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第8話 ショウトツの末路


「そう!才色兼備と2年4組を司る美少女系優等生ちゃんこと、上条香織よ!!ジャジャーン!!!」


「っ......。」


そう言い終えた彼女は、えっへん!!と自信満々の顔でこちらを見下ろす。


すると、教室の方々から、彼女の発言に突っ込む声が飛び交う。凍り付いた空気は、彼女の一言で雪解けする。彼女の軽快なジョークにより、先程の俺の発言はあっという間に無かったこととなり首の皮が繋がった。


彼女は上条香織。新太達がいる2年4組の学級委員長であり、早くもクラスの中心人物になった、いわゆるカースト上位の人間。


2年生で同じクラスになる前からも、俺は彼女の噂を耳にしている。


勉強や運動はそつなくこなし、自分でネタにしているが事実端正な顔立ち。しかし決してその発言が嫌味にならないようなコミュニケーション能力、そして何よりもカリスマ性だ。


持ち合わせているスペックに加え、底抜けた人当たりの良さから彼女の周囲は常に、学年や男女の垣根を超え、多くの生徒達で賑わっている。


姫井吉乃はルックスの一本鎗で戦っているとすれば、彼女は多角的に使える武器を所持しているような、要するに完全無欠の人間なのだ。


そんな青春長者の上条香織がボッチ街道を渡る貧民の俺に声をかける理由なんて簡単な理由だろう。


「このクラスになってから早くも一週間、私としてはできるだけ多くのクラスメイトと仲良くなっておきたいじゃない?学級委員長だからってのもあるけど、シンプルにみんなと仲良しになりたいんだ!だから近々親睦会的なものを開きたいなぁって思ってるの。真鍋くんたちもどうかなってさ。」


ここ一週間で、なかなかクラスに馴染めない俺に気を使って声を掛けてくれたのだろう。


向けられた聖母のような優しさが、ひとりぼっちで心細かった心とボッチであるという隠したい傷口に沁みわたる。客観的に見ても、やっぱり友達が全然できない可哀そうな奴に見えていたのだろう。


しかし、ここまで寄り添ってくれたのだ。その慈悲を無下にはできない。


それに俺はビビッと感じ取った。


(これは、ビックウェーブだ!!友達一人すらまともに作れない憐れな子羊に訪れた最初で最後のチャンスであり神様からの祝福!!これに乗れるかが今後の学校生活の命運を分ける!!)


失敗は許されない!!


俺はおもむろに息を吸って吐く。


大丈夫、長いものに巻かれるだけだ、と。




そして口を開く―――――― 、が、


「いいのか?なら遠慮なく参――――「私はパス。面倒な馴れ合いは内輪でやりな」―か...え?」


俺の一世一代の参加表明は何者かによって遮られてしまった。それもひどい言葉によって。


こんな人の心がない悪魔みたいなことを言い放ちやがった奴はどこの誰だ、と、声のした方を見ると、そこにはやはり、姫井吉乃がいた。


さっきまで和気藹々としていたクラス全体が一気に凍り付くのが分かる。


おそらく他のクラスメイト達にはこの話は既に通っており、上条香織が俺を親睦会へ誘う様子を見守っていたのだろう。いや、俺と姫井吉乃の二人をだ。


その監視下で、このような角の立つ言葉を放たれたのだ。当然の反応である。


そして案の定、姫井吉乃のとげとげしい言葉に反応し、数名の女子生徒が彼女の方に向かい異を唱える。


「おい。お前さ、出たくねぇんなら好きにすれば良いけど、今の断り方はちげえんじゃねぇのか?」

 

「少し...お高く止まりすぎじゃありませんか?」


「言い方に棘を感じるわ。」


気だるげに頬杖をつく姫井吉乃に、先程の言葉に反応した三人の女子が詰め寄っている。


「三人と同時に会話できるほど、器用じゃないんだけど?群れなきゃ何も言えないの?」


はあ、と面倒くさそうにため息をつくと、姫井吉乃はボッチになるどころか、クラス全員を敵に回しかねない爆弾をケロリと投下する。


「あ?お前、喧嘩売ってんのか?」


三人のうちの一人が青筋を立て、険悪な空気が教室全体に届く。


向けられた明確な敵意に、姫井吉乃も鋭い眼光を返し、完全に収拾がつかない修羅場が完成してしまった。


なぜこんなことになったんだ。


ひどい喧嘩が、下手をすれば取っ組み合いにまで発展しかねないと、誰もが思ったその時、


「喧嘩は駄目よ、奈菜花。感け情的にぶつかり合ったって、何も生まれないんだから。」


声の主は、上条香織だった。


彼女の注意に、今にも一線を超えようとしていた奈菜花と呼ばれた女子は、「ちっ、分かったよ。」と、先程の剣幕を殺し上条さんの後ろに下がった。


喧嘩っ早そうな彼女を一瞬で沈静化させる様子に、俺は彼女のカリスマ性の片鱗を見たような気がして息を呑む。


3人を制止した上条さんは、再び吉乃の方に体を向け微笑みながら諭す。


「ごめんなさいね。気を悪くさせちゃって。でも、姫井ちゃんもそんなにトゲトゲしてちゃダメよ?」


姫井吉乃は「ふん。」とそっけなく返すと手元の本に視線を戻した。彼女としても、これ以上ことを荒げる気はないようだ。


「真鍋くんも、急に声かけちゃってごめんね?困惑させちゃったよね。てっきりクラスにあまり馴染めてないのかと思っちゃってさ。でも、それも私の杞憂だったみたいね!」


「あぁ、それなら全然大丈夫。それにしても......ん?」


上条さんの言葉に、できるだけ気を使わせないよう言葉を慎重に選びながら会話をしようとするが、新太にとって聞き捨てならない言葉があった。


「いやー、失敬失敬!!まぁそこら辺は人によりけり、どの環境が1番安らぐかなんて人によりけるのにね。うん!よりけりよりけるわ!!」


「え?いや、ちょっとまっ」


まずい、彼女は何か盛大な勘違いをしている。俺が未だこのクラスに馴染めていないことを、まるで俺が望んでその環境に身を置いているような。まるで俺が一人でいるのが好きなような勘違いを...


「真鍋くんは一人でいるのが好きなのね!!」


「...ってぁ......。」


時すでに遅し。彼女は完全に勘違いをしていた。


「それじゃあ、気が変わったらいつでも言ってね。姫井ちゃんもね?」


「......え?」


そう言うと、上条さんは他の3人を引き連れ席に戻って行く。


(...嘘だろ?まだ俺は何も言ってないのに...。)


真鍋新太のボッチの道が本当に確定した瞬間であった。


次回!!真鍋新太と姫井吉乃の関係性が動く―――――!?

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