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洛中楽Guys ー若き絵師たちの肝魂ー  作者: 林海
第三章 如何にしても意は通すものぞ

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第13話 武士の掟


 俺の言葉に、一番驚いているのが信春。

 どことなく予想していたという顔が直治どの。

 小蝶に至っては、どうやら別種の感慨があるらしい。目には溢れんばかりに涙を浮かべている。


「本気か?

 そもそも、そのような手立てがあるのか?」

 上ずった声で信春が聞く。

「……なくもない」

 俺の言葉に、その場の誰もが目を見開いていた。




 小蝶が人数分の茶を入れてきた。

「三好殿と松永の糞爺が、管領の細川殿を幽閉しているのは知っているな」

 皆があまりに冷静さを欠いたように見えたので、間を開けたのだ。もちろん、俺も冷静さを取り戻す必要がある。自分の頭に血が上っているのは、自分でもよく分かっているからだ。


 全員で(くりや)の横の女部屋で茶をすすり、話は仕切り直しだ。

 ここなら食料庫となる(むろ)や井戸があり、床下に潜むのも容易い。左介が今も床下で、死角となるところに古板で仕切りを作ってくれている。暗い場所ゆえ、油灯火では見通すこともできぬ。そんな小細工もできる場所なのだ。本来であれば、このようなことが起きる前に作っておくべきであった。


 信春も小袖に腕を通し、その温もりに人心地が付いたようだ。

「ああ、知っているもなにも、もはや三好と松永の権勢に逆らえる者はおらぬということではないか。

 細川殿が幽閉されてしまえば、将軍様とて裸も同然。天子様ですら威を保つのが難しくなると、京中の噂よ。

 その細川殿をお救いしようと六角殿が兵を出しておられるものの、京の東の将軍地蔵山に陣を構えたまま動けなくなっているし、知らぬものはおらぬよ。

 で、それがどうしたというのだ」

「信春、珍しいな。

おまえが京の町の噂を聞き、覚えているとは……」

「ば、馬鹿にするなっ」

 思わず、皆で笑いあう。

 俺は思う。やはり、この面々であれば、松永の糞爺を出し抜けるかもしれぬ、と。


 さて、それでは俺の心に決めたことを話そうではないか。

「去年の将軍様の御成りの件、覚えているか?」

 俺は、そう切り出した。

「おお、忘れられようか」

 と信春。

「それは棟梁殿、松永殿の御権勢、案外脆いという仰っしゃりたいのでしょうか?」

 と、これは直治どの。

 俺の言いたいことを先読みしたらしい。


「そうだ。

 去年の小田原での(いく)さのとき、上杉殿が小田原城を落とすやもという危険を感じるや、三好殿、松永殿はすぐに将軍様との仲を取り戻そうとした。

 これは、俺たちには盤石と見えていても、少なくとも松永殿自身はそうは考えていないということではないのか」

「そうなのか。

 もはや、三好殿の世がひっくり返ることなどありえぬと思うが……」

 俺の言に、信春が異を唱える。信春は、自らを松永殿の立場に置いて考えるということをしていない。信春らしいと言えば、まことに信春らしい。


「やはり……。

 尾張の織田殿の件が尾を引いておりますな」

 と、これは直治どの。

 直治どのは、俺の言いたいことを正確に察してくれたらしい。


 直治どの、俺の顔を見ながら付け加わえる。

「思いまするに、棟梁のお考えは、こういうことなのかと。

 三好殿、京での権力は絶大。

 だが、京の武士は弱い。東から来た武士には勝てたためしがない。まして、少数をもって大国の主を討ち取った織田殿のような存在もあり、まだまだ油断がならぬ、と」

「そうだ、そのとおりだ」

 そう俺は応える。


 織田殿の桶狭間でなされた戦さは、世の常識を変えた。

 大国の主でさえ、いくさで負ければ一日にして簡単に命を落とすのだ、と。

 そして、その織田殿の軍勢ですら、坂東武者の強さには遠く及ばぬと聞く。今から五百年前、倶利伽羅峠の戦いでは四万の平氏が五千の源氏に負けている。八倍の軍勢でも負けるとなれば、そして負ければすべてを失うのが武士の掟ともなれば、松永殿も用心深くもなろうというものだ。

14話 深夜に至る練策

に続きます。

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