15
美香子は首をひねる。
もちろん海藻の山から出てきたことは分かっている。引っ張り出したのは美香子本人なのだから。しかしその山を築きあげたのも、他でもない美香子なのだ。全身ずぶ濡れであるところを見ると、海難事故の末この島に漂着した、と考えるのが妥当なのだろうが、人間が砂浜に打ち上げられていたらいくらなんでも気づくし、あんな重いもの海藻と一緒に運んだ記憶もない。ましてや海藻が成人男性を生むわけもない。
「もしかして……」
美香子の脳裏に、あの少年天使の人形みたいな顔が浮かぶ。
「そうだ、あいつが連れてきたんだわ。こんなことできるのはあいつ以外考えられない。きっとこれはイベントね、ゲームで言えば。このイベントをクリアできれば島から出れるとか」
どうしてほしいのかはまだ分からないが、これで単調だった島での生活にも多少の彩りがつくだろう。
「……あ」
気がつけば、男は上半身を起こしうつろな目で、寄せては返す波を眺めている。
もう大丈夫だろうか?
「……日本の──」
──方ですよね? そう聞こうとした瞬間、美香子の言葉を遮るように男が声をあげる。
「ここは……ここはどこだ?」
「ね? 落ち着いて聞いて? ここは無人島で……あ、あたしがいるんだから無人島じゃおかしいのか。えっと、じゃなんだろ。……そうだ! ここは天使の住まう島よ!」
やけに聞こえのいい場所になった。
しかし男は、照れて頭を掻く美香子には一切目もくれず、自分の頭を抱えて考え込んでいる。
「確か俺は飛行機に乗っていて……なんか飛行機が揺れだして……墜落……?」
男は呆然と辺りを見渡す。
「ちょっと、おにいさん?」
その途中明らかに一瞬目が合ったと思ったのだが、男は美香子に気づいていないようだ。
下半身に絡み付いていた海藻を乱暴に振り払って男は立ち上がる。
「誰か! 誰かいないのか」
表情に全く余裕がない。彼は本気だ。無視をしているのではなく、美香子の姿が本当に見えていないのだ。
ついには大声で喚きながら林の方へと走り出す。居もしない島の住民を探しに。
「……そうか天使の姿は普通の人には見えないんだ」
イグアナ相手では確認のしようがなかった。
「不安だろうな。あたしの時なんかよりずっと……」