第14話 深夜に至る練策
俺は続ける。
「まして、三好殿の本拠は四国。
一朝ことあらば、京を抑え続けられることはできぬかもしれぬ。ただ、そうなっても四国に逃げればよい。捲土重来もできようというもの。
ただ、それも松永殿の立場に立てば、不安の元。
三好殿が四国に逃げたら、松永殿は京の周りで置き去りにされることも考えられる。そもそも居城が大和北西の信貴山城だしな。
三好殿に輪をかけて用心深くもなろうというものではないか」
俺の言葉に、三人は頷く。
さらに俺は続ける。
「将軍様もさすがであらせられる。
御成に合わせて御供衆にし、従四位下に昇叙、塗輿の使用の許可を与えられた。
恭順の意を示した以上、その分の礼は返されているが……」
「殿上人になったわけではなく、今川殿以来、その威を失いし塗輿使用でございますな」
と直治どの。
「そうだ。
実質としてはなにも与えておらぬのだ。御供衆の肩書など、どうとでもなるものだしな。たとえば、織田殿のような方が上洛なされようというとき、対抗しうる力の源になるものは一つもない」
「つまり、松永殿の怯えは、何一つ救われてはおらぬということですね」
小蝶もここまでは理解したようだ。
「なるほど。
その松永殿の怯えと、勝軍地蔵山の六角殿の軍勢、どう繋がる?」
と、これは信春。
「直治どのは知っているかもしれぬが……。
先程の織田殿の桶狭間でのいくさ、六角殿が織田殿に加勢の軍を出したのは知っているか?」
俺は、敢えて質問に質問で返した。
信春と小蝶は首を横に振った。
実は、俺も最近知ったのだ。本能寺で、六角殿の陣に兵糧を融通している町衆仲間に聞いたので、間違いはないことだ。
ただ、小蝶は俺の質問に質問で返した意図を察したらしい。
つまり、六角殿と織田殿が通じているとなると、松永殿の怯えはより具体的なものになったといえるのではないか?
そして、小蝶を人質に取りたいというのも、その怯えの発露ということもできるかもしれない。
我が狩野は、今日の町衆の中で最有力の一画を占めていると言ってよい。
そして、小田原城攻めで、宗祐叔父の手紙は切羽詰まった内情を知らせてきた。つまり、松永殿にとって、我々は使える相手ということだ。
ただ……。
武将でもある松永殿に、町衆の意地はわかって頂けないようだ。
恩義と友誼をもってすれば、俺も靡いたやもしれぬ。だが、松永殿は、上下の立場の強要と人質を取る方法を選択された。これを飲めと言われて、素直に飲む町衆は少なかろう。
まぁ、中には人質を出すことさえも、位階を持つ者と関係を結べたと喜びを感じる者もいようが、それでも妹を玩具にされるとなれば話は別であろう。
つまり、松永殿はやりすぎたのだ。
「ということは……。
なんという……」
小蝶も何やら思うところがあるらしい。
「そうだ。
そこにつけ込めば、我らにできる策がある」
との俺の言葉に、返したのは直治どのだ。
「ならば、棟梁殿の策と我が思いつきし策、同じものかもしれませぬな」
「さらに、おそらくそこにはない考えが私にも」
と、さらに小蝶が言う。
なるほど。
手の打ちようは様々にありそうだ。
松永殿からの使者が、俺に再度の呼び出しを掛けてくるだろう。
ずるずると引き伸ばし、与えてもかまわぬ餌を渡し、時を稼がねばならぬ。病気だという言い訳も使おう。物忌だとも言おう。
伸ばせて三ヶ月。それ以内にすべてを終わらせねばならぬ。
俺たちの練策は、そのまま深夜に及んだ。
第15話 謀
に続きます。




