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洛中楽Guys ー若き絵師たちの肝魂ー  作者: 林海
第一章 まずは、我らのことなどを

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第12話 甘い考えは捨てよ


「立て。そして、おまつと一緒に俺の部屋に来い」

 こうなったら、こちらは俺が話をつけよう。父に丸投げする心計(つもり)だったが、さすがに可哀相になってきた。俺なら、父よりは温情を掛けられる。


 そう思ったのだが……。

 小蝶、お前もか。

 往来での土下座が二人になった。

 おそらくは、「おまつと一緒に」という俺の言葉で、小蝶もすべてを察したのだろう。そして、おのれのしでかしたことに、ようやく思い至ったに違いない。ついでに、それによって石見大夫とおまつがどれほどの(とが)めを受けるか、それにも考えが至ったはずだ。


 でもって、石見大夫も小蝶が横で頭を下げていたら、自分だけ立ち上がることもできまい。

 だがな、おい。

 兄に対し、石見大夫と一緒に土下座する妹が世間様にどう見えるか、少しは考えて欲しい。お前たち、場というものを理解していなさすぎではないか。


「小蝶、さっさと父上の下に行け。

 石見大夫、お前もさっさとしろ。俺は俺の部屋で待っている」

 そう重ねて言って、俺も自分の部屋に向かった。まぁ、その場から逃げ出したのだ。


 それから間もなく。

「石見大夫、まつ、まかりこしました」

「ん、入れ」

 俺はそう声を掛ける。


 なのに二人は揃って、廊下の床板に額をこすりつける。

 俺、聞こえがよしにため息を大きく吐いてみせる。

 二人、さらに小さくなった。


「恥を晒したくなければ、さっさと入れ」

 俺の言葉に、二人共が平伏のまま尺取虫のように俺の部屋に滑り込んできた。

「どうするのが正しかったと思うか」

 まずは俺、そう問うた。


「若様、此度(こたび)のことは(ひとえ)にこの私めが悪うご……」

「そのようなことは一言も聞いてはおらぬ。

 狩野の家名を傷つけないために、お前はどうすれば良かったのかと俺は聞いている」

「……まずは若様に、隠れてでも正直に打ち明けるべきでございました」

「わかっておるではないか。二度とこのような愚かな真似はするな」

 まずは俺、そう釘を刺した。そして、精一杯厳しい顔を作った。


「今回の件につき、処分を申し渡す。

 狩野の家の土台を揺るがした罪は重い。父は隠居に追い込まれたのだぞ。

 石見大夫、お前は一生飼い殺しだ。逃げたら石見の国元はおろか、狩野の名を許した諸国の高弟まで廻状を遣わし、この日の本での居場所をすべて奪う。

 とはいえ、今の長屋住まいは許し、飯だけは喰わせてやろう。まつは場所替えだ。明日からは、おつるの元で働け」

 予想どおり、2人とも絶望的な表情になった。


 まぁ、無理もない。

 石見大夫は給金が無くなり、所帯を持つなど夢のまた夢となる。

 朝から晩まで監視付きで、指にタコができるまで絵筆を握らせられるのだ。絵を描かないときにも、礬水(どうさ)引きなり、岩絵具を砕くなり、夜明けから夜遅くまで隙なくこき使われることになる。

 また、おまつが付かされるおつるは、下には必要以上に厳しく当たるきつい女と評判で、使用人の中でも最凶と思われている。おつるについたどの下女も、半年持たずに皆逃げ出し、姿を隠してしまうのだ。

 これからのおまつは、寝たあとの夢の中でまで一日中気の休まるときはないだろう。


 だが、俺の処分を聞いた父は笑う。そして、こう言う。「源四郎、やはりお前は甘すぎる」と。

 まぁ、それでいい。俺は、自分が持つ工房を修羅の集まりにはしたくないのだ。

 そう言われてしまう理由、実のところはこうなっているのだが……。

第13話 最初の一歩

に続きます。

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