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 見学会が絶賛行われている初日高校は一階の外来出入り口の南側にて、赤松鶴賀は壁に背中を預けて携帯電話を耳に当てていた。新入部員である佐治亜衣とキキコ・S・フランクールの入部届けを事務の先生に提出した後の事である。

『話したい事、というのは何ですの?』

 相手は開口一番にそう言った。それというのも平日の昼間という事もあり、相手も学生であるので事前にメールで『話したい事があるから平気なら電話でもメールでも好きな方で返信して』と伝えてあるからだ。鶴賀としてはメールで返信してもらってこちらからかけるつもりだったが、待ってみれば相手側が電話してきたのだ。出来るだろうなとは思っていたが鶴賀は少なからず驚いている。

「電話してきたって事は長話OKな感じ?」

『平気ですわ。こう見えて体裁を保つために学校に通っている身なので。でも、そういうそちらはどうなのです? 生徒会長たる貴女が白昼堂々とサボタージュしていたのでは他の生徒に示しがつかないのでは?』

「心配してくれてありがとう。でも、平気だから気にしないでくれていいわ」

『そうですか。それで?』

「出来るだけ早く伝えたい事があってね」

 鶴賀は携帯電話を持っている手を入れ替える。

『良い報せと悪い報せ、どちらですの?』

「前者よ。聞いて、紫。やっと大会に出られるようになったのよ」

『まあ! それは本当ですの!? 虚言だったら許しませんわよ!?』

「本当に本当よ。だから電話した次第よ」

『まあまあまあ! これは僥倖ですわ! こんなにも心が躍り、滾った日は貴女や桐子さん、他の猛者達と初めて相対した時以来ですわよ!?』

「それだけ喜んでくれると迷惑承知で連絡しようと思った甲斐があるわ」

『その判断に感謝しますわ』

 紫という人物が感慨深く息を吐く。

『自分の価値観を押し付け、勝手に待っている身である私にこんな事を言う資格は無いかもしれませんが、これでようやく貴女と再戦が出来ますわね?』

「お互い様よ。あたしだって高校は団体戦に挑戦してみたいから個人戦にはもう出ないなんて超個人的な事情を押し付けているし、自分の名前の力に頼りたくはないなんて我が侭も押し付けて色々なところに働きかけてもらったものね。度合いで行けばあたしの方が圧倒的に感謝も謝罪もする側よ、きっと」

『ふふふ。確かにそうかもしれませんわね。――あ、少々お待ちを』

 その言葉を最後に向こうから声が聞こえなくなった。

 何だろう、と思いつつ、鶴賀は新入部員の一人であるキキコ・S・フランクールの事を教えるかを考える。ここで教えてしまうか、大会で顔を会わせるまで秘密にしておくか。どちらにもそれぞれの良さがある。

『お待たせしました。いきなりですみませんでした』

 鶴賀は思考を中断して電話に集中する。

「別にいいわ。でも、いきなりどうしたの?」

『実はちょっとした事を思いつきまして』

「思いついた? 何を?」

『貴女と桐子さんが表舞台に帰ってくる事を祝って表向きは合同練習という事にしてパーティーを開こうかと思いつきましたの。先ほど待ってもらったのは皆の了解を得ていましたの。そうしたら二つ返事で了承してくれましたわ』

 その後、何人かの快い肯定の声が送話器から聞こえてきた。

『というわけで、如何でしょうか?』

「嬉しい提案だけれど、あたし達を誘う真意は?」

『本番前に貴女と桐子さんの実力が見たい事がまず一つ。次に言い方は悪くなりますけれど、初日高校で花札をやろうという方々を直に見たいからですわ』

「なるほど。ま、嬉しい提案だからこっちとしては大歓迎よ」

『総意は取らなくてよろしいので?』

「鳳凰堂との招待を断る理由が見つからないわ」

 鶴賀は携帯電話を持ち替える。

『嬉しい事を言ってくれますわね。では、何時にしましょう? 今週末?』

「気分早っ!? いやまあ、こっちは多分大丈夫だけどそっちはOKなの?」

『大丈夫だから言っていますわ。では、今週末にするとして土曜と日曜、どちらにしましょうか? 個人的には土曜だとありがたいところですが』

「土曜? 何故?」

『土曜なら泊まり込みも可能だからですわ』

「と、泊まり……? 至れり尽くせりだけどアクティブねー……」

『三年も待ちましたからね。本気の勝負は本番でするにしてもそのためにはそちらには私達と当たるまで勝って頂かなければなりませんし、三年もお預けされた私のやる気は本番だけでは吐き出し切れませんもの』

「あ、そういう事。じゃ、そんな感じで日時はどうしましょうか?」

『こちらは何時でも構いませんが、可能であれば早い方がいいですわね』

「それは?」

『その方がより多くの時間を共有出来るからですけど?』

「あ、単純……。なら――十時くらいでどうかしら?」

『十時ですわね? では、その頃にお迎えに上がりますわ』

「え? いや、流石にそこまでは……」

『手間を省くためですわ。そちらだけで来て頂く事になりますと手続きとか審査をして頂く事になってしまいますので』

「それは面倒ね……。……じゃ、お言葉に甘えてお世話になろうかしら」

『そうしてください。では、また週末』

「ええ。また週末にね」

 通話が終了して鶴賀は携帯電話を耳から離した。

「あ、フランクールさんの事を言い忘れた」

 そこでふとそれを思い出し、携帯電話を眺める。

 かけ直すかどうか逡巡し、

「――まあいいわよね。どうせ大会まで黙っているつもりだったし」

 そう結論付けて花札部に戻る。

(さてはて、皆はこの話をどう思うかしらねー)

 皆の反応を想像して愉快になって鶴賀は微笑した。

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