35. 飛梅の覚醒
次の瞬間、集めた視線をその場に残し、転移したかのようなスピードで麟五が兄と飛梅の間に入った。
背後に護ることしかできないのが口惜しい。
本来なら、闇エネルギーか闇属性能力者を連れ帰れば飛梅は解放されるはずだった。にもかかわらず、兄は飛梅をこの場に立たせていた。
その理不尽に、胸の奥で何かが切れた。
「――飛梅に何をさせる気だ」
その声に、備悟がいつもの柔らかな笑みを浮かべる。笑っているが、これは譲る気のないときの顔だ。
「確かめてもらうだけさ、リン」
「何をだ。闇属性の者を連れ帰れば飛梅は放免にするという話だったはずだぞ」
こちらの言葉を「子供の言い分」とでも思っているかのように、兄はゆったりと声を落として説明を始めた。
「私も困っているんだよ、リン。要望の50年ではなく、たった5年留学される人物が此方の御庭番衆アボット家らしくてね。一族以外への鬼道……カルマの公開が命約で禁じられているそうなんだ。鑑定は出来るというが、どこまで使えるか未知数だ」
“どこまで使えるか”?
ハンナをまるで器具か消耗品のように扱う言い草だ。
それに反応したタイヨウの魔力が揺れたのを、麟五は即座に感じ取り、声を遮った。
「鑑定さえできるならば問題がないだろう。もういい。下がれ、飛梅」
『蓼丸教官……!』
飛梅が後退しようとした、その眼前へ兄は指を突きつける。
「ダメだ。もはやこれが闇属性であるか知るだけでは放免にできぬ。3時間以内に闇エネルギーだけを分化させることができなければ郎党共々予定通り処分する」
『そんな……ママは、母は関係ないのに!』
「関係ないはずがない。教唆、隠蔽の罪が重なるのだ。其方より重いくらいだ」
その言葉に思わず飛梅が駆け寄り、兄へ手を伸ばしかけるのを見て、麟五は怒気をのせて叩きつけるように声をあげた。
「飛梅! 相手は幕臣だぞ。下がれ!」
飛梅は従ったが、その頬を伝う涙に胸がざわついた。兄が、飛梅を、人ではなく盤上の駒として扱うことに、吐き気すらする。
その膠着を破ったのはヴォルフガング領の商人の少女リリガルドだった。タイヨウと仲が良いらしく、朝から一緒に連れ立っていた人物だ。パーカーに細身のパンツと衣装までタイヨウとお揃いだった。
桃色の髪を揺らし、勝気そうな豹のような瞳でリリガルドは備悟の前で首を傾げた。
「――ねえ、お兄さん。さっき“担保”って聞こえたんだけど。それって聖誕祭費用の分割払いに関すること? その“担保”があれば応じるって話?」
兄は一瞬、平民と侮った目をしたが、ヴォルフガング翁が止めないのを見て態度を変える。その辺りの計算の早さは、昔から変わらない。
「――いかにも。滞在50年を5年にする価値があることを証明する担保です」
それを聞いたリリガルドは一息に整理する。
「オッケー。国家間の契約の話はヴォルフガング様に任せるけど商売の話ならアタシが聞くわ! アタシはリリガルド・オータム。聖誕祭領連合のプロジェクトマネージャーよ。お兄さんの要求は①闇属性か鑑定する②闇エネルギーを分化する でいいのね? 分化っていうのは何を指すの? どの状態?」
兄がその理路を良しとしたのが顔に出る。やはりヴォルフガング領の人間とは水が合うようだ。
「分化の証明は……そうですね。これが空の魔石を闇エネルギーだけで満たせればよい。測定器は此度のエネルギー輸送に伴い頂いたものを使用する」
「そう、動作チェックになるから丁度いいわね」
ひとつ頷くと、トトトッとバベル一同の前に出てリリガルドは手を広げた。
「カンタンな話なんじゃないかと思うんだけど、どう? 運営としては、このタイミングで冨籤に関する資材を一式もらいたいの。そこは譲れない。3時間内っていうのはWin-Winよ」
するとメイが胸元から『1日限り』と何よりも大きな字で記された紙を掲げる。
「カグヤ妃、ヴォルフガング様、ノーマン様にご承諾いただければ、アボット家当主代行の私が見ますよ。当主の鑑定は即時確定となりますので効力は十分かと存じます」
当主ジョルジュ・アボットのサインを見たカグヤ妃が肩をすくめる。
「否やなどあるまい、やりゃ」
ヴォルフガング翁は鷹揚に頷き、フォルクスはコキリと首をならして備悟の紺色の瞳を見つめる。
「ノーマンも大枠イエスだが、鑑定はハンナにやらせろよ。それをメイが承認すればいい」
「その真意は……?」
備悟が目を細めると、フォルクスは笑った。しかし、その魔圧は、はっきりと殺意に近い気配を帯びている。
「ハンナの優秀さをここではっきりさせとこうかと思ってね。今日そちらに渡すハンナはウチの天使が姉のように慕うメイドでね。国宝級の防犯ブザーを持たせるような存在なんだ。それを壊れてもいい鑑定具や魔石のように扱ってもらっちゃ困るんだよ。ーーなあ、兄さん。これはアンタを守るために言っている。特級能力者の娘を本気で怒らせたらどうかるかわかるか? ミカドに帰ろうが闇属性の娘からは逃げられない。アンタは死ぬぞ」
フォルクスの首を掻き切る仕草、そしてそれを否定しないタイヨウに備悟が息を呑んだ。
フォルクスは「安心しろよ、この場だったらアンタだけじゃない。魔圧に耐えられなくて爺さんも、あの後ろの職人たちも死ぬ。寂しくないな?」と朗らかに高能力者以外を指していく。
「トビーとかいう新米の言ってることはミカド語でわかんなかったが、察するに言いがかりでもつけて人質をとってるんだろ? 事情があるのか知らんが、俺が胸糞悪いからやめろ。やめる褒美に鑑定はしてやる。だが魔石にエネルギーを入れるまでは保証しない。それはトビーの能力など不確定要素が大きいからな」
「そんなことが罷り通るはずが……御老公!」
怒気をぶつけられたヴォルフガング翁はわざとらしい仕草で老眼鏡をかけ、目を眇めて契約書を広げて見る。
「――はて、追加担保のお話は契約に元々なかったですからのぉ。貴殿に快くハンコを押して頂けるのであればと思って先ほどは頷いてしまいましたが、ノーマンの言い分にも一理ありますしなあ」
どうしたものか、とヴォルフガング翁が芝居じみた仕草で頭を抱えた。それを見たフォルクスは、肘置きのように備悟の肩に太い腕を置き、にこやかに顔を覗き込んだ。
「リンゴの口ぶりじゃ、オタクが元々描いてた絵図は鑑定まで、なんだろう? 若者は欲かいちゃいけないよ。汗かかなくちゃ」
「特別消禍隊の者の発言など……」
「おおっと? どうやらアンタはリンゴより随分御立場が上でいらっしゃるようだが、リンゴが歯向かえなくても俺は違う。――もう一度言う。俺と娘を怒らせるな」
闇属性の日本人という稀有な存在と、自身が置かれたかつてない不快な状況とを天秤にかけて、備悟は肩に置かれたフォルクスの手を払った。
「無礼がすぎる」
だが踵を返してミカド皇国へと戻ろうとした足は、ぴたりと止まった。帰るための転移門は跡形もなく霧散していた。
驚愕してタイヨウを振り返れば、少女は指先に挟んだ木札をチッチッ!と揺らしていた。
「ハンナさんを安心して送り出せないなら、門は開けませんよ。あなた一人で泳いで帰ってください」
「タイヨウ様、貴女まで何を……! 日本人といえど御庇い立て出来ませぬぞ!」
「庇ってもらわなきゃいけないのはアンタだろ? 顔の割にバカだな」
控えていたヒューが心躍ると言った顔でフォルクスの横に並んだ。ミカド皇国で向けられたことのない魔圧に血の気が引く。
「リン!」
しかし兄の必死の声に弟は動かなかった
ハッ!とフォルクスが鼻で笑う。
「動けないよなあ。この距離で俺を止めるために動けば低能力者のお前が死ぬからな。言っとくけどな? 確かにリンゴは強いが、風単体なら俺が勝つぞ。万が一、億が一、俺が負けてもヒューがいる。そして決着がつくまでの魔圧にお前は耐えられない」
「愚かな。御老公も死ぬぞ」
「そんなんタイヨウが転移させるに決まってんだろ。ああ、いっそ迷惑をかけないようエリア3に場所を移してもいいな。結論、お前はどう転んでも死ぬ」
その刹那、備悟の目が麟五の左眼をさっとよぎった。
ミカド皇国でも一握りしか知らぬ、護国印の縛り、人を殺せぬという理を思い出したに違いない。
処理落ちしたPCのように表情をなくした備悟にカグヤ妃がゆらりと歩み寄り、扇子を広げながら憐憫に満ちた顔で話しかけた。
吉原の花魁ではなく、一国の王妃として。
しっかりと視線を合わせることで、立場が対等であると伝えていく。
「――ああ、困りんしたなあ蓼丸殿。ここは誠意を見せて……そう、疾く印を捺した方がよいのでは? タイヨウ様もキリキリしなんすな。殿もお優しい方故……調印の後、ゆぅっくり3時間。ハンナの扱いはお話しすればわかってくれるはずえ?」
言葉の裏の意味は理解せずとも元気一杯にタイヨウが頷いた。
「はい! わかってもらえるまでお話します! わかるまで門開けませんけど!」
嫣然とカグヤ妃が微笑み、まとう香りが一段と濃くなった。
「ほほ、愛いこと。タイヨウ様は息子の嫁でありんすよ。なあ、タイヨウ。母たるわっちがダメだと言ったら、殿に無体なことはせんわなあ?」
「もちろんです! 無益な殺生は祖母から禁止されてますし! 父様も止めますよ。あ、でも僕で止められるかわかりませんが……」
「ハッハッハッ! パパは強いぞう?」
バベル一同が笑い合っている中、カグヤ妃が備悟の耳に顔を寄せる。
「我ら観月宮……末の天道領はミカドの門。幾久しい共栄しか望んでないでありんす。此度の件、殿のお庇い立てはわっちがいたしんしょう」
庇う。それは上位に立つ行為だ。
反射的に顔を歪めた備悟の首を、カグヤ妃はつつと熱くした爪で撫で上げた。
「わかっておくれなんし。お一人でお越しいただいた大切な殿が野卑な国の瘴気に耐えられなんだ、などとわっちからお上にお伝えしたくはないでありんすよ」
ミカド皇国の常識に凝り固まっているが、頭の悪い男ではない。備悟は瞳を閉じてひとつ呼吸を整えると、バベル一同を笑顔で見回した。
「――調印をいたしましょう。こちらも貴国の闇エネルギーを疾く持ち帰りたいですから。その間に、ミカド皇国に御留学いただくハンナ・アボット様に飛梅一士の鑑定をしていただくことが出来ましたら幸甚です」
兄がようやく折れた瞬間、麟五は小さく息を吐いた。
これで飛梅が助かる。その事実だけで十分だった。
フォルクスは不敵な笑みで頷くとハンナを手招きした。
「ハンナ、まず一士に翻訳呪文をかけてからやれ。メイ、請求はビンゴ君にツケとけ」
「なっ……翻訳呪文は幕府でも蓼丸一族のみの扱いとなっておりますので一士などには……」
「ああ、翻訳呪文の対価は100万ゴールド相当だったか?」
「500万ゴールドじゃ」
「がめついな、爺さん……。なあビンゴ君。ケチくさいこと言うなよ。俺が一士と話したいんだよ。お前に決定権はない。諦めろよ」
やれ、と言われたハンナが白手袋を取りながら飛梅の前まで歩いていく。フォルクスの言葉がわからない飛梅が怯えた目で麟五の袖を掴んだ。
『蓼丸教官……』
そのか細い声に、心の弱い所がつきりと痛む。
務めて柔らかな声で、麟五は伝えた。
「今からお前に翻訳術をかけていただく。俺も昨日かけて頂いたが、身体に負担は一切ない。施術者は向こう5年間ミカドに滞在されるハンナ・アボット様だ。日本人であられるタイヨウ様の大切な方とお伺いしている。失礼のないように」
『ハッ!』
上司の説明を疑わず、安堵した表情で飛梅は気をつけの姿勢をとり口を閉じた。
麟五の説明にフッと口元を緩めたハンナが人差し指を飛梅の額にそっと当てた。指を離すと、常の鉄仮面フェイスで飛梅を見つめる。
「……私の言葉がおわかりになりますね? トビウメ一士」
「はい! わかります!」
「よろしゅうございました。初めまして、ハンナ・アボットと申します」
「ハンナ様……! えー! すご……蓼丸教官、これ自分の口どうなってるんですか? 自分、今バベル語喋れてるんですか!?」
「飛梅、黙れ」
「ハッ!」
ふたたび気をつけの姿勢に戻った飛梅にフォルクスが上官のように命じた。
「直れ、トビウメ一士」
反射的に応じようとした飛梅の頭を叩き、麟五はフォルクスを睨んだ。
「……フォルクス殿、飛梅は私の部下であり、直接の指揮はお控えいただきたい」
「ああ、悪い。確かにな。じゃあお前に聞く。オタクの新米と話していいか?」
困惑の色がクルクルしている飛梅の眼を見てから、蓼丸はため息をついた。
「……俺が見ている前なら構わない」
「よし、トビウメ一士! 俺はバベル王国防衛局長フォルクス・バロウズ・ノーマンだ」
「ハイッ! 自分は特別消禍隊第……」
偉大なる軍人に敬礼しながら挨拶しようとした飛梅を手を振って止めながらフォルクスがハンナの横に並んだ。麟五と飛梅は小柄のため、備悟からは顔が窺えなくなった形だ。
「挨拶はいい。ハンナが今からアンタの能力を鑑定するよ。それで属性や魔力量の詳細がわかる。だが俺もこの世界じゃ長いんでね。周りの人間が自分の魔圧で死ぬかどうかくらいは把握できるんだ。ーーアンタは死なない。何某かの特級だ」
その言葉に麟五が眼を丸くし、飛梅をまじまじと見た後に口を覆った。
なぜ気づかなかったのだろう。
確かに、今まで感じたことのない魔圧がそこにあった。抱えていた空洞に闇魔力が満たされた飛梅は、確かに特級能力者の圧を放っていた。
認知と共に湧き上がった実感は理屈より早く、もっと原始的だった。
同じ深度の魔を帯びる者同士が惹かれるときの、どうしようもない引力。
避けようのない衝動。どろりと瞳が暗くなる。
麟五の魔力が、飛梅へ、音もなく寄った。
(……やめろ)
しかし、心で制しても、身体は嘘をつけなかった。
麟五の様子にフォルクスはニヤリと笑いながら黙れと言うように唇に指を当てる。
「トビウメ一士。あっちにいるタデマル兄はお優しい方でな。お前が闇属性かどうかだけ調べれば諸々ぜーんぶ無罪放免にしてくれるそうだ。終わったら安心して国に帰りなよ」
「えっ、ほんとですか!?」
フォルクスの言葉に喜色を弾けさせた飛梅だったが、表情を取り繕ってから恐る恐る備悟を伺う。
「な、ビンゴ君? そういう話になったよな?」
ぐるんと振り返ってフォルクスが尋ねるが、憮然とした顔で応えない備悟を「ビンゴ君? 返事は?」とさらに追い詰める。
「……そのようになっている」
それを聞いた飛梅は瞳に涙を浮かべ、震える口を引き結び、「よかったぁぁぁ」と顔を覆ってしゃがみ込んだ。
ふよふよと飛んできたタイヨウがぽふぽふとその頭を撫で「メロスを信じてよかったですねぇ、セリヌンティウス?」と微笑んだ。
「しゃがんでる場合じゃないぞ。ほら立て。ハンナが鑑定するからメイも来い。ビンゴ君も来なさい。鑑定自体は危ないもんじゃないから横で見てなさい」
名指しされた人物が揃うと、ハンナは長い前髪に隠された鑑定眼を紫光で輝かせた。
「闇属性、150000。水属性、5000弱。混在する能力を持つ者の基準はまだ決まっておりませんが……現段階の当国基準においてトビウメ一士は極めて優秀な闇系特級能力者です」
言われた飛梅本人はポカンと口を開いた。
その両頬をむにゅっと掴むと鑑定眼を光らせたメイがキスするほどの距離に顔を寄せて眼を覗き込んだ。
「次が風……闇系なのに、やっぱり他の系統もあるのね……あなたも水をベースに分岐点を持ってるの? それとも闇? お嬢さんよく見せて」
「母さん!」
ハンナに首根っこを掴まれて引き戻され、フォルクスに頭を叩かれたメイが眼鏡を直しながらいう。
「――アボット当主代行として、鑑定が正しいものであると証明します」
ほう、と感歎まじりの声を漏らした蓼丸兄が、誤魔化すように咳払いをしてから言った。
「なるほど。結果は喜ばしきことだが貴家当主代行の鑑定価値は現時点で我が国においてない。やはり魔石にエネルギーを入れてもらわないとこちらとしては……」
ハンナが片眉を上げて備悟に問う。
「トビウメ一士が闇属性だと証明すればいいんですか? あなたにわかるように」
「それはそうだが……出来るのですか?」
素早く備悟の能力を鑑定し、彼が五級程度でしかないと悟ったハンナは一瞬考えるように視線を上げ、飛梅の顔を見てから微笑んだ。
「トビウメ一士、失礼しますね。“アンヴェール”」
右手を飛梅の胸部の前で一閃させると、紫の光でできたヴェールが広がった。その光が消えた瞬間、ポンと聴こえるかのような勢いで飛梅のバストが膨らんで隊服を押し上げた。
特別消禍隊訓練士の正装である白い正隊服は、いつもの隊服とは異なり、タイトな作りだった。
瞬く間にその正中線の境目を裂くように豊かな谷間が顕になった。
主に男性陣の注目が自分に集まっていることに気づいた飛梅は、視線を追って胸部を見て青ざめ、追って赤面した。
「きゃああああっ!?」
「闇系能力の基本は“転移”です。意識を転移させる、認識阻害もその応用です」
「前が閉じないい!! なんでえええ」
「ご覧のように、何のためかはわかりませんが、トビウメ一士は胸部への認識阻害を日常的にかけていたようですね」
「サラシが、布が足りないいい!!!!」
「闇エネルギーの少ないミカド皇国において継続してそれが出来ていたことが彼女の能力の証左となりましょう」
「み゛ゃっ!?」
身体強化した腕で隊服の前を寄せたことでビリビリと背中が裂けた飛梅に、我に返った麟五がトレーニングジャケットを脱いで羽織らせる。
縋りついてきた飛梅の頭を抱きながら怒りを滲ませた眼でハンナを睨むと麟五は言った。
「カグヤ殿、観月宮に俺の服に予備があっただろう。一着いただきたい」
状態を愉しんでいることを隠そうともしないカグヤが機嫌よく頷いたのを見て、セミマルが駆け寄ってくる。
「タイヨウちゃん、ホタルに言ってくんな! 今の時間なら内宮にいると思う」
「はわわわ、もちろんです! 急ぎますよ! トビちゃん」
転移したタイヨウが飛梅の腕をとると、2人の姿は魔力の余韻も残さず瞬時にかき消えた。




