序章:死境を運ぶ者
はじめまして。
初投稿になります。
宜しくお願いします。
「この辺りにあるはずなんだけどなぁ」
森の中で、リゼリアが辺りを見回した。
亜麻色の髪を揺らしながら、
真剣な顔で森の奥を見つめている。
彼女は村長の娘であり、俺の幼馴染だ。
今日は二人で森に果物を採りに来ていた。
なんでも冒険者たちが村に泊まることになったとか。
いわゆる食糧調達だ。
だが一向に見当たらない。
「本当にあるのか?」
「あるよ。去年もその前もここでパパと採ったもん」
そう言ってリゼリアは自信ありげに胸を張る。
「それなら大丈夫か」
そう返事をしたその時、森の奥から不気味なざわめきが聞こえた。
「……なんだ?」
次の瞬間――
――ギャアアアッ!
獣のような叫び声が森に響いた。
茂みが揺れる。
そして現れたのは、小柄で醜い影。
緑色の皮膚。粗末な弓。
ゴブリンだ。
しかも一匹じゃない。
次々と姿を現す。十匹――いや、十五匹以上はいる。
「まさか……スタンピード!」
普段より多くのモンスターが群れとなり暴走する現象。こんな森の近くで起こるなんて聞いたことがない。
「逃げるぞ!」
俺はリゼリアの手を引いた。
その瞬間、ヒュン、と風を切る音。
「きゃっ!」
リゼリアが小さく声を上げた。
振り向くと、彼女の腕に浅い傷が走っている。
矢は当たらず、かすっただけだった。
しかし――
「……あれ?」
リゼリアの顔色が急速に悪くなっていく。
腕の傷の周囲が、じわりと黒く変色していた。
「毒……!」
ゴブリンの毒矢だ。
「しっかりしろ!」
リゼリアの足がふらつく。呼吸も浅い。
このままじゃ危ない。
すぐに村の治癒師に診てもらう必要がある。
だが、このままでは村に戻る前に追いつかれてしまう。
どうする。どうすれば――
その時、頭に一つの場所が浮かんだ。
神殿。
森の中にある古い建物。
普段は閉ざされているが、ジョブ取得の儀式を行う時にだけ使われる場所。幸い、ここは神殿に近い。
中には“儀式の書”が保管されている。
儀式は本来、神官立ち会いのもと十五歳で行うものだ。
だが――いまは僅かな希望にすがる他ない。
「……頼む」
僅かな希望の糸を手繰り寄せるよう呟き、俺はリゼリアを背負った。
「絶対に助ける!」
森の中を全力で走る。
リゼリアの身体がどんどん力を失っていくのが分かる。
「リゼ!」
返事はない。
呼吸だけが、かすかに背中に伝わる。
やがて、石造りの建物が見えた。神殿だ。
扉を押し開け、祭壇へ駆け寄る。
祭壇には古びた箱が置かれており、
その中には一冊の古い本――儀式の書。
儀式は発動するか分からない。
もちろん前例などない。
それでも――
「リゼを助けるんだ!」
俺は迷わず儀式の書をひらいた。
次の瞬間、俺の身体が光に包まれた。
頭の奥が揺れる。
『記憶を封印させて貰うよ』
「!!」
封じられていた記憶が、一気に流れ込んできた。
「……そういうことか」
目の前に文字が浮かぶ――ジョブ選択。
そして現れたのは――たった一つ。
死体運び屋【ネクロポーター】
死体、及び死に瀕したモノを運ぶ職。
それは罪人に与えられる、忌み嫌われるジョブ。
だが――
「やっぱりこれが最強だ!」
俺は迷うことなく選択した。
選択した瞬間、身体を包んでいた光が俺の中に吸い込まれる。
直後、背中のリゼリアの身体がふっと軽くなった。
「?」
違和感に困惑し最悪の可能性も考えた。
だがリゼリアは弱々しいながらも呼吸をしていた。
いまも必死に生きようとしている。
安堵している時間はない。
俺は再び村を目指した。
その道中、2匹のゴブリンと遭遇したが
何とか巻けたようだ。
そして村に辿り着いた頃には――ゴブリンの群れは、冒険者たちによってすでに殲滅されていた。
「リゼを助けてくれ!」
叫んだ瞬間、視界が揺れる。
背中の微かな温もりを感じながら、俺の意識はゆっくりと闇に沈んでいった。
――十歳の少年がジョブを得たのは、奇跡か、それとも必然か。
このときはまだ、誰も知る由もなかった。
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