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忠義のメイド


早朝の光が、重厚なカーテン越しに差し込んでいた。


ジークフリートはベッドから体を起こし、まだ少し重い頭を抱えながら天井を見上げる。


(今日が……スキル鑑定の日、か)


心の奥がざわめく。だが、それは不安ではなかった。


むしろ期待だ。ゲームで得た知識が、現実となって現れる瞬間が目前に迫っている。


ノックの音。


「ジークフリート様、失礼いたします」


部屋に入ってきたのは、昨日も見たあの若いメイド。柔らかな茶色の髪を後ろで束ね、まだあどけなさの残る顔立ちをしている。


「おはよう、朝食の準備か?」


「はい。お体の具合はいかがでしょうか?」


「もう問題ないよ。君……名前は?」


「……っ、失礼いたしました! 私の名は、リディア・ロスベルクと申します!」


深々と頭を下げるその姿に、ジークは目を細めた。


(リディア……ああ、そうか。リディアか)


ゲーム中盤、ジークフリートが主人公に追い詰められていく中、唯一最後まで離れなかったメイド。それがこの少女――リディア・ロスベルクだった。


確か、ジークが処刑される寸前まで傍に仕え続け、他の使用人が見限る中、彼女だけは一度も裏切らなかった。


(裏設定だと、彼女はジークに“拾われた孤児”だったよな。貴族の家に雇われているけど、血筋は平民のはず)


神谷がプレイしていた“レヴァンティア・クロニクル”の悪役ルートにおいても、彼女は数少ない“好感度が上がるキャラ”だった。


リディアは、気が強いタイプではない。だが、信じた相手に対しては不器用なほどに献身する。

ゲーム内のユーザーからは「隠れた名キャラ」として人気があった存在だ。


(こんな序盤で接触できるなら、今のうちに忠誠を確保しておくのが得策だな)


「リディア、君はこの屋敷でどれくらい働いている?」


「えっ……? あ、はい……今年で四年目です。十歳のときに拾っていただき、今は十四になります」


(やはりゲーム設定通り……)


「そうか。忠義を尽くしてくれてありがとう」


「……ッ!? あ、あの……私、何か失礼なことを……?」


リディアが怯えたように顔を伏せる。


(この世界のジークは、きっとこんな言葉、これまで一度も言ってなかったんだろうな)


「違う。これからも頼りにしている。それだけさ」


そう告げると、リディアは戸惑いながらも顔を真っ赤にして深く礼をした。


「……はいっ!」


彼女の声には、確かな決意が宿っていた。


ジークは軽く目を伏せる。


(ここでちゃんと関係を築いておけば、将来こいつが俺を助ける可能性が高くなる)


リディアはゲームでも有能だった。毒を見抜いたり、敵スパイの気配を察知したりと、スキルこそ凡庸でもイベントフラグに大きく関わる。


(特別な力がなくても、裏切らない者の価値はでかい)


「ジークフリート様、本日の“スキル鑑定の儀”……ご武運をお祈りしております」


「ふ、ありがとう。期待していてくれ」


心の中で、彼は静かに笑った。


(今日、俺は“時空間魔法”を得る。そして、この世界で――勝者になる)


だがこの時、リディアはまだ知らなかった。


今、目の前にいる少年が“中身の違うジーク”であり、かつての冷酷な貴族とはまったく別人であることを。


そして、彼の下で生きることで、自分の運命が大きく変わっていくことを――


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