第21話 拙速合戦
「貝吹山城に炊煙、夥しっ」
畠山の陣では、物見の報告に朝の暗いうちから大騒ぎになっていた。明け方の細い月の光が、煙を発見させていたのだ。
敵陣の炊煙が多いということは、兵の移動が前提になる。つまり、攻めてくるか退却するかということだ。
おそらくは、決戦の意思を固めたのであろう。少なくとも、退却すると決めてかかることだけは許されぬ。
大将、畠山高政の判断は早かった。
「地の利を奪われている今、後手に回ったら勝ち目は皆無となる。
先に動く。出撃準備。整い次第、出るっ。
朝めしは、走りながら糒でもかじれ」
「応っ」
安見宗房、遊佐信教、湯川直光ら、配下の武将が応え、一気に士気が高まった。
やはり、いくさは守るより攻める方が有利である。士気にあっても、攻撃は防御に勝る。
彼我の間には春木川が流れている。川向うに陣を移動できるかが、最初の勝敗の分かれ目であった。とはいえ、この士気であれば、渡河は成功させられよう。
彼らも七ヶ月もの間、遊んでいたわけではない。渡河の容易な河岸もすでに見つけている。
そして、出撃の準備はいつでもできている。
それでも、奇襲を受けてわたわたと対応するのと、飯を済ませ、馬にも草を食わせてから出るのでは、その後の展開が大きく違ってくる。糒などわびしく齧って出陣するのと、温かい飯と汁を食って出陣するのでも士気が大きく異なるし、乱戦の中、戦い続けられる時間も大きく違ってくるものだ。
だが、それらのすべてを飛び越えて、畠山高政は出撃を命じる。敵に炊煙が上がっている以上、こちらが遅れて飯など炊いていたら間に合わぬ。勝てば、あとから飯はいくらでも食えるのだ。
三好軍が動く前にこちらが機先を制すことができれば、相手の動きは一時的にでも止まる。物見がこちらの動きを見て報告し、大将が判断したのちに新たな命令が下り、それが各部隊に伝えられる。その動きのための時間が必要になるからだ。
先手を取り続けられれば、その間を常に有利に使える。大将、畠山高政が急いだのにはそのような理由もあった。
畠山軍が一気に渡河を終え、魚鱗の陣を組んだとき、初めて貝吹山城から矢が飛んできた。
機先を取ることに成功したのだ。
畠山軍は一気に肉薄し貝吹山城を落とそうとするが、三好軍もしてやられてばかりではない。
当然のように土塁に依った激しい反撃に転じ、乱戦は一刻半(3時間)にも及んだ。
だが、昼前には漸く均衡が崩れ、畠山軍は崩れだした。無理な朝駆けをもってしても、結局は三好軍の貝吹山城という地の利を克服できなかったのだ。
畠山軍は敗走に転じ、三好軍は本陣付きの備えまで動かして追撃に入った。
すでに本陣は戦勝を祝う雰囲気になっており、本陣詰めの諸将も兜を脱いでいた。
だが……。
追撃の結果として、三好軍本陣は馬廻り衆を残して空白となっていたのだ。
そこに、一発の銃声が轟き……。
三好軍大将、三好実休は、狙撃の銃弾に頭を撃ち抜かれていた。
第22話 絵師たちの唇歯輔車
に続きます。




