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〈寿司屋の魚介醤油ラーメン 490円〉
――ここで変化球。ラーメンを頼んだ。軍資金はまずまず潤沢にあるけど、中トロとか大トロとか頼んでしまったので、そろそろシメに向かう必要がある。そこでお腹がいっぱいになるラーメン。「寿司屋の魚介」っていうフレーズがそそるじゃないか。
少女がそんなことを心内で呟きながらラーメンの配膳レーンへの到着を待っていると、
「お待たせしました」
左側から声を掛けられたのです。
さっと振り向くと、先ほど水を持ってきてくれた店員さんでした。ラーメン丼の載ったお盆を持っていました。
「醤油ラーメンです」
そう言って、ラーメン丼を少女の前に置きました。丼は黒の小ぶりなプラスチック製で、ほかほかと湯気をあげています。
回転寿司店でラーメン類を頼んだことのある方なら分かると思いますが、こういう寿司以外の、ラーメンやみそ汁といった汁物のサイドメニューは、配膳レーンに流すのではなく店員さんが直に持ってきてくれることが多いのです。恐らくレーンに流した際に汁がこぼれるなどのトラブルを避けるためでしょう。
とにかく、寿司と同じようにラーメンが配膳レーンを流れて来るものと思い込んでいた少女は、再び男の店員さんと接触して、またどきまぎしました。やっとのことでペコリ、と店員さんに会釈をしました。すると、
「今日はお一人ですか?」
と店員さんが尋ねてきたのです。
少女はびっくりして店員さんの顔を見上げました。
改めて見ると、スラリと痩せた二十歳前後の青年です。寿司店の制服――青の法被――を着て、やはり制服の青いツバ無し帽子を被っていました。その帽子の下から黒髪が出ています。髪は男の人としてはやや長めで、あまり散髪に行っていないのか、無造作にもっさり後ろ髪が伸びていました。
顔はやや面長、あばたがあって、飲食の店員としては不適切なことに無精ひげが顎にまばらに生えていました。髪型といい、あまり見た目には気を配っていないような、素朴な顔です。ただ、切れ長の目の中に色素の薄い瞳が、どこか知性を感じさせる輝きを放っていました。その目の目じりに皺を寄せて、少女に向かって微笑みを浮かべています。
「えっ? あっ、はあ……」
唐突に声を掛けられ、少女は会話にならない返事をして、それからフリーズしました。
「……」
「……」
数秒の沈黙が二人のあいだに生まれました。
店員さんは余計なことを聞いてしまったと思ったのか、目じりの皺はそのまま、
「失礼しました。ごゆっくりお過ごしください」
と丁寧に言って、くるりと向こうを向いて去って行ってしまいました。
――なになになになに!?
少女はひどく混乱しました。
――なんで声掛けてきたの? え? 変? 女子高生一人で回転寿司は変? 別にいいじゃん! お金持ってるし! ちゃんと払うし! マナーも守ってるし! なに、いけないの? なんでああやってにやにや笑って、「今日はお一人ですか?」って……私バカにされた? 別にいいじゃん、一人だって!
少女は店員の去って行った後をしばらく睨みながら、心の中でこれでもかと毒づいて、ようやく気を取り直し、醤油ラーメンに相対しました。
ラーメンは魚介だしが良く効いていて、ちょっとクセはあるのですが少女の好きな味でした。母親の作ってくれる、魚介豚骨つけ麺の味を思い出しました。味付け玉子が乗っているのも、少女としては高ポイントでした。ラーメンを食べ終えるころには、少女は店員さんから嫌味(?)を言われたことをほとんど気にしなくなっていました。
少女のお腹はだいぶ満たされてきました。




