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大江戸オブ・ザ・デッド〜魔法全盛の江戸で、弓しか取り柄がない私ですが兄を探してます〜  作者: 森戸ハッカ
第一章:水の段『水は道なり。行くべき先を拒まぬ』

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3. ハートをゲット! トキメキ入隊試験

 ミカド皇国の首都江戸では過去700年にわたり、「屍人(しびと)」と呼ばれる異形の存在ーーいわゆるゾンビーーの発生が繰り返されてきた。彼らは死して尚動き、理性を持たぬまま生者を襲う厄災として、長きに渡り江戸の人々を脅かしている。


 これまで三度にわたる大火によって焼かれた江戸の街だが、その背後にはいずれも屍人の影があったという。


 その脅威に立ち向かうべく、かつて町火消しとして活動していた「いろは四十八組」を母体に、より高い専門性と武力を備えた上位機関--特別消禍隊が組織された。


 屍人は意思なく動く死体だ。腐敗した肉体を保ちながら、極めて高い生命力--と言うことに語弊があるとし、機動力とする学者もいる--を有し、傷を受けても活動を止めることはない。


 また屍人化は噛まれるなどの接触で感染するため、被害の拡大を防ぐには迅速かつ的確な対応が求められる。


 近年、特にこの15年で屍人の発生率は激増し、人々は不安を抱きながらも日々の営みを続けていた。


 ミカド皇国人口の過半数以上を占める江戸の特別消禍隊は現在十組存在し、それぞれが独自の編成を持ち、技術と能力を磨き続け、屍人の脅威と対峙していた。


 魔法を扱える能力者は6段階に分類される。下は五級から一級まで。三級からが上級能力者だが、さらにその上に“1人で国を潰せる”と言われる特級という最上級が存在している。


 今年度の新卒採用は10名予定だ。


 実技試験はいずれかの三級以上であること、そして鬼道と呼ばれる特殊技が一つ以上使用できることが条件とされ、成績上位者から並べられたリストの中から新卒採用を希望する隊の隊長が指名をするというドラフト会議スタイルが特徴だった。


 攻撃系能力者にとっての国内最高峰の職種ではあるが、難関ではあるため倍率はそれほど高くはない。


 そして今、既に10名の候補者がリストアップされた状態で、飛梅音が1人で再試験を受けさせられていた。


 水系、風系の2系統で三級以上という好成績ではあったが、今年度の受験者は豊作で一級も2名いた。

 

 試験会場は孝悌苑(こうていえん)と呼ばれる消禍隊訓練施設。基礎訓練から専門教育まで行われる広大な演習場では日々、隊員の養成や防衛能力の強化など様々な訓練が行われている。


 蒼穹の下、屍人の呻き声と鎖を引き摺る鈍い音が響く中、ひとり立つ飛梅の姿は静寂そのものだった。


 その両の手にはしなやかでありながら凛と張り詰めた和弓があり、その後ろ姿はまるで神域に咲いた花のようだった。いや、屍人が蠢く地獄に咲く花かもしれない。


 試験では15分以内に3体以上の屍人を破壊することが求められる。手段は問われない。


 しかし、この試験を通過できない者が毎年一定数発生する。ーーしかも、少なくはない数が。


 年間一万人程度発生する屍人は、“元・人”だ。屍人化から日が経っていない個体ほど、“隣人”に見える。


 老若男女、子供まで混ぜられた試験用屍人達を屠ることに生理的嫌悪感を持つ者はここで脱落する。行為を殺人と認識した時点で負けるのだ。


 屍人になった瞬間に、人は人でなくなる。

 

 そう割り切り、家族であっても、恋人であっても、友人であっても、躊躇わず攻撃ができる者だけが特別消禍隊の門を叩けるわけだが、その点において飛梅音は何ら問題がなかった。


 構える。

 息をととのえる。

 そして、放つ。


 その一連の動きは、どこまでも澄み切っていて、静寂が形づくるひとつの芸術だった。背へと流れる弓の弧が空気をわずかに震わせ、たった一瞬の所作に永遠を焼きつける。


 矢は狙い違わず頚椎を貫き、首を跳ね飛ばし、相手の動きを断つ。


 荒事であるはずなのに、歩幅も、伸びた背筋も、弦を引く腕の軌跡さえも、すべてが研ぎ澄まされ一切の無駄を許さない。


 そこに残るのは、ただ弓を放つためだけに磨き抜かれた動きの純度だった。


 見ていた試験官達は、いつしか息を止めていた。放たれた矢が空を裂き、首を裂く鈍い音が響くと、再び呼吸ができるようになる。


 続けて3射、10本の矢が的に刺さったところで、異変は起きた。振り返った飛梅の手には10本の矢が握られている。 

 

 取りに行くでもなく、風など他系統の能力を使った形跡もない。まるで矢に意思があるかのようだった。あるいは瞬間移動の能力というファンタジーであるかのように。

 

 本人は汗ひとつかいておらず、ただ静寂の中で沈黙した敵を見つめていた。先ほどの試験でも起きていた事象だ。


「だから、なんでぇぇぇ……ッ!?」  


 鑑定を担当する技官達が謎の現象に頭を抱えた。


 試験屍人の上限は十体。先ほどの試験も併せて、十四体をそれぞれ5分以内に撃破したことになるが、出力鑑定は3級程度。何らかの能力を発動して瞬時に矢を手に戻しているのだろうが、鑑定器では確認ができなかった。本人の体力も減っていない。


 『何が起きているのかわからないが、再現性のある何らかの方法でコスパよく敵を撃破している』という初めての事態に試験官達はまた頭を突き合わせて審議を始めた。


 特別消禍隊江戸十隊はそれぞれ得意分野がある。火を操る者達が集まる隊があれば、氷系統、機動力に長けた風系、医術に長けた水系が集まる隊もあった。

 

 最終的な配属は各隊の隊長に委ねられることから、試験官には屍人撃破試験に関して『技』の詳細な報告が求められていた。火系が強い隊に氷系が入るなどは非効率だし、新人の離職率も上がってしまう。


 今期の最優秀新人の場合はこうだ。基礎能力鑑定の附帯された身体測定の結果と共に『屍人十体を7分で撃破。使用鬼道は“鬼道火ノ九 焔犬曼荼羅(えんけんまんだら)”』と記載されている。


 そこにさらに試験官それぞれのコメントが沿えられて選考に利用されるのだが、飛梅の場合は『屍人十体を3分で撃破。使用器具は弓』で筆が止まってしまう。

 

 書くことが少なすぎるが『弓がなんでかわからないけど手元に戻る??』『威力は高いが魔力が減った様子はなく、上限が全く読めない』などを書くことができるはずもない。そもそも、採用するべきかどうかすら決定できなかった。


「あの〜……もう一回やった方がいいですか?」


 飛梅が試験官達が集まる席に向かって小首を傾げた。


 再審議になっているという状況は本人も理解していたが、理由がわからず、そのため顔は不安そうだ。何度でも出来る体力はあるが、肝心の屍人は全滅させてしまったし、このままではパフォーマンスを見せることもできない。


 顔を見合わせた試験官達の中から、年嵩の女性試験官が躊躇いがちに口を開き「……三級以上の鬼道(きどう)を使ってみてもらうことはできますか?」と尋ねた。  


 鬼道は呪術だ。独自のものではなく、先人が編み出した術を使えればよい。


 素直という性格が形をとったような飛梅は、顔を輝かせて頷いた。


「もちろんです! 系統は何でもいいですか?」

「はい。攻撃系、守備系、医療系問いません。その……屍人への攻撃で鬼道が確認できなかったため、です」

「承知です!」


 飛梅は凪いだ海のような眼で試験官達を捉えると、手印を切って鬼道呪文を唱えた。声が微かに二重に聞こえる。確かに魔力が込められている証だ。


『濯げよ 澄みの月影

流せよ 眠れ 水母の夢

溶けよ 水泡の理へ

“鬼道水ノ伍 白鯨静睡”』


 その瞬間、力ある者には、魔力で出来た白鯨が身体を通り抜けていく姿が見えた。


 “白鯨静睡(びゃくげいせいすい)”は広域の癒しの術だ。屍人を瞬く間に全て打破したため、攻撃ではなく体力を回復させることにしたようだ。


 ーー自分ではなく、疲れて見える試験官達の体力を。


 術は確かな水準で、疲れだけでなく、胸の奥に溜まっていた澱のようなものまで溶けて消えたように感じた。怒りも、悲しみも、焦燥も、言葉にならぬ悩みすらもーー。


 三球以上の高度な技の実演を頼んだ女性試験官は、飛梅の消費魔力がほとんどないことに気付き「規格外すぎる……」と再び頭を抱えた。


 試験官は10名。彼らの評価の一番上と一番下は切り捨てられ、その間の8人の評価の平均とコメントが使用される。試験官達の本来の業務は『百目(ひゃくめ)』と呼ばれる索敵部隊だ。協力業務である試験の評価を外したとしても組織から叱責されることはないが、メンツには関わる。


 互いを窺い合う何とも言えない顔を見合わせる中、重さを感じさせない動きで小柄な男がひとり、試験官達の前に飛び降りてきた。


 『七』と白く胸元に記された黒いトレーニングウェアを纏った腕が、卓上の履歴書を無言で取り上げる。


 真夜中の空のような紺色の髪に、金色の瞳。端正な面差しの中で、左眼に浮かぶ紅の五芒星が目立つ。


 全属性で特級以上の能力を持つ最強の者だけに与えられる護国印を輝かせているのは、ミカド皇国能力者の頂点に立つ蓼丸麟五(たでまるりんご)であった。


 国内屈指の名家の令息でありながら、江戸特別消禍隊のトップランナー第七局の局長を務める麒麟児が履歴書に目を滑らせる様に試験官達は息を呑んだ。


「た、蓼丸様……?」


 トレーニング帰りだった蓼丸は、身体を通り抜けた白鯨静睡に呼ばれるように会場に来た。


 魔力は、魔力でしかない。

 筋力と同じように、エネルギーとしての量や質があるだけで、そこに美醜があるはずもない。


 だが、先ほどの白鯨静睡は美しいと感じた。蓼丸は感じたことのない感覚の答えを探るように、履歴書を眺める。


(先程の白鯨はこいつからか……?)


 飛梅音、19歳。男。

 中学卒業後、江戸呪術高専に進学。基礎水系と風系で3級。中学から地元で消防団員を務めてきたとある。この能力者達の時代に、弓道の師範代であるという資格欄の記載は意味を持たない。


(だが、なぜか気になる)


 蓼丸は平坦な眼で飛梅の姿を捉えた。


 男にしてはかなり華奢で小柄だが、特級を極めた自分を見返す眼が微塵も怯んでいない様子がわかり、かすかに微笑んだ。


 蓼丸の眼差しには、いつもどこかに薄い影が揺れている。穏やかな微笑みでさえ、その奥底に潜む狂気を覆い隠しているように見えた。


 端正な容姿と相まって周囲をわずかに緊張させる存在であるにもかかわらず、飛梅がまっすぐに自分を見つめてくるその感覚が、なぜか心地よかった。


「ーーお前、死ぬ覚悟はあるか?」


 蓼丸の問いに戦慄したのは試験官達だった。


 当の飛梅は、なんということもない顔で「あります!」と即座に答えると、姿勢を正してから勢いよく頭を下げた。


「ここで働かせてください!!」


 彼女の淡い紫色の髪の毛が天使の輪のように光を受けてきらめいていたこの瞬間を蓼丸は生涯忘れなかったし、何度も思い出すことになる。


 蓼丸はフッと笑うと、試験官達に言い放った。


「本物かどうかは現場で決まる。使えるかどうか、俺が見てやる。あいつはうちによこせ」


 戸惑う試験官達の中から、生真面目そうな眼鏡姿の若者がひとり発言した。


「ですが、七局へは最優秀新人を、と幕府より……」


 風能力で履歴書を卓上に器用に戻すと、蓼丸は振り返らずに歩き出していた。 


 試験会場から本館へと向かう長い渡り廊下で待機していた長身の男が腕を組んだまま蓼丸に尋ねた。


「若、備悟(びんご)様が今期の採用は渡辺家の若ぇのにしろって言ってたはずだが? 一級の火の男だと聞いたぞ」


 男は蓼丸家側近一族で特別消禍隊第七局中隊長を務める佐々木灰路(ささきかいろ)だ。黒髪に紅瞳、石から切り出した無骨な仏像が動き出したような静けさの佇まいが懸念で曇っている。


「お前がいる。火系はもう間に合ってるだろ」

「火はいくらいてもいいだろう。それに何度も言ってるが、俺は里帰り出産する珊瑚(さんご)様の警護で本家に呼ばれてる。来月からだぞ」

「……」

「早く戻りたいとは伝えているが……長ければ3ヶ月は戻れんぞ。どうするんだ? 若も家を出るんだろう? 今期の新人は1ヶ月後に部屋子になるんだぞ」

「……さっきのあいつも男だ。部屋子にできるだろう」

「“飛梅”家なんて聞いたことがない。予定されていた新人は“渡辺”家だ。おそらくカナン嬢の縁者……」


 そこで灰炉は言葉を止め、息を呑んで麟五を見つめた。その表情がかつてないものであったから。


 蓼丸麟五は周囲が思うより遥かに忍耐強い男だった。幼少の頃より仕えてきた灰炉は、それをよく知っていた。


 その蓼丸が、哀しみと怒りの混ざった吐息を漏らした。


「……息が詰まる」


 この世界で息をしているだけでも、怒りがじわじわと肺の奥に沈んでいくようだった。


 右手の拳は無意識に握られていた。


 上からは期待、下からは崇拝。

 どちらもただの檻にすぎない。しかしその中にいる自分の言葉には重みがありすぎて、軽口ひとつ叩けなくなった。


 ここ数年、漠然とした違和感があった。


(ーーこの世界は、見たままの姿をしているのか?)


 そんな子供のような違和感が。


 生まれと才覚による立場も、最近はただ身動きを奪う鎖に見えた。何かが少しでも違えば、自分はもっと自由に、もっとーー


 その刹那、感知まで優れた自分のすぐ近くまで、先程試験を受けていた飛梅が近づいてきていたのに気づかなかった蓼丸は反射的に魔力を引き上げた。


 特級を超える特級の蓼丸の魔力は生物兵器級だ。このように漏れた程度でも、優秀とされる三級能力者であっても負担であるし、無能力者であれば失神してもおかしくないほどの威圧になる。それにも関わらず、飛梅が微塵も動ずることもない様子に灰炉は片眉を上げた。


 飛梅は自分の成績の記された紙を両手で差し出し、頭を勢いよく下げた。


「こ、ここで働かせてください!! 飛梅音です!」


 無表情で佇む麟五の代わりに灰炉が紙を受け取り、書類に目を通す。

 

 風と水で三級。特記事項に『弓の早撃ち?』という苦心の跡が残る文があり、吹き出しそうになった灰炉は咳払いで誤魔化してから飛梅に尋ねた。


「……飛梅君、説明してくれるかな? ああ、俺は第七局中隊長のカイロだ」


 当の飛梅もよくわかってないようで、オロオロと視線を彷徨わせながら説明をする。


「試験官の皆様が、その、僕の成績がこれでも採用でよいのか、改めて確認したほうがよいと仰られて……」


 性根が良い子、というのが伝わってくる様子だった。飛梅という姓は、かつての名家だったと思い出す。大昔に渡来した日本人がいた家のリストにあったはずだ。


 試験官が記載したシートに目を通す。水と風の三級鑑定があった。


 優秀ではある。が、蓼丸麟五が率いる第七局は難所、重要箇所を任される江戸特別消禍隊の花形であった。あらゆる系統の一級以上が優先的に配されるトップエリート集団に入団するにはいささか精彩を欠く成績だ。


「……“飛梅”というのは、かつて日本人が渡来したとされる家ではなかったかな?」


 このとき、何故そんなことを聞いたのか、カイロは自分でもよくわからなかった。しばらく後になって振り返れば、飛梅に何か引っ掛かるものを感じて、加点要素を探していたように思う。


 問われた飛梅は雲間が切れるように明るく笑うと、実家に伝わる祖先の物語を端的に語った。


「はい! 飛梅家には500年ほど前に“板額御前(はんがくごぜん)”と呼ばれる弓の名手の御子孫がいらっしゃったと言い伝えがありますーー」


 板額御前は平安末期から鎌倉時代初期に活躍した女武将だ。生没年や本名も不明のため、やはり女武将として活躍し、後年さまざまなコンテンツでも愛されている巴御前と比べて影が薄い。


 しかしその武勲は確かなものであったようで、建仁元年の建仁の乱では越後国の鳥坂城に立てこもり、幕府軍を相手に獅子奮迅の活躍をしたという記録が残っている。


 『吾妻鏡』によれば、彼女は侍のように凛々しく髪を上げ、腹巻きを着用し、矢倉の上から百発百中の腕前で敵を射抜いたとされる。


 最終的には両脚を射られて捕らえられて幕府の本拠地である鎌倉に送られたが、その堂々とした態度が評価され、甲斐源氏の浅利氏の妻となり、その後一男一女をもうけて穏やかな生涯を過ごしたという。


 そんな板額御前の孫である女性が弓を持ってミカド皇国に渡来し、興したのが飛梅家だ。しかし時代が移り、能力者のレベルが上がるにつれ、弓で武勲を上げるという昔ながらの手法は廃れていった。


 しかし祖先から継いだ技術を磨き続けた実家については「ウチは田舎ですっかり没落しちゃっているんですけど……でも、弓には自信あります!」と、飛梅は胸を張った。


 なんの衒いもないその言葉に、共に古くからの名家に生まれた麟五と灰炉は顔を見合わせた。蓼丸家も佐々木家も渡来した日本人が興した財閥系である。それがもたらすものが恵みだけであるわけないことを知っている彼らには、祖先を心から大切にしているらしい飛梅の様子が面映く、そして自身の存在が明るく照らされた気がした。


「貸せ」と灰炉から報告書を取り上げた麟五は、印が連なる最終工程の箇所に親指で魔力印を捺した。


 そして整った金色の瞳で飛梅を真っ直ぐ見つめた。男性にしては小柄な彼が少々見下ろす程度に飛梅は小さかった。


「これでお前は第七局の一士だ。最初の仕事を命じる。これをあそこの試験官達にここから提出しろ」


 それぞれが豆粒のように見える程に遠い場所から窺っている試験官達を確認すると、飛梅は「はい!」と花が綻ぶように笑った。


 そして手早く用紙を折って矢に結びつけると、迷いなく天高く弓を放った。

 

 弓は高く高く舞い上がり、美しい放物線を描いていく。


 灰炉が「きれいだなぁ」と目を細めている横で、麟五は先程までの憂鬱が、その矢に乗って空のかなたへと連れていかれたような気がした。


 矢は試験官の脚元に危なげなく刺さり、中身を確認した試験官達が揃って頭を下げているのが見えた。


 見る者の心を洗い、何かを取り戻させる一射をもって、飛梅音は無事に特別消禍隊に合格した。


本作では魔術『鬼道』が登場します。詠唱にルビを振ると雰囲気が壊れるかなと思い、そのままにしています。読めたら詠唱できてしまうかもしれませんのでね……!!

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