学校なんてなくなれば良いのに…。
ゆったりと書きます。
「学校なんて無くなれば良いのに…」
勉強をしたくない、家で趣味や娯楽を楽しみたい。 そんな思いからそう感じた人がいるかもしれない。俺の場合はそうではなかった。
◆
黒髪の男子、西村 真翔。
中学1年の頃に起きたとある一件がトラウマとなり、学校や友達というもの対し強い嫌悪感を抱いていた。
中学を卒業し、次に始まる高校という新たな学校生活を前に、真翔は憂鬱になっていた。
桜が散る中行われた桜川高等学校、入学式。
入学式を終えて次の日の朝、重い身体を持ち上げ、新たに始まるつまらないであろう学校生活に向け、家を出発した。
教室に着くと、周りでは既に友達の輪が出来始めていた。
「どこ中から来たの?」
「友達になろー!」
「レイン交換しよ!」
たくさんの会話が行き交う教室を、真翔は自分の机で、ただ1人過ごしていた。
◆
「友達なんていなくていい。1人でいい。」
そう自分に言い聞かせ、俺は孤独の高校生活を選んだ。
孤独を選んだわけだから、新たな友情なんてものは生まれない。だけど、それでいい。
あの中学の頃のトラウマはもう嫌だ。そうなるくらいなら、俺は孤独を選ぶ。
高校に進学したからといって何も新しいことを考える必要なんてない。中学と同じように授業を受けて、同じように過ごせば良いだけだ。
そうして俺にとって、孤独の高校生活がまた始まった。
◆
それから1週間、真翔は孤独を貫いていた。
クラスの人たちも、真翔には声をかけづらい状況だった。
「教科書4ページを開けー」
高校に入学して3回目の英語の授業。クラスの担任であり英語の担当でもある近藤先生は、そう指示を出した。
「あれ、無い…」
真翔はカバンや机の中に手を入れ、必死に探した。英語の教科書がないのだ。
近藤先生の英語の授業は、教科書に書かれた英文を読み、先生から1人ずつ指名され、出題される問題に答える形式だった。しかし、教科書がないと授業をまとも上、問題を指名されても答えることができない。
一度探して無かったはずのカバンや机の中を、何度も何度も、必死に探す。
「ない…どうしよう…」
やはり見つからず、真翔は家に忘れてしまったのだと確信した。
「一緒に見る…?」
心配そうな顔をして声をかけてきたのは、隣の席に座る茶髪の女子、寺沢 水里であった。
クラスの人との関係を作りたくない。それが真翔の本音で、全ては中学のトラウマによるものだった。
でも、授業をまともに受けられず、指名された際に恥をかくのは嫌だった。
「…お願い…します…」
それを聞いた水里はニコッと笑い、机をくっつけ、その授業では教科書を一緒に読んでいた。
◆
今日の英語の授業は無事終わり、俺は寺沢さんにお礼を伝えた。
「寺沢さん…その…どうもありがとう….」
「どういたしまして!」
寺沢さんは笑顔でそう返した。
「西村くん…だったよね!」
「そうだけど…」
「これからよろしくね!」
そう俺に伝えた寺沢さんは、眩しかった。俺の住んでいる世界とは全く異なった、明るく広大な世界を世界を生きている。
….
「寺沢さん、レイン交換しよ!」
「いいよ!」
高校生活1日目に、周りから聞こえた会話。もう寺沢さんには友達ができていた。寺沢さんは俺の隣の席なので、嫌でも聞こえてくる寺沢さんとその友達の声。
でも俺は俺の生き方をすればいい。
中学1年の頃、俺はある事件をきっかけに、友達がいなくなった。友達だった奴に、理不尽に悪い噂を流された。今でも自分は悪くないと思っている。でも、俺はその辛い現実も受け止めた。
学校というものは残酷である。一度流された悪い噂は、なかなか消えないものである。
それが例え理不尽に流された虚偽であるものであっても悪い噂が広がり、集団で俺を軽蔑した目で見るようになってしまえば、俺1人が必死に弁明しても、現状が変えることは難しいのだ。
俺は早々に諦めた。無駄だと思った。俺はゲームが好きだ。家に帰れば、俺の好きなゲームが待っている。
もし学校が楽しくなくても、家に帰れば楽しいことが待っている。
だから学校も頑張ろう。
そう思えた。
そこから俺は残りの中学校生活を、孤独で過ごした。
やっと中学校を卒業した。しかし高校では友達が出来たとして、あのときのようになるのは嫌だった。
俺は孤独でいい。友達なんて作らず、俺を知る人を無くせば悪い噂を流してくるような人なんていない。
教科書を見せてもらってから数日後。
「西村くん…?」
「…あぁ、寺沢さん!なに?」
「どうかしたの…?」
昨日、英語の授業で家に教科書を忘れてしまった俺は寺沢さんに教科書を一緒に見せてもらった。それ以降どういうわけか、寺沢さんは俺に対し何度も声をかけてくるようになった。
「いや、ごめん。ちょっと考え事してて…」
「そうなんだ…」
俺と違って寺沢さんには他に友達がたくさんいる。
でも孤独を選び友達を作ろうとしない俺にも声をかけてくる。
寺沢さんは優しい。俺は寺沢さんのことを何も知らないけど、友達や俺へ明るく接する姿を見ているときっとそうだと思う。
だからこそ、俺は寺沢さんに嫌だなんて言えなかった。
「寺沢さんはどうして俺に声をかけてくるの?」
俺は寺沢さんにそう聞いてみた。寺沢さんは少し驚いた顔をして、でもすぐに落ち着いて話し始めた。
「気のせいだったら申し訳ないんだけど….」
「うん」
「…寂しそうな顔をしていたから…」
俺はそれを聞いて驚いた。孤独を選んだのは俺自身である。でも孤独の学校生活というものはつまらないものである。
だとしても、俺は無意識にそんな顔をしていたのか?
「俺、そんな顔してたの…?」
「私にはそう見えたよ。」
「そっか…」
次回は近いうちに公開します。