新たな戦略と知識の整理
ジークフリートは屋敷に戻り、広い書斎に足を踏み入れた。外はまだ薄明るく、陽の光が差し込む中で、彼は落ち着いて考えることができた。頭の中に浮かぶのは、スキル鑑定の儀で手に入れた「時空間魔法」の力の使い方、そして今後どう動くかということだ。
（ここからは慎重に行動する必要がある）
少し前までゲームの中でしか存在しなかった世界。そのゲームの知識が今、現実となって彼の手のひらにある。しかし、ただ力に頼るだけではこの先はどうしようもない。
「まずは、この世界のことをもう一度しっかり把握しないとな」
ジークは書斎の机に向かい、使い古したノートとペンを取り出した。そして、これから記すことが、彼の未来にどれほど影響を与えるかをしっかりと認識していた。
「この世界の言語は、俺が知っている日本語ではない。だから、暗号のような形で書くしかない」
ジークは文字を書きながら、今後の戦略を考えた。まずは、自分の家と社会の仕組みを理解することだ。
ノーベルクラウス家
ノーベルクラウス家は、王国ドラヴィアの中でも広大な領地を持つ名門貴族。家族構成や権力は高いものの、最上級の貴族には及ばない。父親のアンドレアス・ノーベルクラウスは現当主であり、家を支配しているが、その影響力は依然として限られている。だが、彼の支配領地内では高い権力を誇っており、住民や商人たちにとっては絶大な力を持つ。
貴族の位
この世界の貴族階級には、次のような位が存在する。
公爵：国のトップ層であり、王族に近い存在。ほぼ国家の政治にも関与し、その領地は非常に広大で、王国全体に影響を与える。
侯爵：公爵よりも少し下の位で、地方の主要な統治者として、しばしば軍や都市の管理を行う。領地の広さは公爵より劣るが、その影響力は大きい。
伯爵：領地を持つ貴族の中でも中堅。一般的に商業や農業を支配しているが、大貴族ほどの影響力はない。
子爵：領地はあるものの、政治的影響力は少なく、通常は侯爵や公爵に仕える立場。家柄や資産はそれなりにあるが、名声は中流階級に近い。
男爵：最下層の貴族で、領地は非常に小さく、主に地方の一部を治める。下級貴族にあたる。
ジークフリートは現在、ノーベルクラウス家の長男として、伯爵の地位に相当する。家族が持つ領地は、他の伯爵家に比べてかなり広いが、依然として公爵や侯爵家に比べればその規模は小さい。
貨幣の価値
この世界では、貨幣には5種類が存在する。それぞれの価値は以下の通りだ。
白金貨：最も価値が高い貨幣で、貴族や富裕層が主に使用する。1白金貨は100金貨の価値を持つ。
金貨：一般的な商取引で使用され、非常に広く流通している。1金貨は100銀貨の価値を持つ。
銀貨：銀貨は主に中流階級や貴族の家族で使用される。1銀貨は100銅貨の価値を持つ。
銅貨：一般市民や商人が日常的に使う。1銅貨は100鉄貨の価値を持つ。
鉄貨：最も安価で、庶民の生活に使われる。鉄貨1枚は1円程度の価値を持つ。
鉄貨100枚で銅貨1枚に換算され、鉄貨1枚は日本円で1円相当。通常の商取引では、商人や庶民が鉄貨や銅貨を使い、金貨や白金貨は貴族や大商人の間でやり取りされる。
ジークはこれらの情報をノートに詳細に記録しながら、自分の計画を立て始めた。
「さて、これでようやく基本的な知識は整理できた」
ジークはノートを閉じ、ふっと息をついた。その時、ドアがノックされ、またもやメイドが入ってきた。
「ジークフリート様、お食事の準備が整いました」
ジークは無表情でうなずく。
「ありがとう。すぐに行く」
メイドが部屋を出ると、ジークは改めて書斎の机に目を戻した。
（まずは、誰にも気づかれないようにすること。そして、この世界で一番重要なことは――情報だ）
ジークは心の中でそう誓いながら、今日の計画を立て始めた。
