嫌な記憶②
私はずっと気になっていた。
西村くんは、入学初日からどうして1人でいたのか。
単純に人と話すのが苦手なのかなとも思った。
だけど1人でいた時は寂しい顔をしていたし、彼の人との接し方は、とても明るく優しくて、話すことに対して苦手意識を持っているとは思えなかった。
「…中学生のときから友達に教えたりしてたからとか?」
彼は勉強を教えるのがすごく上手だった。
だから軽い気持ちで聞いてみた。
すると彼は何やら考え事をしているようだった。
何か良くないこと言ってしまったのかな…
「…ごめん…」
「え…?」
「私が聞いてから、西村くん、思い詰めた顔してて…」
「あ、いや!こっちの問題だから!大丈夫!」
「…そっか…」
「うん…」
私は気づいてしまったかもしれない。
入学初日から1人でいて、誰とも話そうとしなかったこと、そして私の質問から続いた沈黙。
中学で何かあったんだ。
彼の力になってあげたい。
せっかく彼と友達に、そしてこうして仲良くなれたのだから……
「西村くん…中学、何かあった…?」
そう言い彼の顔を見ると、青ざめた顔をして固まった。
「…っ!」
私は言わなければ良かったと後悔した。
彼のこんな顔を、見たことなかった。
出会って1ヶ月しか経ってないのもあるけど、人がこんな顔をすることはそうそうないと思う。
青ざめた顔で、我を忘れているかのように考え事をして、そして苦しんでいるように見えた。
「西村くん…!」
呼びかけに反応がなかったが、それでも呼び続けた。
「西村くん…!西村くん…!」
すると西村くんは、ハッと動き出した。良かった。
「ご、ごめん、ちょっと俺具合悪いから先帰るね。」
でも西村くんはそんなことを言って、走って行ってしまった。
私はその場に立ち尽くした。
私、良くないこと聞いたよね。
後悔した。
思い出したくない過去がある人もいるはずなのに、そんなことさえ気にせず、自分の気になることを安易に聞いてしまった。
「西村くん…本当にごめんね…」
静かに呟き、私も歩き出した。
明日からどう接したら良いのかな…
…きちんと謝らなきゃ…
そんなことを考えながら、オレンジ色に輝く夕日が沈みかけている住宅街を、静かに歩いた。
その日の21時頃、私は自分の部屋でテスト勉強をしていた。
テスト勉強をしながら、何度も西村くんのあの青ざめた表情が脳裏をよぎる。
すると突然鳴る、スマホの着信音。
誰かから電話が来たみたい。
確認すると、そこに書いてあった名前に私は目を大きく開けた。
着信に書いてあった名前。
【真翔】と書いてある着信。