第4話 ゼツボウの新学年
クラス発表にひっそりと抱いていた願望は虚しく砕け散り、トボトボと教室に向かった。
しかし、襲い掛かる不幸は留まることを知らなかった。
教室に入ると、戦慄が走った。さっさとクラスを確認し教室に入らずにモタモタしていたせいか、既に何個ものグループのようなものが出来上がってしまっていたのだ。
共通の知人を通したり、座席が近い数人で固まったりと色々だが、どれも今更割って入れるような感じではなかった。
高校二年生、俺が恐れているボッチ生活がひょっこりと顔を出しているように感じる。
黒板に貼られた座席表を確認し、自分の座席に向かう。教室の奥から手前に二番目の列の一番後ろの席。後ろの席というのは比較的教師達の目が行き届きにくいためラッキーなはずなのだが、突きつけられた現実達を受け入れるのに精一杯だったため、幸福感のようなものは湧いてこなかった。
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「よぉ!真鍋!!どうだ新しいクラスは?友達ができたかどうかは見りゃぁ分かるが空気感ぐらいはつかめたんじゃないか?」
虚ろになりながら席に座っていると、またしても背後から唐突に声がかかる。もしや友達申請か何かかと一瞬期待をしたが、後から冷静な考えが淡い思考に追いつくのを感じた。
こんなに不愛想に座席に座っているような奴にすすんで話しかけようなんて普通は思わない。それにこの耳に来る感じの声は間違いなかった。
「...やっぱりお前か、田中。空気感?ってお前なんでうちのクラスに?」
「?そりゃぁ休み時間にもなったことだし、報告がてらお前の様子を見に来たんだよ。でもまぁ、その感じからだいたい心中お察ししますがねぇ。」
「うるせぇ、心中察してくれるならもっと気遣えよ。って、休み時間...?ってもうこんな時間か...、」
田中の登場により、俺の意識がハッキリする。
非情な現実に打ちひしがれた俺は、座席に着いてからというものの、ずっとぼんやりしていた。
新担任による自己紹介や今日行う始業式の詳細説明は聞き流し、始業式の際は教室から出ていくクラスメイトの流れに適当に身を任せ、始業式中は上の空だった。
なんとか取り繕おうとするが、いつの間にかに過ぎ去っていた時間に俺は驚きを隠せなかった。
「...おいおい、マジで大丈夫なのかお前?」
「あ、あぁ、なんとかな、それよりもお前、報告がてらって言ってたよな?何を報告しに来たんだ?」
動揺した俺はとりあえず考えるのをやめ、話題と意識をそらす。
すると田中は、水を得た魚のようにテンションを上げて話し出す。
「それがなぁ聞いてくれよ真鍋!!さっきの校舎裏で同じクラスになりたい女の子として何人か名前を出したのは覚えてるか!?」
「...あぁ、確か姫井吉乃さんと姫島桜子さん?とかだったよな。」
俺はうろ覚えながらに名前を絞り出す。他にも何人かいたが今思い出せるのはそれくらいだった。しかしそれが何だというのだろうか。
「そう!!姫島桜子さん!!!この豊浜高校NO.2に君臨する超絶美人!!!なっちまったんだよ同じクラスにさぁ!!もう眼福も眼福でさぁ!!!ずっと見てるよね!!」
「...その口ぶりから察するにNO.1は姫井吉乃か?二大巨頭って言われてるくらいなら甲乙つけ難そうだけど、そこら辺ちゃんと序列があるんだな。」
「そりゃあ悩んださ。豊浜高校裏掲示板のスレの『姫井吉乃と姫島桜子、結局どっちが上なん?』 じゃあ、三日三晩と論争が白熱した結果、どっちのほうが優しく踏んでくれるかって論点で姫井吉乃に軍配が上がったんだよなぁ...、」
「全く、能天気な奴だな。こっちは友達すらでき悩んでるってのに...、」
「友達なら何人か話せる奴がいたからさぁ、そいつらとつるんでくことになると思うぜ?」
(コイツはこう見えて意外と抜かりがないんだよな。俺と同じ日陰者なのに俺なんかより全然顔が広い。まぁこんな感じだから誰にでも馴れ馴れしいんだろうな。っクソ!!普段は俺みたいな日陰者とつるんでる同胞の癖しやがって!!」
「...、」
急に声が聞こえなくなり顔を上げてみると、そこには今まで見たことの無いくらい微妙な顔をした田中がいた。
「...その自虐は悲しすぎるぜ真鍋...、」
漏れていたらしい。心の声が。
「そんなことよりそんなにジロジロ見て、セクハラとかで晒されないようにな。」
「別に撫で触ったりしてるわけじゃねぇんだしなぁ。」
「撫で触る!?なんだその気持ち悪すぎる日本語は...、」
確実に犯罪行為として抵触する行為としてまず出てくるのが撫で触るというのはいくらなんでも気持ち悪すぎる。
この学校で唯一まともに会話のできる友達である田中がこんなにも気持ち悪いことに俺は危機感を覚える。
割とマジで引いている俺を見た田中は弁解するためなのか、さらに気持ちの悪いことを伝えるためなのかは分からないが、引き続き捲し立てようとしていたが、その声は別の声にさえぎられた。
「あ、あの!!!」
教壇の方から放たれ声は、教室中の全ての会話を遮った、
結成初日のクラスということもあり、バラバラだった2年4組の、全員の視線が一致する。
視線の先には、視線を集中させるにいたった要因である声を放った男子生徒が、教室の出入り口の方を面映ゆい様子で見つめていた。
出入口付近に何かあるのだと俺はさらに男子生徒の視線の先を辿り、息を呑んだ。
そこには、一人の女子生徒が立っていた。
それも、ただの女子生徒ではない。
端正な顔立ちに括られた象徴的なブロンドの長髪。
校則に触れるギリギリまで崩された制服。
しかし、凛然な雰囲気を醸し出す。
例えるなら―――――赤薔薇。
「...姫井、吉乃...ちゃん?」
言葉を失う俺をよそに、俺にだけ聞こえるくらいの声量で、田中がぼそっとつぶやく。
「姫井吉乃?姫井吉乃ってお前...、」
「ああ、豊浜高校における二大巨頭の一角にして学園一のマドンナ、姫井吉乃だ。」
「あれが、姫井吉乃...、」
そう、俺が登校中に見かけた赤薔薇のような少女。それはまぎれもない、彼女だ。
―――――姫井吉乃。
この豊浜高校における、マドンナと言っても申し分のない存在。
そしてこのこの場で起こりうることは、この場にいる誰もが理解していた。
こういう場合、色恋沙汰が好きな女子などが奇声を上げたりするものなのだが、しかしそういった浮ついた雰囲気は一切なく、零度の空気が教室中の動きを許さなかった。
彼女に向けて叫んだであろう男子生徒は本題を言っていない。が、何を言わんとするかは彼の強張る表情と穏やかでない様子を見るに察しはついてしまう。
「...おい、田中...、」
目の前で起こったことの詳細とこれから先の展開が見えた俺は、先程まで談笑していた田中に視線を送る。
それに気づいた田中も重苦しく反応し、再度二人にしか聞こえない程の声量で答え合わせをした。
「...あぁ、公開告白、...そして公開処刑だな...。まぁこの時期はな、」
「...時期?時期ってなんだよ、そんな何かの生態みたいに...、」
目配せで済ませていたが、違和感のある一言に思わず俺は田中の方に体を向けた。
「いや、その言い方で間違っちゃいない。この時期なんだよ。」
俺はその『時期』という言葉に引っかかり、その言葉ついて問いただそうとするも、それは叶わなかった。
俺と田中が少しの間を話せるほどの時間を流れていた沈黙が破られたのだ。
「俺、一年の頃から、ずっと姫井のことが好きだったんだ!!!」
―――――次回、姫井吉乃動きます。




