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大江戸オブ・ザ・デッド〜魔法全盛の江戸で、弓しか取り柄がない私ですが兄を探してます〜  作者: 森戸ハッカ
第四章:土の段『土は国なり。人はそこに立ち、そこへ還る』

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特別消禍隊 華の第七

 備悟の涙の祝詞が響いた直後、カグヤは静かに扇を閉じ、再び口を開いた。


「念のため伝えておくが――」


 白髪の花魁は、神の声のような静けさで告げる。


「バベル王国では、特級能力者は他国に出られぬという理がある。ゆえに、トビと生きていくと決めれば、主もミカド皇国には一歩たりとも戻れぬえ」


 麟五の胸がひりついた。

 飛梅は知らぬうちに、その鎖に繋がれたということか。


 しかし、カグヤは続けた。


「逆に、ミカドからこちらへ来ることはできる。領も拓いたため、観光なら最大一年、政務・学術・商業であれば延長もできよう」


 それを聞いて、麟五の胸に救いが落ちた。


 飛梅は家族に会えなくなるわけではない。


 危険を犯して兄を取り戻そうとしたあの家族想いの少女に、未来がまだ残されていたことへ胸がじんわりほどけていく。


 だが次の瞬間。


(……俺は、特別消禍隊だ)


 その現実が、容赦なく胸に突き刺さる。


 闇ワクチンが普及するまで、屍人の脅威は決して消えない。


 そんな時期に、自分だけ離れてよいのか?


 麟五は答えを求めるようにプロジェクターの向こうを見た。


 山本総局長。

 百目頭目西門。


 ふたりは――なぜか笑って、視線を横へずらした。


 ヌッ!と現れたのは、神保兄弟の父、ガンズであった。


 小石川療養所にいるはずの男は、ベッドの上で着ていた黒い浴衣姿のまま。


 しかし仁王と呼ばれる双子が小さく見えるほどの巨躯には、画面越しでもわかるほどの覇気が漲っていた。


「ありがとうよ、リンゴ君!」


 意外なほど、柔らかい笑み。


 だがその背筋は、復活した烈火の不動明王そのものだった。


「お前らのおかげで、すっかり全開したんでな! このままじゃ体力が有り余る無職中年で、シノさんに嫌われちまう」


 にかっと笑うその姿に、かつての歴戦で前線を駆けた将の光が甦っていた。


「ーー華の第七は返してもらっていいか?」


 その瞬間、麟五の胸で張りつめていたものがふっと軽くほどけた。


(……ガンズ隊長が戻るなら、問題ない)


 深川殲滅戦の頃とは組織体制も違う。


 第七局に彼が戻ったなら――それはミカドにとって、何よりの僥倖だろう。


 山本総局長が画面の奥で腕を組み、低く言う。


「二十四時間の猶予の間、そこにいるお前さんの元部下を貸そう。元部下、だ。今はもう、ガンちゃんの部下だからな」


 南海達がびくりと背筋を伸ばす。


「闇属性能力者の索敵が狂う場所じゃ。闇魔素に頼らぬミカドの能力者の方が動きやすいだろう」


 そしてガンズが釘を刺すように、しかし温度のある声で続けた。


「貸すだけだぞ。皆を必ず返せ。南海とテッサを隊に、そして烈と剛をシノさんの元へ返さねば、俺がお前を全力で殺す」


 そこには隊の父としての温かさと、国の未来を託す覚悟が宿っていた。


 そこまで聞いて、麟五の胸に湧いたのは安堵と責務だった。


 国は自分がいなくても回る。

 代わりに立つ者たちがいる。


「全力ださずに、何が特別消禍隊だ! 全力で行けよ!」


 ガンズの発破が背中を押す。


 麟五の選択の時は、もう目の前にあった。


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