第8話 死に様見物とは片腹痛い
「落ち着け、信春。
三好殿も狂犬ではない。その領地では名君の誉れ高いとも聞いている。ならば、なにが描かれるかを知るまで、我々に手を下す判断はなかろうと踏んでいる。ただ、この読みが外れたとしても、真っ先に殺されるであろう俺には責任の取りようがないがな。
二つ目はもう少しよき答えができよう。
越前の朝倉殿に対して、将軍様が自らの『義』の字を与えたと聞いた。その結果、朝倉延景殿は今や朝倉義景殿だ。それは、朝倉殿の忠に報いると同時に、その領地が長尾殿の通り道になるからだと仰られていた。さらに越前、越後の一向一揆に対しても、本願寺を通して手を打たれているらしい。そこから考えると、能登国にだけ手を打たぬとは考えにくい。ましてや、七尾の守護、畠山家は足利の御一門ではないか。
俺には、将軍様のご内意で動く長尾殿と畠山殿が、わざわざことを構えるなどありえぬと思うのだが……」
これは俺の推測に過ぎないものの、そう外れているとも思えぬ。
俺の言葉に、信春は深く頷いた。
「ああ、そうであったな。
七尾の殿様、ご家紋も将軍家と同じものを使われていた。源四郎どの、相すまぬ。杞憂に浮足立っていたようだ。
だが……」
「すまぬ」
俺は信春の言いたいことを察してまずは詫びを入れた。そして、俺は信春の目を正面から見て話す。少なくとも俺の中で、この話に偽りはないのだから。
「一つ目の、我らが殺されずに済むかについて、先ほどの答えは逃げたわけではない。正直に言おう。それは、俺には答えられぬ問いなのだ。先ほど言った推測が精一杯で、この先どうなるか今の俺には読み切れぬ。十中八九読めていても、一外れればそれはそのまま我らの生命に関わることぞ。取り返しがつくものではない。これでは読めたとは言えぬ。
だが……。
逆に聞くが信春。俺が『殺されずに済む』と言ったら、お前はそれを無条件に信じるのか」
俺の問いに、信春は絶句した。
やはり、信春は甘い。直治どのであれば、最初から自分の目で見て判断しようとしていたであろう。
「……だが。
それでもこれは御用絵師として逃げられぬ仕事ぞ。何度でも言うが、それは決して変わらぬ。俺が殺されようとも連座(※)を防ぎ、弟の秀信と高弟が生き延びれば派の存続は無理なことではない。
そのために俺は、取り調べがあればこれは高弟たちとではなく、お主らと描いていたと言い張るつもりだ。
その上で、関白様に認められ、将軍様に下命を受けただけの御用絵師とその仲間を不調法もないのに殺せるのかと問い続けるしかあるまい。
あとは、町衆には町衆として打てる布石がある。そこに手を尽くす」
「まぁ……。
扇づくりも含めて、狩野の名は絶大だ。おいそれと殺せないのはわかる。
ただな、将軍ですら弑すつもりの三好殿なれば、『御用絵師などみせしめにしてしまえ』となればこうだろうな」
そう言って、信春は両手でなにかを捻る仕草をしてみせた。
信春のしてみせた手の動き、これは鶏の首だかを架空に捻ってみせたのだろう。背筋が寒くなるようなしぐさである。
「そうだな。そんな感じで『殺せ』と軽く命じられるだけで、我らもあっけなく死ぬのであろうな。
だが……。
たとえそうであっても、武士ではない俺にも意地はあるのだ。その意地で、殺されぬように徹底して手を打つ。おめおめと犬死にはせぬ」
「ふん、笑わせるな、源四郎。おぬしは絵筆は握るが、刀など握ったこともないであろうに。だが面白い。狩野の力、見せてもらおうではないか。
俺は加わろう。これから源四郎殿が、権門勢家の中をどう踊るか見せてもらうためにもな。そして、場合によれば、死に様見物もさせてもらおう」
おお、言ってくれるではないか、信春。
※連座 ・・・ 刑罰が罪を犯した本人だけでなく、主従関係やその他特殊な関係にある者にまで適用されること。
第9話 できることとできぬことがある
に続きます。




