表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/9

第9話 決死のセンゲン


朝のショッキングな一件からいつの間にか時間は経過しており、気付けばもう昼休みになっていた。


束の間の中、教室はさざめく声々に包まれている中、朝の一件で失意のどん底に落ちた俺は授業中も何もやる気が起きず、昼食も喉を通らないため、ただぼんやりとしていた。


流石に後を引きすぎてはいる。他の人にとってはたかが一回の友達作りのチャンスを逃してしまったくらいの考えに至るのかもしれない。だが、俺の場合は違う。そもそも友達と呼べる存在がこの学校じゃ、たまに教室に顔を出す田中しかいない。


1年時のクラスではもちろん1年間過ごしてきたわけだが、1年過ごして友達は田中1人だけなのだ。友達作りという点において俺は他の人よりも敏感でありデリケートな問題かつとてもセンシティブなのだ。」


「全部おんなじ意味だけど。」


「......!?」


漏れていたらしい、心の声が。


「何を1人でブツブツ言ってるのか知らないけどさ、気味が悪いんだけど。」


手元の本に目を離さないまま、姫井吉乃は冷めた声でこちらに喋りかける。


姫井吉乃。この豊浜高校のマドンナにして、俺をボッチ街道へ引きずり込んだ悪魔である。


「あっ...ああ、ごめん。」


俺は彼女を深いにさせたことをとりあえず謝ろうと、気力がない中必死に謝意の言葉を絞り出す。


「......、」


と、ここで初めて本にだけ向けられていた視線が初めて俺に向く。


頬杖をつきながらちろりと瞳が向けられる。


「朝からずっとそんな感じだけどさ、何かあったの?」


一体誰のせいだ、と他人事な様子の姫井吉乃に、俺は先程の虚無感は嘘のように感情がふつふつと煮えたぎっていくのを感じる。


「隣でずっとそんな感じだと...、迷惑なんだけど。ほら、溜息とかうるさくてさ。」


高圧的な態度、外見を鼻にかけた人をコケにするような物言い、人相の悪さ。俺は姫井吉乃を前にふと考えた。


(...もしかしたら、過去にコイツに惚れた奴らが全員馬鹿だっただけなんじゃねぇか...?」


―――――そうだ。俺はこの女に進級直後からジンクスをかけられるわ親睦会の参加権を奪われるわ。散々な目にあっている。


俺は友達が一人できればそれでいいのに。それからして高校生活を共にする女の子なんかに巡り合うなんてことも...、いや、友達が一人でもできればそれでいいんだ。そしてあわよくば彼女なんて存在も...いや、友達が一人できれば...


「連中がはた迷惑な馬鹿だってことには同感だけど、唐突な上にずいぶん喧嘩腰な物言いだね。」


またしても漏れていたらしい、心の声が。


「―――――私、アンタの気に病むようなこと何かしたっけ?心当たりがないんだけど。」


「え!?いや、その...、」


俺は姫井吉乃の質問に言葉が詰まる。明確に一個俺の気を病ませるどころか、高熱で寝込んじゃうほどのことを涼しい顔でやってのけたのだが、それをこんな真正面から伝えるなんてとてもじゃないができなかった。


俺が言葉に詰まっていると、そんな俺の様子に見かねてか、姫井吉乃の方から話し始めた。


「まあ、学期ごとに毎回私に告白してくる連中がいるってことが噂になってるのは知ってるよ。中学の頃からだからね。それも必ず隣の席になった男が。そりゃ薄気味悪くてジンクスなんて言われるよ。まあ、私がどうこうしてるわけじゃないからどうしようもないんだけどね。」


「...そうなのか。」


「それにそのジンクス通りにいけばアンタも最終的には私に惚れることになる。よそよそしいのはそういう理由でしょ。」


彼女は見透かしたように俺の心情を読み取っていた。そして、今まで彼女の顔からは暗い表情しか見受けられなかったが、今までとは違う、翳りのようなものが顔を覗かせているような気がした。


ついさっきまで俺は彼女を高飛車で嫌な奴だと思ったが、もしかしたらそれには何か理由があるのかもしれない。


彼女の表情から見える翳りは、何かを諦めきったような、しかしまだその何かを捨てきれずに惨めな希望を望むような。


何はともあれ、これ以上半端な態度でいるのは彼女に失礼だ、と俺は直感的に感じた。


「そう、だな。確かに正直な話、そういう噂を聞いて怯えてたよ。」


「そう。」


彼女はそう言うと、視線を俺から手元の本に戻した。


彼女としてはこれ以上俺と話す気はないらしい。


だが、


「―――――待てよ。」


「っ?」


「まだ話は終わってないぞ。さっき何か私が気に障るようなことをしたかって聞いたろ。したさ。今朝。」


俺は、使い古した濡れ雑巾に辛うじて残る数滴の水気にも劣るほどの勇気を無理矢理振り絞ると、ここにきて初めて彼女の方に体を傾ける。


「今朝?今朝って言ったら上条の一味が絡んできた時の話?」


「...ああそうだ。あの時俺は、俺は...、俺は、」


溜まってた心労を全部...吐き出す。赤裸々に、俺は目の前にいるこのいけ好かない女に吐き出すんだ。


俺は思い切り席を立ちあがると、


「?」




「!!俺は、親睦会に参加して、彼女を作りたかったんだぁぁあああ!!!!」




(ん?あれ、なんか俺言う言葉間違えた...?)




クラス全体は、静寂に包まれた。




―――――次回、進展。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ