やつらは闇の一派
その日、れなは光姫と約束を交わしていた。
テクニカルシティの調査…のついでに、映画を見に行く予定だったのだ。街の中でも特に人気のある映画館での映画鑑賞。れなは期待に胸を踊らせていた。
光姫とは公園で待ち合わせている。れなはスキップし、すっかり浮かれてる。
「いやー楽しみい!!ずっと見たかった『メロンVS霜焼け大魔王』!しかも光姫と見れるなんて最高!」
街の人々が横を通り抜けるなか、れなは鼻歌混じりに街道を渡り歩いていた。
まさしく平和そのものと呼ぶべきこの光景だが…実は既に敵は見ていた。
れなはまだ気づいていなかったが、街の上空に小型の黒い円盤が浮かんでいた。
その円盤は、れなに狙いを定めていた…。
「っ!」
れなのスキップが止まる。
円盤は勢いよく落下し、丁度れなの目の前に落ちてきた!!
コンクリートの地面も容易く砕く程の衝撃だった。
白い破片が飛び散り、周囲の人々は驚きのあまりビルの二階の高さまで飛び跳ねた。
落ちてくる人々をかわしながら、れなは墜落した円盤を見る…。
れなと同じくらいの大きさの円盤だった。…つまり、宇宙船にしては小さすぎる。
「これは一体…?」
れなは宇宙船に恐る恐る近づく。
…そんな彼女の接近を察知したのか、円盤は発光し始める!
何かが来る。れなは表情を固めて拳を握る。周囲の人々は驚きのあまり、ビルの三階の高さまで飛び跳ねていた。
円盤から放たれた光は、徐々に円盤本体から分離していき、円盤の横で静止。
少しずつ光が消えていき…やかて、何かが姿を現した。
…現れたのは、黒いアーマースーツに身を包んだ三人組だ。
頑丈そうなヘルメットで頭を覆っており、顔が見えない。
背中には…銃と思われる武器を装着している。
その者達は辺りの建物を見渡し、何かを確認する。
手元にある通信機のような機械を指先で操作し…ようやく、目の前のれなの方を見る。
「宇宙人…?」
れなは呟く。
…そして、その者達は言う。
「我ら闇の一派。地球は貰う」
同時に彼らは、背中の武器を取り出し、れなに向ける!
「っっ!!?」
あまりに突然の事だった。
何が来るか分からない。しかし周りには一般人がいる。
自分がここで対処しなければ、彼らに被害が及ぶ!
れなは両手を構え、攻撃に備えた!
…直後、飛んできたのは黒い光線だった!!三つの光線がれなに直撃する!
「ぐあああ!!」
三つ同時に直撃だ。れなは膝から崩れ落ちる。
地に伏そうとする体。両手を大地に押し込め、何とか止める。
やつらは敵だ。間違いない。
「…っ!!」
まだ痛む体を起き上がらせ、闇の一派の刺客達に目を向ける。
刺客達は一般人にもレーザー銃を向けている…!
これはもう、話し合いの余地など無しだ。どんな理由があろうとも、訳も分からず殺されるなど言語両断!
れなは彼ら目掛けて全力の回し蹴りを打ち込んだ!
二人の刺客に当てる事に成功したが、一人にはかわされた。その一人は、よく見ると首から黒竜を模した紋章を下げている。恐らくこいつがリーダーだ。
三人は同時にレーザーを発射!二度は食らわぬとれなは地を蹴り、軽快に動いてかわしていく。
が、ここで動いたのがリーダーだ。れなに急接近、拳を放ってくる!
打撃なら得意なれなはその一撃を受け止めたが、受け止めると同時に今度は蹴りが飛んでくる!
蹴りの衝撃でれなは空中に飛ばされ、一時的に動けなくなった隙に二人のレーザーが直撃!
「うぐうう…キつい…」
地面に顔面から叩き落されるれな。レーザー銃を向けながらジワジワと迫る三人。
リーダーは冷たい声で言う。
「この星の守護者の一人のようだ。面倒になる前に殺してしまえ」
三人の指が、今正に引き金を引こうとしていた…!
「…ん?」
…何かを察知した三人はれなから視線をそらし、全く違う方向を見た。
れなも震えながらその方向に目を向けると…。
そこには、一般人達の前に立ちはだかり、黄金の髪を美しくなびかせる光姫が立っていた!
刺客達に手の平を向ける光姫。既に状況は理解しているらしく、完全に戦闘体勢だ。
その姿を見たリーダーが、何やら奇妙な事を口走る。
「あの輝き、あの魔力。やつは白の刺客の者か…?まさかやつらもこの星を…」
それを聞いた光姫もまた、何やらただ事ではなさそうな表情だ。
…彼女は何か知っているようだった。
光姫を見た刺客達は一気にヒートアップ。容赦なくレーザーを発射する!!
光姫は即座に白い光の壁を展開し、それを受け止める。
刺客達はこれを見て確信したようだ。
やつは「白の刺客」であると。
「…っ!白の刺客だ!殺せええええ!!!」
闇雲に向かってくる三人!
光姫は光の壁を勢いよく押し出し、彼らにぶつける!
バランスを崩した刺客達。
(今だ!)
れなは心で叫ぶ。一気に駆け抜け、三人の身に痛烈な蹴りを叩き込む!
三人は痛みに呻いた後、崩れ落ちるように倒れ、失神した。
「…光姫、こいつらの事何か知ってるの?」
れなは倒れた闇の一派達を見下ろしながら、光姫に問う。
光姫はゆっくりと頷いた。
「闇の一派、そして白の刺客…」
光姫の重い表情と声は、只事ではない事を悟らせるには十分過ぎた。
同時刻、闇姫の城もまた、ある件で騒がしくなっていた。
ここもまた、あの刺客達が闇の世界の各地で目撃された事で兵士達が大捜索を進めていたのだ。
目撃情報があった場所を完全に立ち入り禁止とし、何人もの兵士達が様々な機械を手にあちこちを巡回している。
この大捜索は、闇姫が直々に命じたものだった。
これまでの悪事の計画を一時的に中止し、この大捜索に力を注いでいるのだ。
兵士達は働きつつも、何故ここまで捜索に力を入れる必要があるのかよく分かっていないようだった。
「闇姫様は何をお考えなんだ?」
暗雲が流れる赤い空の下、調査を続ける兵士達。闇姫が命令の理由を語るより前に、行動を急がせる事から、よほど重要な計画なのだと気づいているようだ。
何より、闇姫本人も調査に出向いていた事が、この捜索作戦が重要だと悟らせる何よりの証拠だ。
闇の世界の山脈地帯を回りながら、闇姫はデビルマルマンと共に彷徨う。
デビルマルマンは小さな翼で素早く飛び回り、一度に広範囲を見渡す。見たところ、黒い岩が並ぶばかりで怪しい物は見当たらない。
「闇姫様、その闇の一派という者ども、何者なんですか?」
「闇の世界の支配権を握らんとする目障りな連中だ。やつらは昔から敵軍に静かに魔の手を寄せ、確実に支配してきた。そして我々がやつらに負ければ、勢力は一気に落とされる」
闇姫は拳を握り、空を見上げる。
「やつらは闇の組織。我々と似て非なる存在だ」