。野生児のような姿で木の皮を依り合わせ、ロープを作っている。筏の重要な部品だ。

「……また嵐とかで壊れると思ってるんだろ?」

 準一郎が静かな声で訊いた。

「当たり前じゃん。あたしが壊すんだから」

「だけど俺は諦めないぞ。絶対にこの島から脱出すんだ。そん時はお前どうするよ。一緒についてくんのか? なぁ、ポン吉」

 準一郎が傍らのイグアナを優しく撫でる。美香子がトップランド少佐と名づけたあのイグアナだ。

 美香子は小さなため息をつく。最近では準一郎の考えることが分かるようになって、彼の独り言に合わせてちょっとした会話を楽しむことが(一方的にだが)できるようになった。しかし最後はいつもこうして虚しい気分になる。準一郎が こちらの存在に気づいていないのだからしょうがない。

「あぁ。そういやお前、彼女いるんだっけな。じゃ連れてくわけにいかないか……」

「トップランド少佐よ」

「待ってろよ。俺、絶対帰るからな」

 準一郎の目は遠くに向けられている。

「……」

 美香子は抱えていたひざに爪を立てる。

「……待ってろよ。雅美」

 耐え切れず美香子は洞窟から飛び出していた。

 夜の林を走り抜けて山の頂上へと駆け上がる。

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