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大江戸オブ・ザ・デッド〜魔法全盛の江戸で、弓しか取り柄がない私ですが兄を探してます〜  作者: 森戸ハッカ
第一章:水の段『水は道なり。行くべき先を拒まぬ』

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6. 部屋子の朝は早い

 部屋子の朝は早いーーというか、早すぎる。


 特別消禍隊は朝8:30から翌日8:30の交替勤務だ。わかりやすく言えば、まる1日働いて、まる1日休み。


 その出勤に合わせて準備をはじめるため、6時から始動しなくてはならない。部屋子の身支度はそれまでに終える必要があるため、5時には起きる必要があるという。


 戦闘班は5班体制。第一班は局長である蓼丸麟五が隊長である。その隊長格と同室で身の回りの世話をするのが“部屋子”だ。


 部屋子の最も重要な任務は就寝中の警護結界である。

 

 隊長格はいずれも超一級の能力者であるが、就寝中はさすがに身を護る術がない。そのため、部屋子は結界に自らの魔力を流して警護する。隊長格になんらかの被害が及んだ場合にその魔力をもって補填するという人間電池、もしくは血の盾のような役割を担っていた。


 もっとも国内トップクラスの能力者集団である特別消禍隊が襲われる可能性は極めて低いため、形骸化している節もある。しかし過去に屍人の遺族による自爆テロが発生したことがあり、撤廃はできないという制度であった。


 第七局は約200名で構成されているが、戦闘員は100名弱。半数はサポートチームとなる。掃除、料理、洗濯等はサポートチームが行うため、部屋子の業務は簡単だと思われがちだが、これは『支える隊長による』というところが大きい。


 些か実力は足らぬが実績を与えたいという思いで任命された名ばかりの部屋子がいれば、毎夜色街に繰り出す不良中年隊長を連れ戻すのが役目という苦労性の部屋子もいる。


 ーーでは蓼丸麟五隊長の部屋子はどうか?


 着任した飛梅音の感想は一言だった。


(御坊ちゃまって、めんどくさいなぁぁぁぁ!?)


 母1人しかいない飛梅家も煮炊きや洗濯などを任せる小間使いを雇ってはいたが、国内最高峰の名家の蓼丸家はレベルが違うのだろう。


 彼が求めるのは身の回りのことを整える、という程度のものではないーーということが初日の学びであった。


 お互いに距離を測りかねていた初夜、小上がりの畳の間に置かれたベッドに向かった麟五が怪訝な顔で音を振り返った。


「いいのか? 湯たんぽがないのだが……?」

「何がない……ゆ、湯たんぽぉ!?」


 聞けば、低体温は体調を損ねる恐れがあると、実家では寝る直前に快適な温度に整えられていたらしい。就寝が何時であったとしても、というから驚きだ。


 唖然とする部下に「もしかしておかしいのは俺なのかもしれない……?」と麟五が怯んだ様子を見逃さず、音は腹を割って話すことを決めた。 


 ぐい、と顔を寄せた分だけ、麟五が引く。


 性格は穏やかだが、末っ子ならではの不思議な押しの強さが飛梅にはあった。それを生み出す健やかで無敵な部分がこの夜、遺憾無く発揮された。


 同年代に真っ向から向き合われたことなどない超絶名家の御坊ちゃまである麟五が驚き、思わず息を呑む。


「いや、そもそも今5月ですよ。今日は昼間も暑いくらいでしたし、エアコンつけてますよね? それも自分でさっきガンガン下げてましたよね」

「ああ。部屋がキンキンに冷えてるのが好きなんだが、低体温は体調を損ねるから布団は冷ますなと爺がメイドに……」

「はあ、爺が……爺!? メイドォ!?」


 気づけば2人は畳の上で膝を突き合わせて正座して向き合っていた。


 なるほど、なるほど?と相槌を打ちながら音はヒアリングをはじめた。

 

 アイロンが丁寧に当てられた白い絹の和服が用意されていた時点で(殿様!?)怪しいとは思っていた。


 圧倒的な権力を持つ主人に支える蓼丸家の従者達が彼に提供してきた「快適」。それが過剰であり、故に求める「気持ちいい」のクオリティが違うということがわかった。


 例えば、朝湯は37.8度。朝食は五分粥、三種の漬物、お頭付きの魚。それもそれぞれ適温があるらしい。細々とした気遣いの数々を聞いて、飛梅は頭を抱えた。


 ハッキリ言って、やりすぎだと思う。


 飛梅の結論は、「御坊ちゃまって面倒くさい!」だった。世話を焼かれるのが当然という生き様はかっこいいとは程遠い。小説や漫画に出てくる王子様達もこんな感じなんだと思うと幻滅である。


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