気持ちの正体。
「次どこいく?」
「このお店とか良いんじゃないかな?」
私は歩きながら、沙希とそんな話をしていた。
すると突然、横から歩いてきた2人の男のうち1人が、私の肩に手を乗せてきた。
もう1人の男が、沙希の方に手を乗せていた。
「お姉ちゃん、可愛いね。これから俺とお茶しない?」
私の肩に手を乗せている方の男がそんなことを言ってきた。
怖くて声が出せない。きっと沙希もそうだと思う。
「あ、いや…」
「お姉ちゃん、そこに美味しいカフェがあるからさ〜いこうぜ〜」
嫌だ。怖い。誰か助けて…
「あの、嫌がってるのわからないんですか?」
後ろから声がした。
西村くんだった。
彼は私が見たことないほどに、真剣な表情をしていた。
それでもこの人達は手を退ける気はなさそうだった。
「あ?なんだおまえ」
それどころかさらに強気になっていて、怖かった。
「この2人は俺たちと行動してるんですよ。」
それでも西村くんは怯まなかった。
西村くんの言葉の後、しばらく沈黙と睨み合いが続いた。
「…チッ」
舌打ちをし、ようやくこの人達は私と沙希の肩から手を退け、去っていった。
その姿が見えなくなるそのときまで、西村くんは鋭い視線を向けていた。
姿が見えなくなると、西村くんはいつもの優しい顔になり、私たちに声をかけてくれた。
「大丈夫?」
「うん。ありがとう。」
1日の校外学習は終わった。
最寄駅が同じ私たち4人は、2人で寄り道をしようとしている西村くんと霧宮くんとは解散をし、途中まで道が同じ私と沙希は、もうすぐ真っ暗になりそうな雰囲気の夕暮れ道を2人で歩いていた。
すると沙希が口を開いた。
「…水里、どう思った…?」
「どうって…?」
「西村くん…いつもと違ったよね…」
確かにいつもと違った。
1人では少し暗い顔をしていて、私といるときは優しい笑顔を見せてくれるいつもの西村くんからは想像もできないような顔だった。
その……。
「…かっこよかった…」
はっ! 心の声が漏れて、思わぬ口にしてしまった。
すぐに沙希の顔を見る。
馬鹿にさせるんじゃないかって思った…。
でも、沙希が私を馬鹿にして笑うことはなかった。
「そう…だね…」
頬を赤らめ、照れているかのような表情でそう返事をした。
沙希のこういう表情も見たことがなかった。
予想外のことに困惑していると、沙希は口を開いた。
「西村くん…なんだかんだで良い人だよね。話しかけると嫌な顔ひとつせず優しい笑顔で返事をしてくれて…」
沙希…?
「私、西村くんのこと、好き。」
「っ!!」
私はすごく驚いた。
勝手な予想ではあるけど、沙希は幼馴染である霧宮くんと話している姿を見ていると、霧宮くんのことが好きだと思っていたから…
驚いていると、沙希はさらに口を開いた。
「私たち4人が仲良くなってから1ヶ月近く経つよね…」
「うん…」
「西村くんはさ、入学したての頃は静かで誰かと話している姿は見たことなかった。」
「うん…」
「でも、実際に話すようになると周りが見えていて、ちょっとしたことでも優しく返事をしてくれて、それでいてさっきみたいなかっこいい一面もある…」
「うん…?」
「だから…その…」
沙希は俯き、口を再び開くのを躊躇しているように見えた。
でも、沙希は勇気を出したかのように私に目を向けて、再び口を開いた。
「私、近いうちに西村くんに告白する。」
「…!」
「頑張るね…」
その後、私たちはそれぞれの家への別れ道で解散をした。
沙希は本当に西村くんのことが好きらしい。
素直に応援してあげたい。
してあげたいけど、でも……。
素直に応援ができない…
それがどうしてなのかわからない…
私は、西村くんのことを思い出す。
入学してからずっと1人で寂しそうな顔をしていた彼。
英語の授業のタイミングで、私は彼に話しかけた。
『お、俺と…友達になって…くれない…かな…』
数日後の朝、私が一方的に話しかけていただけの彼が、そんなことを伝えてくれた。
彼と4人で英語の勉強をして、一緒にゲームもした。
彼と放課後、毎日2人で一緒に勉強をしていたテスト勉強期間。
中学校での嫌な出来事を私に打ち上げてくれたあの夜。
『君と出会ってから、俺の視界はすごく明るくなった。』
『君は光だよ。俺にとっての。』
普段自分から気持ちを伝えない彼が、真剣に伝えてくれたあの言葉。
『あの、嫌がってるのわからないんですか?』
『この2人は俺たちと行動してるんですよ。』
私たちを守ろうと、普段見せない真剣な表情で戦ってくれた姿。
私はずっと考えていた。
西村くんに対して楽しかったり嬉しかったり、ときには涙を流したりする理由。
この初めての気持ちはなんだろう……と。
私はようやく気づいた。
私、西村くんのことが好きなんだ。
物語が大きく動き出しそうな予感…?




