kalei do scope③
ソフィアはいつも日の出前に目を覚ます。別にそんな必要は無いのだが、ただ、主と結ぶ前からの癖が抜けきっていないだけだった。
いつも通りソフィアは着慣れた服を身に着けると、静かに下の階に降りる。三年ぶりに使用されたベッドは、その持ち主を暖かく包み込んでいた。ソフィアはその様子を軽く一瞥すると、そっと家の外に出て、外を眺める。外には主の植えた色取り取りの花が畦道を挟んで咲き乱れ、甘い匂いを風に乗せて運んでくれる。
ソフィアはそれらの間を歩きながら目的地を目指す。初めは暗かった道も、徐々に昇り始めた太陽の明かりによってはっきりと見えるようになった。
しばらく歩くと、きらきらと光る水面が見えた。ソフィアは迷いの無い足取りでそれに近づいていく。
「おはようございます。アンダイン」
ソフィアが水面の近くに立って、そう言うと、湖の中から美しい女性がひょっこりと顔を出した。
「あら、緋色のとこのブラウニーじゃない。珍しいわね」
「お久しぶりですアンダイン」
アンダインと呼ばれた女性の妖精は嬉しそうに微笑むと、水の中から音も無く上がって、ソフィアの目の前に立った。
「今日はまたどうしたの? 暫く姿を見せなかったじゃない」
「実は昨夜、我が主であるスズナ様が帰って参りました。せっかくですので、スズナ様のお好きな、この湖のお魚を是非朝餉にと考えまして」
ソフィアの言葉にアンダインは満足そうに数回頷いた。
「緋色の魔女が帰ってくるなんて何年ぶりかしら」
「三年と少しです」
ソフィアは自分で口に出して、やっと自らが一人で過ごした時間を実感した。長い、と自分に言い聞かせるように呟いた。
「あたしたち妖精からすれば、三年なんて一瞬みたいなものだけれど。思い返してみると、やっぱり長いわよねー」
アンダインはソフィアの呟きを聞いてかどうかは分からないが、腕組みをしてうんうんと頷いた。
「私がスズナ様と過ごしたのはまだ百年と少しぐらいですので、やはり少し長いと感じてしまいますね」
ソフィアは素直に思ったことを口に出していた。そんな様子を見て、アンダインは困ったような、心配なような曖昧な表情を浮かべる。
「貴女は自覚が無いようだけれど、寂しがり屋さんなのね。まあいいわ。そこでお待ちなさい。生きの良いのを持ってきてあげる」
寂しがり屋? ソフィアがその言葉に頭を捻っている間に、アンダインは流れるような動作で水の中に消えていった。それからすぐに一匹の魚を捕まえてくると、ソフィアに手渡した。
「はい。これが今日の分。明日も必要ならまたおいでなさい」
ソフィアは軽く礼を言い、生きの良い魚の尾を握って、主の待つ我が家へと歩みを進めた。
家に帰ると、まだ主はベッドの中で夢を見ていた。よっぽど疲れていたのだろう。少々の物音ぐらいでは目が覚めそうに無かった。




