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短めの連載です。
「残念ですが……お嬢さまは……」
医師は小さなペンライトを白衣のポケットにしまいながら、そう伝える。
母親は耐え切れず、ベッドの上で冷たくなり始めた娘の身体に、崩れ落ちるように覆い被さる。
「美香子ぉ!」
悲痛な叫びだった。父親も眉間にこぶしを当てて悲しみに耐えている。
その光景を、呆然と眺めるパジャマ姿の少女が一人。
ベッドに横たわっていたはずの美香子である。
「……え? なんで?」
自分はここにいる。しかしながらベッドに寝ているのも、間違いなく自分だ。
「どうなってるの? ね、お父さん」
声をかけるが父は気づかない。もう一人の美香子を悔しそうに見つめたままだ。
「この子はまだ高校三年ですよ。どうしてこんなことに……」
絞り出した声は震えていた。
「ちょっと……」
恐る恐る父の肩に手をのばす。無情にも美香子の右手は何の抵抗もなく父の身体をすり抜けた。
「え?」
美香子はあっけにとられる。
こんな状況を映画でみたことがあるような気がする。
その映画の主人公は死んで幽霊になってたはずだ。
「……もしかして、あたし――」
と、突然の強風が彼女の顔をぶつ。
思わず顔を手で覆うが、風はすぐにその力を弱め、代わりに潮の香りが鼻先をくすぐった。さらには波の弾ける音まで聞こえてくるではないか。
美香子は恐る恐る目を開ける。その目に飛び込んできたのは暗く沈む病室ではなく、海水浴客のない真夏のビーチだった。