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大江戸オブ・ザ・デッド〜魔法全盛の江戸で、弓しか取り柄がない私ですが兄を探してます〜  作者: 森戸ハッカ
第二章:火の段『火は力なり。意志なき者に宿るべからず』

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10. 飛梅の謎

「ーー教官、〈上野事変〉のことを聞いてもいいですか?」


 横たわったまま見つめ合った飛梅の瞳は、夜の闇のように静かだった。


 ついにきたかーーと、麟五は思った。


 彼女が性別を偽っていることがわかった日から、麟五は〈飛梅音〉の情報を実家に戻っている灰炉を通して御庭番一家の佐々木家に探らせていた。


 上がってきたデータは、特別消禍隊入隊試験のときに目を通したものそのままだった。


・飛梅音(19歳 男性)

・青梅出身。実家は広彊館という弓道場を運営。代々、地元の民営消禍隊に参加。名家として受け入れられている。

・同居人は飛梅香船(かふね)(45歳) 、飛梅楽(17歳)。父は死別

・府立魔術高専卒業。在学中は戦闘科に所属し、水系・風系の両系統で三級と好成績を残す。特別消禍隊への推薦を得て、合格。指導及び補導の記録なし


 ーー4ヶ月前、その飛梅音の()が巻き込まれたのが〈上野事変〉だった。


 音が通っていた魔術高専の卒業旅行のバスは全員死亡。()()()()()()()()()()()()()()()()されている。


(こいつは、音じゃない。妹の方だーー)


 そう確信した麟五であったが、踏み込むことができなかった。彼女が現在も〈飛梅音〉の電票を使っていたからだ。


 公儀統制勅許手形、通称〈電票〉。

 江戸幕府が発行する電子通貨兼身分証明書であり、経済と行政の基盤となる木札だ。


 無級の平民であっても、人には魔力が存在する。誕生と共に血液を採取し、魔力の組成構成を登録することで唯一無二のものとするため、他人の物を使用するのはたとえ双生児であっても絶対に不可能なはずであった。


 故に、ミカド皇国では本人確認に顔写真を使用しない。魔術高専からの推薦状にも顔写真はなかった。それが今回の入れ替わりを可能にしたのだろう。


 特別消禍隊内では決済端末として使用することは少ないが、位置情報も把握できる通信機として訓練では必ず携帯するし、カードキーとしても日夜使うため、その度に厳重なセキュリティチェックが裏で走っている。彼女が扱っているのが〈飛梅音〉の偽造カードであるというのは考えにくい。 


 飛梅に対し執着系ヤンデレ教官として開花しつつあった麟五は、実家の権力を用いて当然ログも記録し、解析させていた。


 ログは全て、〈飛梅音(19歳 男性)〉であった。行方不明者として登録されている〈飛梅楽(17歳 女性)〉の電票は、青梅の実家から動く気配はなかった。


(ーー理由はなんだ? そもそも、どうやって兄の電票を使っている? 家族であっても、他人の電票を使うのは違法だ。その危険を冒してまで、こいつは何をしに来た?)


 一緒に眠るようになってから、寝顔を見ながら幾度も考えた。


 不審者を見張る、という建前はすぐに霧散した。彼女のことが気になって仕方がなかった。


 規則では、あと5ヶ月程度で〈飛梅楽(17歳 女性)〉は死亡者として登録される。

 

 誤って行方不明者として登録されてしまった自分の電票を守るため、という理由は1番最初に考えた。


 しかし例は少ないものの、一度死亡者として登録された行方不明者が発見され、電票が復活したケースもある。役所に申告すればいいだけの話だ。音の電票が使用され続けていたことも、本人以外が使用できない仕様なのだから白も切れるだろう。


 ならば、なぜ飛梅楽はここにいるのか?


(そもそも〈飛梅音〉はどこに行った?)


 麟五が辿り着いた仮説は二つ。


〈1. 事件に巻き込まれたのは『飛梅音』の方である〉


 そしてーー


〈2. なんらかの方法で飛梅音がまだ生存していることを確信しており、その行方を探している〉


 しかし、なぜ飛梅音の生存を特別消禍隊に知らせないのか?


(特別消禍隊の関与を疑って、ここまで潜り込んだのかーー……)


 この小さな身体で。

 名も性別も年齢も偽って。

 己より遥かに強い者達の中へ。


 強い、と思った。


 だがその強さは研ぎ澄まされた刃ではなく、風に折れまいと必死に揺れる細枝のようで。


 その健気さを放っておくことなど、もう麟五にはできそうになかった。


 そう思うのに、声に出せば壊れてしまいそうで、今はただ見守るしかない。


 小さな白い顔にかかった一筋の髪をそっと耳にかけてやりながら、麟五は口を開いた。


「上野事変ーー…… には、お前の家族も巻き込まれたと聞いている」


 飛梅は麟五の金色の瞳を見つめた。


 月に照らされた顔は、まるで欠け目のない彫刻のようで、嘘や揺らぎとは無縁に見えた。


 この人なら、背を預けてもいい。


 そう思った。


 いつしか見るたびに、怖れではなく、安堵が広がるようになった教官の顔に微かに飛梅は微笑んだ。


「はい。ーー妹が行方不明になっています。上野は第五局の管区ですが、最も早く臨場したのは第七の蓼丸教官であったと聞きました」


 まだ新人には詳細な事件記録の閲覧権限はないため、この2ヶ月、細々と集めた情報だった。


 しかし核心には遠く、兄の行方が杳として知れないことに焦り始めていた。


 否定しない麟五の指先を、そっとつかんで、飛梅は再度尋ねた。


「……蓼丸教官が見た〈上野事変〉を教えてください」


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