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洛中楽Guys ー若き絵師たちの肝魂ー  作者: 林海
第二章 ご下命、如何にしても果たすべし

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第7話 意地を懸け、命を懸け


 だが、小蝶になにかをしてやるのは今ではない。今は、このご下命の話をせねばならぬのだ。もう、単刀直入に語ろうではないか。

「話を続けよう。

 本日俺が行ってきたのは、将軍様の御所だ。将軍様から下命を受けた。進物としての絵であり、値はいくらかかっても構わぬ、と。

 そして、この件、関白様と将軍様の(まつりごと)に使われる。この絵によって、関白様と将軍様は、天下を静謐なものとしうる武将の上洛を促したいのだと。

 だが、これは裏を返せば、京の都を一手に握っている三好殿を遠ざけたいというお考えの発露に他ならない。つまり、そのような意を表したものを描くとなれば、我々の生命はすぐさまにも危険に晒されるであろう。

 現に今、三好殿の手の者によって工房は見張られている。だから、笑え。工房の他の者たちから見て、下らぬ話をしているよう見えるように」

 そこまで話して、ぐるりと各々の顔を見る。


 信春は、相も変わらず駘蕩たる雰囲気を崩していない。ただ、その顔には、なにか言いたいことがあるのが窺える。隠そうとしていても、滲み出るものはあるのだ。

 直治どのは一番の若輩でありながら、一番の修羅場の経験者だ。さすがに慣れしているのか、その顔には俺の言ったとおり笑みを浮かべていて、そこに不自然さは微塵もない。だがやはり、言いたいことがないわけがないであろう。

 小蝶は大きな目を見張り、俺の顔から目を離さない。口は固く結ばれ、表情は固いままだ。だが、動揺した風はない。まぁ、小蝶は普段から大口開けて笑う娘ではない。この辺りの表情が落とし所ではあるのかもしれぬ。


 俺は続ける。

「俺とて、恐ろしくないと言ったら嘘になる。

 だが御用絵師として、将軍様の下命を断るわけにはいかぬ。それは、お前たちもわかるであろう。

 そして、この関白様と将軍様の企てが失敗すれば、派としての狩野も、そして関白様からの覚えのめでたい我々の未来は閉ざされる。場合によっては生命すらな。我々の未来があるとしたら、関白様と将軍様の企てが成就(じょうじゅ)し、お納めした絵がその一助となってこそだ。その時の我らへの見返りは、莫大なものになろう。

 その企てを成就させんがためにも、我々は良い絵を描かねばならぬ」

 俺はまず、自分の決断を伝えた。

 その上で、俺は全員の顔を見渡し、決断を求めた。


「今、この時をもって、この話から降りると言うなら降りてよい。

 だが、走り出してからは降りること、認めぬ。描くとなったら意地を懸け、命を懸けて完成させねばならぬ。

 共に描くか否か、今ここで、決めて欲しい」

 俺は強くそう言い放って、もう一度ぐるりと各々の眼を見据えて、半ばやせ我慢ではあるが笑ってみせた。


 先ず、口火を切ったのは信春だった。

「源四郎殿。

 その判断の前に、いくつか答えていただくことはできまいか」

「なんだ、信春。

 おぬしから『殿』付けで呼ばれるなど、初めてのことではないか」

 俺はそう混ぜ返す。自分自身のも含めて、この場に張りつめる皆の緊張を解きたかったのだ。顔に笑顔だけ貼り付けていても、あまりに不自然だからだ。


「今、俺が話しているのは、絵師としての源四郎ではない。狩野の棟梁としての源四郎殿だ。なら俺だって、『殿』も付けるさ。

 まず一つ目だ。

 俺も絵師の端くれだ。道半ばとて、絵に生き、絵に死すことなら厭わぬ。関白様の内意もあるとすれば、天子様のお考えにも沿っているということであろう。ならば、なおのことだ。

 だがな、だからこそ描く前に殺されてはたまらぬ。そのあたりの見込みを、源四郎殿がどう見ているのかなのだ。

 それから二つ目だ。

 世を静謐なものとしうる武将とは誰なのだ。

 ひょっとして越後の長尾なのか。

 ならば、俺は手伝うわけにはいかん。なぜなら俺の故郷は七尾だ。越後から軍を率いて上洛するのであれば、七尾は通路となろう。つまり、七尾でいくさになりかねん。俺は俺の故郷を焼きたくはないのだ」

 ああ、そうだったな。信春は七尾の仏絵師だった。我が身に降りかかった問題(こと)と捉えて、信春め、冷静さを失ったな。


第8話 死に様見物とは片腹痛い

に続きます。

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