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4章

「亜衣さんも結構慣れてきたね?」

「十セットもやって慣れなかったらそれはそれで問題じゃないかな?」

 鶴賀が部室を後にした後、キキコと亜衣はそれだけの数の対戦を行っていた。戦績は五体五。勝っては負けを交互に繰り返して現在に至る。

「なら、そろそろ組み合わせを変えるか。主に鳳と藤谷のために」

 松町が亜衣の後ろに座る二人を見ながら言った。

 亜衣が二人の助言を必要としたのは五セット目くらいまでであり、六セット目以降は亜衣が「一人でやってみます」と二人に言ったので二人はアドバイザーから観客にクラスチェンジして暇を持て余している。

「そうしてくれるとありがたいわー」

「桐子先輩に同じ。いい加減戦いたい」

「それじゃ、鳳と藤谷、佐治とフランクールで――」

「皆、今帰ったわよー!」

 そこで鶴賀が意気揚々と帰って来た。

 鶴賀は室内の状況を見て『おっ』と嬉々とした声を上げる。

「流石あたし。タイミングが抜群に良いわね!」

「良いと言えば良いけど、そんなに喜んで何か嬉しい事でもあったの?」

 嬉しそうにしている鶴賀に、桐子が気だるそうに尋ねた。

「あるある。というわけで、ちょっと時間もらえる?」

 そこで鶴賀が皆の下に到着して堂々と皆の前に立ち、一度咳払い。

「えー、まずは何の話か分からないだろう佐治さんとフランクールさんのためにちょっと前置きをするわ。マツセンや桐子、朱美は知っている話だから退屈だろうけど我慢してね」

「はいはい」

「分かった」

「あの話か」

 三者三様の返答を返す桐子、朱美、松町。

 鶴賀はそれを受けて話を始める。

「了承を得られたから早速話すわね。あたしが花札界ではちょっと名の知れた選手なのは話したと思うけれど、そんなあたしは個人戦にばっかり出場していたから団体戦に出てみたいなー、なんて事を中三になった時に思ったのよ。だから中三の夏の大会で個人戦は一度区切りをつけようと思い立ったわけよ」

「へー、そうなんですか」

「なるほど。それで高校生になってからは話を聞かなくなったわけですか……」

 亜衣は単純に納得し、キキコは数年の疑問が氷解した。

「でも、赤松生徒会長、一つ聞いていいですか?」

「何? それはそれとして、部活中は部長って呼んでくれると嬉しいわ」

「分かりました、赤松部長。で、質問になりますが赤松部長ほどの選手がそんな自分勝手な事をすればそれなりに話題になるはず。でも、ネットや専門雑誌にもその事に関しては触れていませんでした。それは何故です?」

「それもあたしの我が侭が原因よ。どうせやるならあたしみたいな花札バカと全国目指してみたくてね。そういうわけだから結構社会的に無理を通す事が可能な権力を持っている友達に無理言ってあたしがそういう事を考えている事を含め、自分みたいな花札バカと団体戦に出るって野望も秘密にするように色んな場所に働きかけてもらったのよ。だから情報が出回っていないのよ」

「なるほど。そういう理屈ですか。教えてくれてありがとうございます」

「気にしないで。佐治さんに説明する手間が省けたから。で、佐治さん、さっきの説明であたしというかこの花札部が抱えている事情は分かったかしら?」

「な、何とか……。でも、一つ質問いいですか?」

「何かしら?」

「あの、何故初日を選んだんですか?」

「無名校が強豪を打ち破るっていう事を実際にやってみたかったからよ?」

「何それ、超カッコイイ! 燃える展開キタァアアアッ!」

 亜衣は少年のように目をキラキラと輝かせて感動を露わにした。

「…………」

 一方、キキコは真っ直ぐさと格好良さに感服して上手く反応出来ない。

「二人とも良い反応してくれるじゃない。とまあ、そんな感じで花札部が抱えている事情を分かってもらったところで本題に入るわ。あたし実は部室を抜けたのはこの事を鳳凰堂学院花札部部長の九条紫に伝えるためでもあったのだけれど、その報告済ませたら紫が思いも寄らない提案をしてくれたのよ」

 その瞬間、キキコは嫌な予感がしていた。

 そして誰でも知っている。こういう時の予感は大抵当たる事を。

「実はさ、向こうが「合同練習しましょう」って言ってきてくれたのよ!」

 それを聞いて全員が驚きで言葉を失った。無理も無い。相手はこの地区における二強の一角にして女子ならば誰もが一度は憧れるお嬢様学校の鳳凰堂学院。贅の限りを尽くしたその学校は地上の楽園と噂されるほどである。

 そんな中、キキコだけは違う方向性で驚いて言葉を失っている。

(……こんな形でドッキリ大作戦が潰されるとは流石に予想出来ないよ……)

 その実、キキコは今話題にあがっている九条紫は幼い時に顔を合わせており、それでいて花札を教えてくれた人であり、離れていても寂しくならず、再会出来る日を楽しみにしているという事で菊に盃をはめ込めるように作られた特注のロケットネックレスにして渡してくれた人物だったりする。

 そんな人物であるため、ちょっと驚かせてみようかなと思って日本に戻って来ている事を伝えておらず、地区大会で再会するなどというドッキリを計画していたのだが、その計画はかなり早まってしまう事になってしまいそうである。一応見た目はガラリと変えているが、見た目を変えたところで名前が知れれば気取られてしまうのでどの道予定していたドッキリは成功しそうにない。

「キキコ、大丈夫?」

 亜衣に話しかけられて、キキコはハッとして我に返った。周りを見渡して見れば、全員の心配そうな目と目が合った。

「あ、う、うん、大丈夫。何でも無いから心配しないで」

「そういう人って大抵何か悩みを抱えてるもんだよ?」

「だ、大丈夫! 本当に! 何も抱えていないから!」

「無理に否定するところがますます怪しいなー?」

 亜衣は疑念の顔のまま、不意に立ち上がったかと思えば、キキコの背後に回り、

「うりゃ!」

 キキコの脇腹を問答無用でくすぐり始めた。

「ちょ! あ、亜衣さ……やめ! あは、あはは! お願い……あははは!」

「やめて欲しかったら吐く事だね! さあさあさあ! 何を隠してるの!?」

「な、何もあはは……! 隠してなんてははは……! 無いって……はは!」

「強情だなー! あんまり強情だと……うりゃうりゃ!」

 亜衣は悪戯っぽく言いながらより激しくくすぐる。

「ちょ! 本気でははは! 洒落に……あははは!」

「佐治さん、加勢するわ」

 そこで鶴賀が悪そうな顔をしてそんな事を言った。

「え、ちょ!? 赤松、あはは! 部長!? あははは!」

「ごめんね、フランクールさん。今のあたしは好奇心の塊よ!」

「威張って言える事じゃないです! あははは!」

 笑い悶えるキキコ。

 そんなキキコに更なる試練が与えられる。

「私も興味があるから加勢するわ」

「私も凄く気になる」

 平然と悪魔じみた事を言って立ち上がる桐子と朱美。

 流石に無理なのでキキコはついに観念する。

「わ、分かりははは! ましたははは! 話します、あははは!」

「最初からそう言えばいいんだよ」

「全くね。そうすればこんな目に遭わずに済んだのに」

 くすぐっていた二人はまるで悪びれずにそんな事をのたまった。

「はあ……はあ……酷い目に……あった……」

 キキコは乱れた息を整えつつ、乱れた制服を整えつつ、松町を見る。

「松町先生……どうして止めてくれなかったのですか?」

「どうしてって……おいおい、フランクール。男の俺にあの状況に制止を呼びかけろというのはあらゆる意味で無理な話だぜ?」

「変態教師ってこれから呼んでもいいですか?」

「教師のところを紳士にしてくれるなら別にいいぜ?」

「変態というのは認めちゃうのですね……」

 キキコは怒る気が失せてそれ以上の追求を止めた。悪びれるどころか臆面も無く一々肯定されるといっそ清々しくてちょっとした格好良ささえある。

 松町は尚も臆面も無く言う。

「悪いが否定は出来ないな。俺は教師である前に男だからな」

「……松町先生、イケメンで良かったですね?」

「全くだ。で、フランクール、お前は何を知られたくないんだ?」

 松町が何事も無かったかのように話を戻した。鶴賀に桐子、朱美、亜衣の四人も「やっと」とか「ようやく」と言いつつ、聞く体勢に入った。

「ええと、実はですね――」

 キキコは自分と九条紫との関係性を掻い摘んで皆に説明した。

「――というわけです。まあ、日本を離れてから一度も顔を会わせていないし、連絡も取り合っていないので向こうが覚えているかどうかは分かりませんが」

「なるほど。だから一人だけ浮かない顔をしていたわけか」

 鶴賀がしみじみと言った。

「ま、そういう事情があるなら喜べないわね」

 桐子も共感して鶴賀を見る。

「ところで鶴賀、この話を鑑みるに紫や満が言っていた女の子ってフランクールさんの事だと思うんだけど、アンタはどう思う?」

「奇遇ね、桐子。あたしも今それを考えていたところよ」

「ど、どういう事ですか?」

 興味を惹かれ、キキコは前のめりに鶴賀に尋ねた。

「何時だったかは忘れたけれど、あたしと桐子は紫の家に招待されてね。で、そこで花札をやる事になったのだけれど、その時にこれ見よがしに花札が置いてあるのに紫はそれを使わずに別の花札を持ってきたのよ。それが気になって聞いてみれば、それはとある機会で仲良くなった女の子が日本を離れる事になったので私達の事を忘れないように、と菊に盃を預けてしまったからって言われたのよ。とまあ、そんな話をフランクールさんの話を聞いて思い出したってわけ」

「そ、それって、つまり……」

 キキコは嬉しさのあまり上手く言葉を紡ぐ事が出来なかった。

「ま、向こうもちゃんと覚えているって事になるんでしょうね」

 桐子にはっきりと言われ、それでキキコは感極まり、涙を流した。

 素直に嬉しかった。純粋に嬉しかった。父の演奏旅行で様々な場所を転々としているために連絡を取り合う事もままならなかったのだが、向こうは十年経った今でもちゃんと覚えていてくれた事が嬉しくてキキコは嬉しさのあまりどうにかなりそうだった。それほどまでに大切で尊い思い出だった。

「良かった……ゆかりんも、ミッチーも……私の事、覚えていてくれて……」

 嗚咽混じりの呟きを聞き、室内にいる五人はキキコが落ち着くのを静かに待つ。亜衣がポケットからハンカチを出してキキコに差し出す。キキコは「ありがとう」と鼻声で言って止め処なく流れる涙をひたすら吹く。



「と、取り乱してすみませんでした……」

 キキコが落ち着きを取り戻したのは、それから三分後くらい後だった。

「いいわ。フランクールさんにとってはそれだけ嬉しかった事ってわけだし」

 鶴賀はフォローした後、頭を荒っぽく掻いてため息をつく。

「それはそれとして、ごめんなさいね、フランクールさん?」

「はい? どうして赤松部長が謝るのですか?」

「いやだって、知らなかったとは言え、あたしは貴女のドッキリ作戦を丸つぶれにしちゃったようなものじゃない? 時期が早くなっただけだけどさ」

「あー、別にいいです。罰が当たったようなものですし」

「罰って別に悪い事してないでしょうが」

「むしろサプライズよね。ちょっと心臓には悪いかもだけど」

 桐子が相変わらず気だるそうな感じで会話に加わる。

「私もそう思う。個人的には嬉しいと思うし」

「僕も同感です」

 朱美と亜衣も各々の調子で会話に加わる。

「いや、そうとも言い切れないだろうさ」

 その時、松町が朗らかな雰囲気を一瞬で凍らせる事を言った。

「確かにサプライズにはなると思うが、大会で知るとなると多かれ少なかれ精神に影響を及ぼすだろう。+に働くにせよ、-に働くにせよ、そうなったら普段通りの戦いは出来ない。だからまあ悪いかどうかなら悪いとも言えるからな」

「私もそれがずっと不安でした」

 キキコがそれに賛同を示した。松町以外の者が驚いてキキコを見る。そんな中、キキコは鶴賀の方を見て言葉を続ける。

「だから、こうなったのは逆に良いかなって思っています。だから、謝る必要はありません。むしろ私がお礼を言いたいくらいです」

「お礼を? どうして?」

「時期が早くなる、と言ったという事は私の名前を部員が集まった時に話題に出さなかったとお察しします。なら、ドッキリそのものは成功しますから。少なくとも名乗らない限り、向こうは私が「キキコ・S・フランクール」だとは絶対に分からないと思いますので」

「キキコ、それについてちょっと質問いい?」

 亜衣の質問に、キキコは首肯する。それを受け、亜衣は言葉を紡ぐ。

「あのさ、さっきもより驚かせるために見た目を変えているって言っていたけれど、それってどういう事? 整形でもしたって事?」

「そうじゃないよ。九条紫さんとは九条家がパパのために開いてくれた出立パーティーの時に知り合ったのだけれど、そういう時どんな格好する?」

「どんなって凄く――あっ! 凄くお洒落していたからか!」

 亜衣は要領得た、とばかりに指を鳴らした。

「そういう事。で、向こうは普段の私を知らないから」

「なるほねー。でもさ、その眼鏡で即バレない?」

 亜衣はキキコがかけている長方形レンズが入った下ブチ眼鏡を指差す。

「平気だよ。これは万一街中でばったり出くわしてもいいように変装用でかけている伊達眼鏡だから」

「え? そうなの? 目が悪いとかじゃなくて?」

「うん。試しにかけてみる?」

 キキコは眼鏡を外し、亜衣に手渡した。亜衣は受け取ってそれをかける。

「あ、ホントだ。度が全然入ってないや」

 亜衣は確かめ終えると、眼鏡をキキコに返却した。

「徹底してるわねー。驚かせるためとは言え、そこまでやる?」

 桐子が呆れと敬服が入り混じった感じの感想を言った。

「どうせやるならちゃんとやろうかと思いまして」

 キキコは返してもらった眼鏡をかけながら答え、話を戻す。

「ところで赤松部長、鳳凰堂との合同練習は何時やるのですか?」

「ん? 話戻っていい?」

「どうぞ。お時間を頂戴してすみませんでした」

「いいわ。それじゃ、話を戻しましょうか」

「待て赤松。それは見学会が終わってからにしろ」

 松町に指摘を受け、鶴賀はハッとした。

「それもそうね。他にも誰か来るかもしれないし」

「来てくれたら嬉しいけど、来るとは思えないから別に良くない?」

 朱美が反対意見を述べると、

「私も同感だけど、ま、待ってみてもいいんじゃない? フランクールさんがクラスメイトに教えたって話なら後々来る奴もいるかもしれないわけだし」

 桐子が共感しつつも妥協案を提示した。

「でも、増えたら鳳凰堂へは何て言うの?」

「その辺は鶴賀の仕事よ。勝手に先走ったんだもの」

「全くだ。そういう話なら止めときゃ良かったぜ」

「分かっているから安心してくれていいわ。とまあ、そんな感じでとりあえず昼ごはんにしない? あたし、朝飯抜いたからお腹減っちゃって」

 そう言った矢先、鶴賀の腹の虫が鳴った。

 それを受け、全員が首肯して昼食の運びとなった。

 昼食の後、部活は再開されたものの、一年生が見学に来る気配はまるで無く、見学会は終了。朱美の予想が当たった事に松町、鶴賀、桐子が『やっぱり』という反応を示し、新入部員であるキキコと亜衣は改めて初日で花札をやる人はいないのだなー、としみじみ思うのであった。



 その日の夜。

 一通りの事を済ませたキキコは、母親に電話をかけていた。

『キーちゃん、急に電話してきて何か嬉しい事でもあった?』

 開口一番にそう言われ、キキコはドキリとする。

「……急に電話って何かあったら報告してって約束だったでしょ?」

 だから、気持ちを落ち着かせるためにどうでもいい話題を振る。

『キーちゃん、何事も形というものがあるものよ? それより何があったのかママンは今すぐにでも教えて欲しいわ』

「……よく声だけで私の気持ちが分かるね?」

 キキコは観念してそちらに話を傾ける。

 すると、微笑が返ってきた。

『露骨に声が弾んでいたからよ。親を謀りたかったらもう少し修行なさい』

「だとすると、私は演技派女優を目指す事になるね」

 キキコは苦笑混じりに言った。

 母は偉大というべきか。キキコの母は心の機微に敏感である。少なくともキキコはこの母親に心中を見透かされなかった事がただの一度も無い。筒抜けと言ってもいい。最近では読心術でも使えるのではないかと疑っている。

『唇の方なら使えるわよ?』

「……電話越しに私の考えを読まないでよ。というか、それ本当なの?」

『本当よ。パパが堂々と弱音を言うのはそれが原因だったりするわ』

「……パパも苦労しているね?」

『お互い様よ。私だって海外暮らしにはこれでも苦労しているのよ?』

「……どう見ても旅行を楽しんでいる人にしか見えませんが?」

 キキコは言いながら、かつて両親と共に世界中を飛び回っていた時の母の様子を回想したが、苦労しているだろうなというのは子供心に分かるものの、それでも何処からどう見ても旅行を楽しんでいるようにしか見えなかった。

『キーちゃん、人生百年くらいしか無いのだから楽しまなきゃ損でしょう?』

「相変わらず元気そうで何よりです。ところで、パパはどうしているの?」

『まだ寝ていると思うわ。相変わらず引っ張りダコのモテモテで忙しいから』

「思うって一緒にいないの?」

『いないわ。寝かせてあげたいから部屋の外で話しているから』

「あ、なるほど」

『声が聞きたいのなら起こすわよ? パパもキーちゃんから電話だって言えばすぐに起きると思うし。むしろ起こさなかったら後で煩いだろうから起こすべきかどうか実は迷っていたところよ。どうするべきかしら?』

「寝かしといていいと思う。私の話はママンの口から教えてあげて」

『承ったわ。それで? どんな嬉しい事があったの?』

「うん。ええとね――」

 キキコは机に飾っているロケットネックレスを見ながら、預かっている菊に盃に見守られながら、今日起こった様々な事を包み隠さずに話した。

「――という事があってね。嬉しさのあまり連絡した次第だよ」

『それはめでたいわね。ちゃんとお祝いした?』

 キキコの母は包み込まれるような優しい声色で言ってくる。

「したよ。折角だからと思ってカップラーメン買っちゃった♪」

『チョイスが不摂生ねー……。そこは豪華ディナーとかにしなさいよ。それとお祝いだから大目に見るけど、インスタント食品は美味しいけれど栄養が偏っちゃうから基本的には食べちゃ駄目だからね?』

「分かっているよ。でも、初めて食べたけど日本のカップラーメンって何であんなに美味しいの? あんなのがあってよく飲食店は潰れないね?」

 キキコは礼儀作法や家事などは母からあれこれ指南されてはいるものの、移動の都合上、ホテルでの暮らしがほとんどだったので現代っ子にしてはコンビニやスーパーといった施設を利用する機会が滅多になく、食事に関しても母の手料理か自炊かホテルの食事、そしてパーティーで用意されるオードブルくらいしか実は口にした事がない。とどのつまり、割と世間知らずなのである。

『潰れないわよ。お店で食べるラーメンはそれ以上に美味しいもの』

「え、嘘!? あれより美味しいとかどれだけ!? 日本凄くない!?」

『パパと同じ事言うわね。世間知らずなキーちゃん可愛いわー』

「うっ……。私ってやっぱりそうなの?」

 自覚はあったものの、実際に言われると中々きついものがある。

『だから日本で一人暮らししてもらっているのだけれど?』

 もっともだ。あまりにももっとも過ぎて反論する気も起きない。

『じっくり色々学んでいきなさい。先はまだまだ長いわよ?』

「はーい。それじゃ、そんな感じでそろそろ切るね? 予習したいから」

『深夜アニメはリアルタイムで見ちゃ駄目よ? ゲームはほどほどにね』

「わ、分かっているよ! じゃ、またね!」

 強引に通話を打ち切り、キキコは机に向かって予習を始めた。

「はー、早く土曜日にならないかなー……」

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