第一章後編:神との出会い
第一章後編です。
前編から読んでいただけると、より分かりやすいと思います。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
意識が戻ったとき、俺は白い空間にいた。
地面も空もなく、ただ柔らかい光だけがどこまでも広がっている。
「・・・ここはどこだ?」
思わず口から出た言葉に、すぐ返事があった。
「死後の空間だよ」
声の主は、丸い光の玉だった。
不意に声を掛けられ驚きはしたが、不思議と落ち着いていた。
「・・・あの、あなたは?」
「神様だよ」
あまりにも自然に言われて、思わず固まった。
「死後・・・・俺は、死んだのか?」
「そういうことになるね」
胸がざわつく。
死んだ。その事実が急に現実味を帯びてくる。
「じゃあここは、天国とか地獄に行く前の場所ってことか?」
光の玉は、くすりと笑ったように揺れた。
「君たちの言葉でいう天国や地獄は“場所”じゃないよ。あれは概念に過ぎない」
「・・・概念?」
「うん。人は生きている世界の中で、満たされれば天国を感じ、苦しめば地獄を感じる。それだけのことだ」
「じゃあ、死後の世界は……?」
「人は死ぬと別の世界へ行く。転生さ。どの世界に行くかはランダムだけど」
「転生…。本当にそんなことあるんだな。どんな世界があるんだ?」
「世界によって仕組みは違うけれど、多くの世界には“ジョブ”という概念がある」
「ジョブ?」
「役割や力の方向性のようなものだね。剣士や魔術師、治療師、商人……。君のいた地球には存在しなかったけれど、他の世界では一般的なものだ」
「なるほど……」
「稀に、記憶を持ったまま元いた世界に戻る者もいる。その人たちが輪廻転生の考えを広めたんだよ」
「なるほど」
そう納得していると、光の玉もとい神様がふわりと近づいてきた。
「ところでキミ、私がどう見えている?なんだか視点が定まってない気がしてね」
「え?どうって、、、光の玉ですけど」
「・・・・光の玉?」
神様の声が、わずかに驚いた。
「本来、私は見る者が望む姿に変わる。大抵の人は自分の信じる神の姿をイメージするからね」
光の玉がゆっくりと揺れる。
「だから普通は、その世界で信じられている神の姿が私に投影される。
でも君には光の玉が見えている」
神様は、じっと俺を見つめた。
「これは、本当に珍しいことなんだ。光のまま見えるのは、勇者や賢者、聖女……そういう“特別な者”だけだからね」
「特別?⋯俺が?」
自分が特別だと思ったことなんてない。
だから疑問がそのまま口に出た。
「このままだと話しづらいだろう?君のイメージする神の姿を思い浮かべてごらん」
「え、神様の姿?」
唐突に言われたので一瞬、頭の中が白くなる。
そしてそこからモヤモヤと考え出した。
(神様って言われても、、どんな姿だよ、、。
美の神?知の神?戦の神?
いや、どうせなら全部混ざってる感じがいいのか?
俺なんかのイメージより、神様自身がなりたい“自分”って、どんななんだ?)
もう少しイメージをしようとした瞬間、光の玉が大きく揺れた。
「・・・あぁ、なるほど。君の中だとそういう神のイメージなんだね」
光が形を取り始める。
長い髪、しなやかな身体。
引き締まるところは引き締まり、出るところはしっかり出ている。
美・知・力、そのすべてを象徴するような姿。
顔立ちは中性的で、どこか神秘的。
性別は女性だが、威厳と優しさが兼ねられている。
「へぇ、悪くないね。私自身の理想にも近い」
神様は自分の姿を軽く見下ろし、満足そうに頷いた。
(・・・え、俺、こんな姿イメージしてたか?)
戸惑いつつも、その姿に目を奪われる。
「ふむ、ようやく視線も安定したな。少しは喋りやすくもなるだろう」
神様は、少しの間黙ったあと、ぽつりと言った。
「・・・ただ、ひとつ気になることがある」
神様がずいっと俺に顔を近づける。
吸い込まれそうな瞳。
動きに揺れる胸。
少し目のやり場に困りつつ、神様に視線を戻す。
「き、気になること?」
「君の“願望”だよ」
そう言って、じっと俺を見つめる。
「転生者は大抵、英雄になりたいとか、魔法を極めたいとか、そういう願望を抱くものなんだけど……君の願望だけ、どうにも理解できなくてね」
「願望・・・・あぁ」
俺は思わず苦笑した。
それには一つ心当たりがある。
「俺、それ系で言うと――
『死体運び屋』が最強だと思ってるんですよ」
神様は完全に固まった。
そして数歩後ろに下がり、難しい顔をしている。
「・・・・君、本気で言っているのかい?言葉にされても理解できないんだが」
「本気ですよ。俺の中では『死体運び屋=最強』は揺るがないです」
「⋯とりあえず理由を聞いてもいいかな?」
「もちろん。あれは小学生の頃、RPGゲームをしていた時。
ボスである魔王を倒すために勇者のレベルを上げて、仲間を集め、スキルを駆使しながら戦っていた」
「王道だね」
「でも魔王どころか、その辺のモンスターに負けることも沢山あった」
「まぁゲームだからね。そこそこのレベルになるまではそういうこともあるさ」
神様がうんうんと頷いている所で、俺は続けた。
「でも魔王の前で死のうが、魔物が蔓延る森で死のうが、死体運び屋だけはデカい棺桶に勇者達を入れて人数分の棺桶を引きながら無傷で街の神殿まで戻ってくる。そこで思ったんだ。
(あれ?コイツの方が強いんじゃね)って」
神様はしばらく沈黙し、深い溜息をついた。
「なるほど。考えは面白いけど、かなり価値観が偏っていると言わざるを得ないね」
「そんなに偏ってます?」
「偏っているとも。その価値観のまま転生するとジョブを得る際に歪みが生じる可能性がある。だから君の記憶は一時的に封印する」
「封印⁉」
「ジョブを得る時に戻るようにしておくから安心しなさい。思い出したうえで、その人生におけるジョブを見出せばいい。あと封印するのはその価値観の記憶だけで、その他は残ったままにしておくよ」
そう悪戯っぽく笑う。
そして、柔らかい笑みのまま俺に向かって手の平を向ける。
「?なんです?」
そう質問をするやいなや、神様の手のひらが淡く光り始めた。
「そろそろ時間だ。君との時間、悪くなかったよ」
「えっ!もしかして転生始まります!?ちょっと待ってください!何か特別な能力とかそういうのないんですか?!」
「そんなに焦らなくても。転生のことは説明してただろ?」
まさか、そんなにサラッと転生が始まるとは思っていなかった。
これは誰だって焦る。
「特別な能力って、流行りのチートってやつかな?私はそういうのしてないんだよ。ジョブのある世界なら能力も、その先の道も自分で切り開いた方が良いさ」
「じゃあジョブのない世界だったら?」
問題はそこだ。
運よく、元いた世界に転生出来ればいいが、ジョブもない全く未知の世界に行ったとしたら…。考えるだけで冷や汗が出る。
「その時は私に会いに来れば何かやってあげないこともないかな」
依然として柔らかい笑みを浮かべたまま答える。
「どうすれば会えるんですか?」
「簡単さ。どの世界でも神殿や教会、神社仏閣でもいい。祈りを捧げられる場所で私の姿をイメージするんだ。君の場合はこの姿をね」
そう言って自分を指さす。
その指の先は偶然であろうが豊満な胸。
ちょっとだけ釘付けになる。
「わかりました。そのときは宜しくお願いします」
「ふふっ、もちろん。では、始めよう。君のあらたな人生を」
神様から放たれた光が一気に周囲を包む。
視界が白く染まり、意識が遠のいていく。
だが死んだ時とは違い、何かに守られているような心地のいい温かさがあった。
新たな世界がどういうものか。
不安と同時に期待を抱いたまま、俺は意識を手放した。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
前編では主人公の転生するに至る出来事まで、後編では神様との出会いを書きました。
次章からは転生後の生活と人間関係を描いていく予定です。
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