第一話 不敬王子と納豆論争
戦争が起こった。だがあまりに仕掛けた側の戦い方がヘタクソだったので、一日で終戦した。
戦争を仕掛けられた側、木の国の被害はゼロだったのだが「だから気にしてないヨ」と仕掛けた側、鉄の国には言えない。
終戦処理で一番困ったのは鉄の国の王子を捕虜にしたことだ。
木の国は外交がヘタクソ過ぎて捕虜、しかも王子をどう扱ったらよいか分からなかった。
だから防衛を頑張った貴族に、鉄の国との交渉が終わるまで鉄の国の王子を預けることにした。
貴族、桃木家は「そんなことまでさせるのか」と言いたがったが、流石に王様にはさからえなかった。
この手の無茶振りで一番割りを食うのは現場で働く人だ。
桃木家の牢獄。と、言っても突貫工事で使っていない離れに鍵をつけただけの、ただの別宅。そこに、ひとりの女中がお盆を持ってどしどしと進む。
門をくぐり、室内に入る。真っすぐ進むと目的の部屋、鉄の国の王子の牢屋がある。
鍵を使って、中に入る。
広すぎる。宴会ができるくらいの広さ、どう考えても捕虜ひとりに与えてよい広さではない。
そして流石に広すぎたと反省したのか、畳の部屋の中にあるのは背の低い机と座布団、隅っこにトイレだけ。
だったら最初から小さい部屋を使えばいいのにと女中は思ったが、そこが無茶振りされた桃木家の混乱っぷりをよく表している。
鉄の国の王子は肘を机につき、ぼけっとあぐらをかいて座っている。これまた捕虜の態度ではない。
女中がすすすっと進むと、王子がじろりと睨みつけてきた。
「なんだ、冬の枝くらい貧相な奴だな」
「初デートの海水浴ではしゃいでるやつくらい態度がでかいですね」
「なんだその口の聞き方。メイドのくせに」
「敗戦国の王子なんて、紅しょうがの入ってない牛丼より価値ないもん」
「人によるだろ」
王子がむっとして言い返す。
牛丼を知ってるのかと少しだけ感心する。
私は、お盆を机のうえに置いた。
ごはん、味噌汁、豆腐に納豆。豆が多いが贅沢な食事だ。
「いくら痛めつけても誇りまでは折れんぞ」
「何の話?」
まじで何の話?私は内心首をひねる。
王子はお盆のうえにある納豆を指さす。
「腐ったメシを食わせるのか」
私は、わざとらしくため息をついた。
王子が不快そうに眉をひそめる。
「なんだ」
「いや、その納豆が腐ってる腐ってないの話ってもう子ども頃にしすぎて飽きたっていうか。もういいよ、っていうか。パイナップルは酢豚に合うか論争よりありきたりなの」
「じゃあこれは腐ってないんだな」
「腐ってる」
王子がほらみろっと胸を張る。
いや、これあんたのご飯だぞ。
「正しくは発酵してるの。めっちゃ雑にくくると腐ってるけど、いい腐り方だから発酵なの」
「チーズと一緒なのか」
「チーズってなに。ネズミが食うやつ?」
「お前知ってるだろ」
私はいいから食えよと箸を手に取り、納豆をかき混ぜる。王子がうっと鼻をふさぐ。
「鼻もぎ取って肥溜めに捨てるぞ」
「マフィアのやり口やめろ」
私はご飯のうえに納豆をかけた。
「食え。あんたがハンガーストライキしてるから、うちのご当主様がストレスで、怪しい脱毛業者に引っかかったんかってくらい鼻毛をムシっててみてられん」
「後半何言ってんのか全然わからんぞ」
「つまり、あれか。納豆が嫌いなんですね」
王子がしぶしぶと言った風に頷く。
「最初からそう言えばいいのに」
納豆ご飯をかっ込み、味噌汁を飲み、豆腐をつまむ。
「なんで他も食うんだ」
「取り敢えず次のご飯からは納豆は外してもらうように言っとくね」
「納豆だけ食っていけばいいだろ」
「ごちそうさま」
「ふざけるな、待て」
私は捕まる前に牢屋を出て、鍵をかけてるんるんで離れを出た。
ご当主様に一応報告しておく。
そうか。ならよかった、と胸を撫で下ろす姿をみて、私は久々にいい仕事をした充実感に満たされた。




