孤独より楽しい
英語の授業、近藤先生は、指示を出した。
「よーし、近くの席で4人組を作って、英文を翻訳するんだ」
高校に入って初めてのグループワーク。
中学では余りものとして先生と組んだり、トイレに逃げたりしていた。
友達になってくれた寺沢さんは…
「一緒に組もー!」
前の席の女子と話している。
そりゃそうだよな……寺沢さんにとっては、俺以外に友達はたくさんいる。
また余りものかな……
そう考え、俯いて先生の声かけを待ち始めた瞬間だった。
「西村くん、一緒に組も!」
その声を聞いて、顔を上げて右を見た。
寺沢さんとその前の席の黒髪の女子、笹原 沙希さんが2人でこっちを見ていた。
「お、俺?」
「そうだよ!一緒にやろー!」
寺沢さんは笑顔でそう言ってくれた。
「西村くんと初めて話すかも!よろしく!」
笹原さんも笑顔でそう言った。
「う、うん、よろしく。」
俺はそう返事をした。
「あと優斗もね〜」
「ん!?俺も!?」
「そうそう。いいでしょ?」
「あ、あぁ。」
笹原さん、笹原さんにとって隣の席、そして俺の前の席でもある黒髪の男子、霧宮 優斗くんにも声をかけた。
どうやら、笹原さんと霧宮さんは小学校からの仲らしい。
「西村だよな。よろしくな!」
霧宮くんが俺にそう言った。
「よ、よろしく、霧宮くん。」
「呼び捨てでいいよ」
「そ、そうか…俺も呼び捨てでいいよ。」
「おう!よろしくな!西村!」
なんか一瞬で呼び捨てをする仲になった。
そんなこんなで、明るい雰囲気で英語の授業が終わった。
「西村〜レイン交換しようぜー」
「う、うん」
休み時間、寺沢さんに続いて2人目のクラスメイトとレインを交換した。
おそらく友達と呼べる2人目の人ができた。
「英語のグループワーク楽しかったし、今度みんなで勉強会やらない?課題も出たし!」
話していた霧宮と俺に、笹原さんと寺沢さんが笑顔で声をかけてきた。
「お、面白そうだな。西村もやろうぜ。」
乗り気の霧宮。
俺も嫌ではなかった。
「いいね。やろう。」
そう返事をする俺。
「じゃあ明日、土曜日でいいかな?」
日付の候補を言う寺沢さん。
そうして決まった放課後勉強会、どうやら土曜日らしい。明日だ。
その日の放課後、俺は1人で通学路をゆっくりゆっくりと、考え事をしながら歩いていた。
しかし、俺の高校生活はどうなるんだろうか?
孤独を選んでいた俺だけど、寺沢さんと友達になり、前の席の霧宮、笹原さんとも仲良くなり、孤独ではなくなった。
4月がまもなく終わり、5月が始まる直前のことである。
もちろんこの時期で友達3人いるのは、一般的な高校生と比べたら、多い方だとは思わない。
ただ孤独を選び、友達を作るつもりが全くなかった寺沢さんと出会う前の頃の自分は、今の現状を信じられるのだろうか。
そして俺自身も、当初孤独でいると決めていたことからは大きくかけ離れてしまったと思う。
ただ、孤独を好んで選んでいた自分でも、孤独というものが楽しくないというのは知っている。
あの英語のグループワークをやって以降、俺は1つだけ思っていたことがある。
「ちょっと学校…楽しいかも…」
そうボソッと独り言を呟いて、暗くなる前の住宅街を軽い足取りで歩いた。