ハロー、ニュー・ワールド
第2章開始です。
主人公の村田が転生して間もない頃のお話になります。
どんな世界が待っているのか少しだけ覗いて見てください。
(温かい)
ふと気づくと、大人になってから感じることのなかった心地よい温かさに包まれていた。
(なんだろう。何かに包み込まれているような……そんな感覚だ。もう少しこのままで)
そう思っていると――
「あら、……もう……ごと……の?」
「……あん……やく……ったよ」
「……!」
(なんだ?… 話し声? 誰だか知らないが、もう少しゆっくり寝かせてくれ)
そう思いながらも、聞こえてくる声には不思議と安心感があった。
再び意識が遠のき始めた、そのとき。
「ねぇねぇ!」
「!!」
今までで一番大きな声。
(なんだ!? ……いったい誰だ?)
そう思いながら、ゆっくりと目を開ける。
「あら、あなた起きたわよ」
「本当かい? はじめまして。お父さんだよ」
「ねぇねぇ! 私にも赤ちゃん見せて見せて!」
(……? ぼんやりとしてほとんど見えないが、最初が女性、次に男性、最後が子ども……女の子だな。というか、お父さん? 赤ちゃん? ……いったいどういうことだ?)
「あの、すいません」と声を掛けた。……つもりだった。
だが実際に出た声は、
「ふぇっ、あ〜」
と言葉にならないものだった。
(!?!?!?)
何がなんだか分からない。
俺が困惑する一方で――
「あらあら、ちょっとビックリしちゃったかしら?」
「ハハッ、それはそうか! でも元気そうで良かった」
「ねぇ? いまなんて言ったのかな? お姉ちゃんって呼んでくれたかな?」
「そうかもしれないわねぇ」
周りにいる人たちは楽しそうに会話している。
(よし。少し落ち着こう)
(……俺は確か、会社の疲れを取ろうといつもの居酒屋に行った。そこで合コン組と鉢合わせして……)
そこで、はっとする。
(そうだ……俺は死んだんだ)
(そして神様に会って、いろいろ話して……気づけば転生させられていた)
『すべて』思い出した……はずだった。
だが、何か大事な何かが抜け落ちている気がする。
しかし、いくら思い出そうとしても出てこなかった。
(転生したばかりで、まだ混乱してるのかもな)
そう思うことにした。
「おい? いまこの子笑わなかったか?」
「えっ? 本当? いくら何でも見間違いじゃない?」
「私も見たよ! なんかこう、口の端っこが上がってた!」
「そうなの? ママも見たかったわ」
(相変わらず、ほのぼのとした会話だ)
まだ目はしっかり見えないが、会話をしている人たちが、この世界での家族だということは分かる。
(早く、本当の意味で会いたいものだ)
「そうだ、あなた。この子の名前はもう決めてるの?」
「あぁ。もちろん。この子の名前は、ゼインだ」
「……ゼイン。いい名前ね。どういう意味なの?」
「俺の故郷に伝わる言葉で『守る者』という意味さ」
「そうなの。いい名前ね」
「じゃあこの子はこれからゼインくんなんだね! よろしくね! ゼインくん! 早く大きくなって、お姉ちゃんと遊ぼうね!」
「あぁ。二人とも元気に育ってくれよ」
(ゼイン。これがこの世界での名前。『守る者』か……良い名前だなぁ)
そう思ったとき――
「あっ! ゼインくん、また笑ったよ!」
「本当! 笑ってるみたいね」
「名前を気に入ってくれたみたいだな」
どうやら、自然と笑みがこぼれていたようだ。
「じゃあそろそろ時間だ。ミリ、お家へ帰ろう」
「えー! まだゼインくんと一緒がいい!」
(父親と姉であるミリちゃんだけ帰る。ということは、ここは病院のような場所なのだろう)
「ミリ。明日にはゼインを連れてママも帰れるから。またパパと一緒に迎えに来てくれる?」
「……分かった。ちょっと寂しいけど、また明日迎えに来るね! じゃあね! ママ! ゼインくん!」
足音が遠ざかる。
ギィ……ギィー……カチャン。
ドアが開いて、そして閉まる音。
父親とミリちゃんが出て行ったようだ。
「ふふっ、みんなあなたが来てくれて嬉しいみたい。もちろん私もね。この世界にようこそ。ゼイン」
優しい声色で話しかけてくれる。
また、あの心地よい温かさに包まれる。
今なら分かる。
意識が戻ったときも、母親の胸に抱かれていたのだ。
前世の記憶がある分、恥ずかしく思いながらも安心感を覚える。
(ちょっと疲れたな。少し寝よう)
そう思い、ウトウトとし始めたところで――
急に感じる不快感。
(なんだ!? この変な生温かさ……まさか!)
「ふぇっ、ふぇあー!」
「あらあら、どうしたの? ……あら、おしっこね。じゃあオムツを替えましょうね」
(えっ!? おしっこって……漏らしたのか!? この歳になって!?)
(……あっ、いまは赤ちゃんだったな)
(じゃあ仕方ないか……いや、でもなかなか割り切れないよなぁ)
そんな羞恥心と現実の間で悶々としていると――
「じゃあ綺麗にしましょうね。クリーン」
そう唱えた瞬間、不快感が綺麗に消えた。
まるで最初から何もなかったかのように。
それどころか、爽快感すらある。
(これってもしかして……)
(魔法!? 今、魔法使った!?)
驚いている間に、綺麗なオムツが装着されていた。
「はい。綺麗になって気持ちいいわね。そうだ、そろそろおっぱいの時間だから、このまま飲んじゃいましょうね」
そう言うと俺を優しく抱きかかえ、母乳を与えるために乳房を出した。
(おっぱい!?)
(ということは、薄っすらと見えている他より明るい色の部分は乳首!?)
(クソッ、何でこんなにぼやけてるんだ! もう少し視力が良ければ拝めたのに!)
(……って違う違う! さすがに恥ずかしすぎる! 嫌ではないけど! 赤ちゃんだけど!)
色んな感情が頭を巡る。
「あらあら、ほら。おっぱいはここですよ」
その声と同時に、唇に柔らかくも存在感のある突起が触れる。
すると自然に――
あーっと口が開いた。
そして、パクッ。
(!?!?!?)
さっきまで悶々としていたのが嘘のように、すぐに乳首を口に含んでいた。
乳首を口に含むと、
「んくっ、んくっ」
と、これまた自然に飲み始める。
(あぁ……お腹も心も満たされるようだ)
俺の中には、すでに羞恥心というものはなかった。
あるのは、ただ幸福感のみ。
「んくっ、んくっ、んくっ」
(それにしても俺、どれだけ飲むんだ?)
しばらくすると強い眠気が襲ってきた。
「はい。お腹いっぱいだね。じゃあゲップしたら寝ましょうね」
口から乳首が離れていく。
そして背中をトントンと優しく叩かれると――
「ゲッ、けぷ」
スッキリした。
そして再び、心地よい温かさに包まれながら――
俺は眠りについた。
このときの俺はまだ知らない。
どんな運命を背負うことになるのかも。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回はゼインが生まれてすぐのエピソードでした。
まだ始まったばかりですが、ここから少しずつこの世界や登場人物たちのことも描いていく予定です。
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次回もよろしくお願いします。




