49. エリア4 深黒の森
昼でも闇が支配する森――。
ゲヘナの中心部への探索を阻む「エリア4」通称深黒の森は、太陽が天頂を通ろうとも、光が一滴も地表へ届かない。
空気は濃密でねっとりと湿り、呼吸のたびに胸の奥がざらつく。
木々は高く、細く、異様にねじれ、まるで侵入者を見下ろしている観客のように頭上から軋む音を立てる。
磁場は狂っている。
コンパスは当然使えず、バベル王国騎士団の持つ魔力探知器は必ず一度は逆走を示したという。
北に向かっているつもりで、気づけば同じ倒木の前に戻っている――そんなことが一日に何度も起きるのが深黒の森だ。
風はほとんど吹かない。
それなのに、森の奥からは常にざわざわと、枝とも声ともつかぬ音が寄せては消える。
足元の土は黒々と湿り、踏みしめるたびにぎゅう、と吸い付くように鳴く。
そこにあるのは泥ではない。
魔界特有の魔素腐敗層と呼ばれる、魔素が凝り固まって変質した半液体――亡骸の魔素が堆積するとこうなるのだと、学者は記している。
時折、視界の端を影が横切る。
振り向けば、ただ黒々とした幹が並ぶばかり。しかし何かがそこにいたという感覚だけは、決して消えない。
そして最も恐ろしいのは、森そのものが拒絶している感覚だ。
樹皮の模様はときおり呼吸のように脈を打ち、枝と枝が自然に擦れ合っては、まるで言葉の形を模すように震える。
「帰れ」なのか「もっと来い」なのか判別できないが、どちらにせよ――人間が踏み入るべき場所ではないと、理性の底が告げてくる。
戻ってきた者は口を揃えてこう言う。
「次は返してくれない気がした」と。
このエリアを踏破した者は、バベル王国でも一握り。
そしてそのほとんどが口を閉ざしたまま二度と語らない。
創国期、今よりも特級能力者が多かった時代に勇者たちが挑んだという記録があるが、生還率は3割以下だったという。
地図を作っても磁場が狂い、毎回ルートが変わる。国内最高峰の闇系探索力を誇るアボット家をもってしても、周縁部の地図すら作れていない。
魔界学者の8割が探索前後に精神異常を発症したとか、最奥に近づくと魔力が半減し、戦闘すら成立しないとか、歴史の中でついた尾鰭はもはや神話の世界の物語のようだった。
およそ1000年前にバベル王国では深黒の森を禁足地と法に定めたという。
人の身で立ち入れぬ場所に入るなと禁じるのもおかしな話だが、「入れないわけじゃないから? あえて入らないだけだから??」という時の王の負け惜しみが聴こえるような法であった。
このような経緯があり、未だ信奉者の多い有力者であった犯罪者達の遺体は深黒の森に置かれたのだという。光も祈りも救いも届かぬ、呪われた森に。
いまや犯罪者達達の棺から屍人の棲家に変わった巨大な岩石城は彼らの目と鼻の先にあり、暗闇の中で仄白く光っていた。
その曰くしかない闇の森にパジャマ姿のまま現れた黒天使は機嫌よく浮かんだままふわふわと舞い踊った。
「わぁ〜♡ みなさんお元気でしたか〜? ソル、また背伸びた?」
「タイヨウは成長してないな。もう止まるのか? 母さんも小柄だしな」
「ええ〜! やっぱりそう思う? 魔力はまだ増えてるんだけどなぁ」
子犬のように戯れ合う特級能力者の双子だったが、しかし彼等ほど余裕がある者はそこにいなかった。
セバスとハンナが白い繭のように編まれた防御壁でレイ王子と玄蕃、そしてシノを守っている。
その周囲では南海ノックが集中して索敵を行い、それを麟五と飛梅が抜かりなく警護していた。
「ーーハンナ殿、やはり百目の目はここでは効くぞ。狂いそうになる程に魔素が濃いが、最も濃いのが闇系なので其方らの目は効かぬのだろう。一級以上の百目が慣れれば……そうだな、一日数時間は探索ができるはずだ」
「ほう。ナンカイ殿と申されたか? 実に興味深い。感覚共有をさせて頂いてよろしいか」
老紳士がモノクルを輝かせると、孫のハンナは頭を振った。自分たちの繭は瞬間的かつ壊滅的なダメージを避けるだけだ。貴人を守るためには油断しないほうがいい。
初めて来たが、エリア4は予想以上に狂った場所だった。
精神が侵食されるのも時間の問題だと本能が告げる。転移と共に、既にカウントダウンが始まっているのだ。
「お祖父様、また改めてになさいませ。ーーノック様、いかがでしょう?」
南海は脂汗を拭うと、ハンナではなく麟五に告げた。
「冷や汗の出る様なバケモノがウヨウヨいますが、隊長の魔圧を察してか一斉に遠ざかっています。ーーそして大変申し上げにくいのですが、繭を開く前に隊長の特級欠損について開示なされた方がよろしいかと」
麟五は形のいい眉を跳ね上げ、部下の言葉の真意を探った。
そして彼としては極めて、極めて珍しいことに、青ざめて唾を飲み込んだ。
「……まさか」
すっかり17才の怯える少年の顔になってしまった人類最強の男に、ノックは申し訳なさそうに頭を横に振った。
「その、まさかです。この辺りは魔獣はおりません。すべて魔蟲です。羽虫、ムカデ、ミミズ形態は感知しました。アレがいないはずがありません」
ーー名前も言えぬ、あの黒い悪魔が……!!
クモ恐怖症の麟五は戦慄した。
そしてソルにくるりと向き合うと、震える声を投げた。
「ここここここは禁足地だ。急いで帰ろう。蓼丸として法を犯す訳には……」
人類最強の男の突然の翻意に怪訝な顔をしていた飛梅がぽむっと手を打った。
「あ、蜘蛛!? 魔蟲の森ってことは蜘蛛がいるんですね? 教官、蜘蛛嫌いですもんね!!」
そして爛々と輝く瞳で矢を4本左手に持つと宣言した。
「どんな虫でも即やっつけるので大丈夫ですよ! 田舎育ちなんで、虫全然平気ですから!」
泳いだ瞳でコクンと頷き飛梅に近づいていく隊長を痛ましい面持ちで見つめていた南海はふと飛梅に目をやった。
「元気そうだな? トビ」
「はい!! なんかもうやっばいです!! 前にバベル来たときも元気いっぱいでしたが、ここもう……ソル様、タイヨウ様! ここやっばいですよね!?」
興奮する飛梅に双子は顔を見合わせる。
「あはは〜! 僕も初めて来たけど、確かに闇の気が濃いねぇ。でもエリア3の方がいい気がするな」
「わかる。混ぜ物が多い感じがして、嫌だよな。だから、俺もここにはろくに入ったことない。どうせバベル行くなら、この奥のウニャ湖のがよかったのに」
「でも、ゲラン城見に来たんでしょう?」
「それがよくわかんないんだよな。言い出したのはゲンバさんでさ」
「えっ! それっておげれつ……のBL作家さんだよね? 日本人の?」
「そうそう、おげサーの白濁⭐︎駅先生。先生はレイ王子の時の回廊に入ってたから、ここ一年の出来事は全部知ってるよ。日本人のタイヨウに会いたいって言ってたから」
「なるほど!? で、今どこにいるの!?」
どこまでも呑気なタイヨウに、ソルは顎で白い防御繭を指す。
セバスが鷹揚に頷いた。
「それでは解除しますぞ。繭の中にはレイ殿下、ドクターシノノメ、ミスターゲンバ、ミセスシノがいらっしゃいます。お時間は限られております故、要件を済ませてからご交流を」
ハンナはタイヨウに薄く微笑んだ。
「タイヨウ様、ご無沙汰しております。玄蕃様は約5年前、そしてシノ様は約60年前にミカド皇国にいらしたそうですよ。お二人とも、トーキョーから」
タイヨウはそれを見てハッとする。
ミカド皇国に行き、アボット家の柵から解き放たれたハンナは、随分と人間らしくなったようだ。
繭が開くと、玄蕃は「暗い!!!!!」と言いながら外に飛び出した。
そして辺りをウロウロすると、天を仰いでから絶望して膝をついた。虫の死骸でグチュグチュと音を立てる地面に。
「星、見えないじゃん!!!!!!」
狂人のごときふるまいにタイヨウがドン引きしているのを見たレイ王子は、苦労人の長男らしく穏やかな声で宥めた。
「ゲンバ氏、星など見てる場合では……」
「星見るのが早いんですよ! しかも今ちょうど良い時間なのに!」
キッ!と他国の王族を睨みつける玄蕃と、傘のように覆い被さる木々を見た飛梅が提案した。
「あれ、どけるくらいなら教官がすぐできると思いますよ。ね?」
だが、麟五はしっかりと目を閉じて現実逃避していた。
「教官! リンゴ君! 木、どけられる? 上のやつ、パーッて! 星見たら、きっと気持ちも落ち着くよ。ほら、やってみよ!!」
人生で体験したことのない高濃度の魔力にハイテンションになった飛梅は、まるで同級生に話しかけるように麟五の肩を叩いた。
視界も聴覚も狂う森の中、飛梅の声だけを聞いた麟五がふと顔を上げた。
「……星を、見る」
飛梅が戸惑って見上げても、そこにはねじれ合う巨木の群れしかない。昼でも光が届かない森で、星など見えるはずもない。
だが次の瞬間。
「天閂――天窓、開帳」
麟五の手が翻ると、空気が震え、風が舞い上がる。
一見静かな風だが森を怒らせない精密操作が施されている。彼は風の気を通して、木々の中の水の気に触れていた。
枝葉が触れられたように持ち上がり、黒霧が薄まり、木の天井がぽっかりと開いた。
辺りが月明かりに照らされる。
そして天にはーー……
浮かび上がった玄蕃が、自身の仮説が正しかったことを知って歓喜に顔を輝かせた。
レイ王子が満点の星空を父王と見上げている記憶を見て辿り着いた仮説が、今まさに真実として輝いていた。
「あった!! シノさん、タイヨウ君!! あれ見て!! 北斗七星!!」
名指しされたシノとタイヨウは顔を見合わせた。
2人とも、特に星に詳しいわけではない。
だが、柄杓型の北斗七星ならわかる。
星座の名前を言えぬ者も、北斗七星とオリオン座だけはわかるのではないだろうか。
だからこそ、同じ戸惑いが、2人の顔には浮かんでいた。
「玄蕃君……北斗七星、ないんじゃないかしら?」
「柄杓がないですよ〜」
2人の否定は、BL作家を有頂天にした。
「そう、ないんだよ!! でも、よく見て! 輝く星は7つあるよ。うすべったい柄杓があるだろう? 星ってね、移動するんだ。だから星座は時を経れば形が変わってしまう。ゴッホが見てた北斗七星と、僕たちが見ていたものは違うって言われてたくらいだ」
日本人達は戸惑い、一方、頭上に浮かぶ星は「北斗七星」だと思っていた、日本人以外の者たちは愕然としていた。
「どういうことなんだ? ゲンバ氏。……ニッポンとは、異世界ではないのか?」
レイ王子の問いに、玄蕃は頷いた。
「僕は興味を持って、北斗七星の変化を調べてたから頭に入ってるんだ。星々の位置は、数千年単位で少しずつ移動する。特に北斗七星はわかりやすい。あれほど形が崩れるには――およそ20万年は必要なんだよ。人間の歴史のスケールじゃ到底追いつけない、恒星レベルの変化だ。ここは異世界なんかじゃない。僕たちがいた頃から、大体20万年後の地球の、北半球のどこかだ」
あまりの衝撃に、星たちも瞬きを増したように見えた。
「パラレルワールドじゃなくて?」
タイヨウを日本からバベル王国へ連れてきた張本人であるソルは、しかし問いながらも玄蕃の論が正しいことを感じていた。
紛れもなく異世界である「時の回廊」に入ることは、天才の彼を持ってしても困難だった。
やたら魔力は使うため、一年に一度しか行けない日本の方が、彼には身近だった。屈指の闇属性能力者である彼は、壊れたものを復元する魔術も扱えたため、時間を飛び越えていたというのは納得できる理論であった。
「――違う星? パラレルワールド? この世界に転移した直後は僕もそう考えたよ。でもね、もし本当に別の星なら、生物の造形はこんなに似るはずがないんだ。二本足で歩く。酸素を吸って代謝する。この重力で骨格がきれいに保てる。環境が違えば、生命の姿はもっと極端に変わるはずだ。これは偶然同じに見えるなんてレベルじゃない。生物学的に、物理的に、構造が一致しすぎている。つまり――ここは異世界なんかじゃない。20万年後の地球だよ。僕らがまだ知らない未来の姿に、僕ら自身が放り込まれただけなんだ」
「未来……? 20万年後って……そんな馬鹿な」
飛梅がつぶやいた。
声は落ち着いているのに、指先だけが小さく震えている。
戦場で数え切れない怪異を見てきた彼女でさえ、想像の射程外の話だった。
あまりにも規模が大きすぎる。
自身の常識も、歴史観も、宗教観さえも根底から覆される。
進んだ文明を持つ異世界人が、過去の人々であったなんて。
「――どうしてなのか、正確な理由はわからない。でも、ひとつだけ確信していることがある。僕らがいた元の世界は、おそらく滅んだんだ。文明が、歴史が、僕らが生きた時代そのものが、どこかの段階で終わったんだと思う。暗黒大陸とバベルの人々が呼ぶ、前人未到の大ゲヘナにはその痕跡が残っているかもしれないが……その後に現れた世界では、エネルギーの仕組みがまったく変わってしまった。魔力と呼ぶべき新しい流体が生まれ、それを利用する生物も、環境も、体系ごと別物になり……だから魔獣が増え、魔蟲が台頭し、そして――屍病なんて現象まで起きるようになった。これらは全部、異世界だからじゃない。未来の地球が、別の物理と生態系に作り替わった結果なんだよ」
シノが震える声で言った。
「でも私は……子供を産んだわ。ガンさんと。ミカドの男の人と……もしここが未来の地球なら、私……本当に同じ人間なの……?」
ーー命にも替え難い、可愛い息子達に弊害はないのか?
本当は、そう問いたかった。
でも恐ろしくて口にできない。
シノの両手は声よりも震えていた。
自分のせいで、子供達の血に、身体に何か影響はないのか?
そんなシノの不安を断ち切るように、東雲玄斎が一歩前に出た。
瞳は揺れていない。
彼は、医学者として既に状況を飲み込んでいた。
「シノ様。――心配には及びません」
淡々と、しかし威厳のある声で続ける。
「種というものは、20万年程度では分岐しません。遺伝的に見ても、交配は問題なく行われるのです」
シノは目を見開いた。
玄斎はさらに言葉を重ねる。
「そもそも、シノ様が無事にご出産され、お子を育まれたことが何よりの証明です。人類という生物は、形質が大きく変わったように見えても、基本構造は強靭に保たれるものなのですよ」
その説明は、シノの胸に走っていた己への恐怖を少しずつほどいていった。
一方、東雲玄斎の顔は険しさを増した。
何故ここに玄蕃が日本人を並べたのか、その意図の帰結することを悟り、それでも尚、その答えを口にするのは憚られた。
玄蕃は、頑是ない幼児を見るように老医師の顔を見てから、レイ王子に尋ねた。
「レイ様。君の血にも流れているアーシリア王家の人々は、魔力への適応が長けていて、とても長生きなんだよね?」
自らの凄惨な過去を時の回廊で見たのであろう玄蕃の言葉に頷いたレイ王子は頷き、そして教師らしい説明で応えた。
「ああ。彼らの寿命は二百年ほどだ。我が国はーー濃い魔素に晒され続けるノーマン領の人々が特に早世が多く、長年平均寿命が50年ほどだったから、アーシリア一族はエルフの末裔を自称していたほどだ。私も含め、タイヨウ君や弟のカザン、その世代の若者達は魔力に適応しているから、おそらくアーシリア級まで生きるだろうね」
そこで玄蕃は、言葉を選ぶように視線を落とした。
ミカド皇国人――つまり、この未来の地球の住人たちの顔を見るのが辛そうだった。
その前段階として、シノとタイヨウに問いかける。
「……ねえ、二人とも。日本人は、二千年なんて生きられないよね?」
タイヨウは目を丸め、シノは驚くよりも先に苦笑いした。
「そんな訳ないでしょう!」
「日本人の寿命なんて……百年生きられたらすごいって表彰されるくらいですよ」
二人とも当然のように頷く。
玄蕃は小さく息を吐いた。
そして、言いにくそうに――しかし避けては通れぬ真実を、静かに紡ぐ。
「……僕ね、ずっと勘違いしてたんだ。皇に会いたい、と言ったとき、皇天宮の神官たちはこう言ったんだよ。“日本神は長生きですので、いつかお会いできます”って。彼ら、日本人を神みたいに崇めるだろ? だから、大げさに持ち上げているだけだと僕は思った。それに……皇なんて呼ばれて、過剰に祀られてる日本人なら、恥ずかしくて同胞と会いたくないのかもって、そんな風にも考えた」
玄蕃は苦い笑みを浮かべる。
「でも……違ったんだ」
その声音は、信じたくない現実を押し出すように震えていた。
「ミカド皇国人が皆、幼い頃から習うミカド書紀って本があるんだね? レイ王子の記憶にアクセスして、僕は読んだ。――そこには嘘偽りなく、こう書いてあった。皇は二千年以上、生きている。代替わりもしていない」
「えっ……?」
そこでようやく、シノが異常に気づいた。
日本人である彼女は、“皇”とは称号だと思っていた。代替わりし、受け継ぐものだと。
自分より前に来た、他の日本人が名乗っているのだと。
(私ですら、これほど驚くのにーー……)
ミカド皇国人の顔は、彼女も見ることができなかった。
「皇とは皇という称号を継いだ誰かではなく――最初にミカドを作った少女そのものが、今も存在し続けているんだ」
玄蕃は顔を上げる。
「二千年だよ……? 僕らの言う古代が、彼女にとってはつい昨日みたいな時間なんだ。ミカド皇国を創った少女が、二千年という時間を、たった一人で生き続けている。屍病は、その綻びなんだ」
未だ信じられぬ思いで口をぽかんと開く飛梅の横で、言葉と顔色を失ったのは、麟五と南海だった。
二人は日本人を、異世界から来た不思議な人々だと思っていた。
その延長で、皇が二千年生きるのは当然だと――どこかで甘く、無邪気に信じていた。
しかし、日本人が子を成せるほど、我等と変わらぬ存在であるならば。
2000年生きるなど、日本人ではない。
いやーー人ですらない。
麟五は、背筋を氷で撫でられたように固まった。
南海は、喉がひゅっと鳴るのを止められなかった。
目の前に差し出された現実が、彼らの理解をはるかに越えていく。
日本人は異世界人であり、神であるという幻想が砕け散った瞬間だった。
日本人は、ただの人。
神はいない。
彼らが崇め、恐れ、憧れさえ抱いていた存在が――想像を超えた人外であった。
そして、二人は立ち尽くしたまま理解する。
敵は、人ではない。
世界そのものを二千年かけて作り替えた皇という化物なのだと。




