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黄昏の狙撃手カール

赤い空が広がる闇の世界。

そこに聳え立つ、漆黒の城。


「チェックポイント!間違えたチェックメイト!」

白衣を着た蛙型怪人が、駒をチェス盤に叩きつけた。

周りには紫の球体型の生物デビルマルマン、四本の腕を持つ球体生物バッディー、青いダイヤモンドから角と手足を生やした生物ダイガル。


闇姫軍四天王、そして闇姫の五人が、チェス盤を取り囲んでゲームを楽しんでいた。

闇姫は足を組みながらドーナツを咥えてる。デビルマルマンは背中から生えた翼を激しく羽ばたかせながら悔しそうに泣き喚く。

「畜生このデビルマルマン様が負けるとは!ガンデルの野郎。蛙の癖に生意気だ!」

「ぶひゃひゃひゃ何せ僕は闇姫軍随一の頭脳の持ち主!こういう勝負事には負けないからねえ」

二人して、異なる感情のままにテーブルに拳を叩きつける。ガンデルは喜びのあまり、デビルマルマンは悔しさのあまり…。

「隙ありいいい」

そこへバッディーが乱入してくる!四本の腕で、ガンデルのルークの駒を殴りつける!

粉々になるルークの駒。元々駒だった白い砂粒を呆然と見つめるガンデル。白衣にも砂粒がかかって汚れてしまってる。

「ガハハハ、やはり頭脳より破壊だろ!」

「そういうゲームじゃねえんだよクソ腕野郎!!」

ガンデルが怒り狂い、チェス盤を宙に放り投げる。駒が周囲に舞い散るなか、闇姫とダイガルだけは無表情だった。

実に楽しい一時を過ごしていた一同だが、突如扉が開く音が響き渡る。


ドクロマークから手足が生えたような外見の小さな兵士が、部屋に入ってきた。

何事だ、と闇姫が問う前に、兵士は振動するような慌ただしい声で報告する。

「や、闇姫様ー!!アンコウ鉱山調査員が負傷したとの事です!調査は即中断!現在救護班が兵士の救出に出ております!」

「引き続き救護にあたれ。アンコウ鉱山関連の活動は今は全て中止だ」



闇姫は兵士を持ち場へ帰し、ため息をつく。

先程とは打って変わり、静かな空気に。


沈黙の中、ダイガルが言う。

「やはりアンコウ鉱山、一筋縄ではいきませんね」

「噂通り、あそこには何かあるようだな」

バッディーが、三本の手をテーブルにのせつつ、残る一本の手で自身の頭頂部を掻く。

「兵士達は何で負傷したと言うのですか?」

「間違いなく、あそこに吹き荒れるエネルギーだろう」

闇姫は腕を組んで話しだした。

「アンコウ鉱山には光と闇の魔力が均等に漂いあう異常気候エリアだ。壁や天井には常にエネルギーが満ちており、僅かなヒビや穴から魔力の矢が吹き出してくる。魔力によって強大なモンスターが現れる事もあると聞く」

それを聞いて目を輝かせるのはガンデル。研究者としての血が騒ぐようだ。

闇姫は頬杖をつき、どこか面倒くさそうな口調で話しだした。

「あそこのエネルギーは強大だ。闇姫軍の進軍においてこれ以上ない程役立つエネルギーと見ていたのだが、入手にはまだかかりそうだな。しかし何より気になるのは」

「人間ごときがアンコウ鉱山を狙ってる事ですよね」

ダイガルが闇姫の台詞に割って入る。闇姫は頷く。

それを聞いて怒りの表情を浮かべたのはデビルマルマンとバッディー。愚かな人間を心から嫌う二人にとって、自分達も手を出しづらいアンコウ鉱山に人間が出向くなど、この上なく不愉快極まりない事なのだ。

しかし多種多様な人員を引き連れた闇姫軍がこれなのだ。

闇姫軍よりも遥かに劣る人間程度の力でアンコウ鉱山攻略は、少なくともあと二百年はかかる。

そう考えていた。



…場面は変わり、とあるビルの会議室。

長いテーブルを無数の人間が取り囲むなか、一人の女性が一同をまとめてる。

ブルムだ。

「アンコウ鉱山調査に必要な人員はまだ揃っていない。残念だが、調査はまだ先になりそうだ」

ブルムの話を聞く人々の目は期待に満ちている。どうやらアンコウ鉱山の力に未来を感じ、希望を覚えているようだった。

しかしブルムは話題を変え始める。

「アンコウ鉱山は一旦取りやめだ。我々はまず、闇の一派、白の刺客へ導入する武器を開発する」

騒ぎだす人々。

そのうち一人、眼鏡をかけた男が、勢いよく手を上げた。

「ブルムさん、闇の一派、白の刺客、双方共に何より求めてるのはアンコウ鉱山のエネルギーです!確かに武器の支給活動も欠かせませんが、高い報酬を得るにはアンコウ鉱山の調査活動、Kプランを進めるべきかと…」

…ここにいるのは、人間とはまた異なる二つの組織、闇の一派、白の刺客と繋がり合う人間達だった。

ブルムは声を張り上げて答える。

「確かにアンコウ鉱山が第一の目標だ。彼等の戦争において最も決め手となる物は、アンコウ鉱山のエネルギーだそうだからな。そのエネルギーを支給すれば、莫大な報酬が得られる。十分承知だ。だからこそ、時間をかけるのだよ」

ブルムはテーブルに手を置き、一同にまんべんなく目を向ける。

「アンコウ鉱山の調査準備にはまだ時間がかかる!それまでまず進めるのはTプラン!テクニカルシティの兵器を寄せ集め、両組織に支給し、報酬を集める。そしてその報酬額でアンコウ鉱山も一気に制圧だ!事を急ぐ必要はない」

ブルムの意見にひとまず従う事にした一同。

机の上に散乱した数々の資料を片付け始め、それぞれの持ち場へ出向く。

…ブルムだけはその場に残り、静かな笑みを浮かべていた。

「良いものだ、戦争とは…」





その日、両勢力の動きなど知る由もなく、葵達が修行に励んでいた。

街の射的場にて、葵が銃を構えて動く的を撃ち抜いている。

すぐそばにはれみと光姫が座っている。れみは一応子供なのでまだ早いと店のスタッフに止められたのだが、こう見えて大人と誤魔化したら案外通用した。

一発たりとも外さない葵の射撃技術につくづく感心し、拍手するれみ。葵は銃を控えめに掲げて得意気だ。

「次は光姫の番ね」

「私にできるでしょうか…」

微笑みながら銃を受け取る光姫。その美貌に秘めた射撃技術はどんなものなのかと、れみと葵は興味津々だ。

台座に立ち、遠くで動く的に銃を向ける光姫。片目を閉じ、心地よい緊張感が彼女を包む。

狙いを定め、引き金を引こうとした正にその瞬間…。


大きな音が響き、柔性弾じゅうせいだんが的に直撃、的は派手に倒れ込む。

「え?」

しかし、光姫はまだ引き金を引いていなかった。


その一撃は…別方向から放たれたものだった。

三人の横で、一人の男が銃を構えて笑っていたのだ。

帽子を被り、黒いコートを着た細身の男だ。

ニヤリとした嫌らしい笑みを浮かべるその男の横には、既に倒れた的が三つ。全て真ん中に撃ち込まれている。

「わりぃな。的が立つのを待てねえんだ。俺せっかちだからよ」

銃を真上に向ける男。

れみと光姫は啞然としているが、葵だけは彼を知っていた。

「あなたはもしや、黄昏の狙撃手カール!?」

カールと呼ばれた男はハットを軽く動かし、近くに置かれていた弾薬箱に足を乗せ、ニッ、と綺麗な歯を見せて笑ってみせた。


よく分からないが、的を横取りされたれみはカールに食って掛かる。

「おい!光姫の的だったのに何取ってるんだよニヤけ面のおっさん!」

カールに向かっていくれみだが、葵がそれを止める。

「やめなさいれみ。彼に喧嘩を売るのは無謀よ」

そういえば先程、黄昏の狙撃手と呼ばれていたと、れみは足を止める。

カールはポケットに手を突っ込み、銃を置く。

「俺をよく分かってるな姉ちゃん。俺の相手をできるやつはその世にそういねえ」

れみは拳を握って悔しそうだ。そんなれみの両肩に手を置きながら、葵は冷静にカールを見つめていた。


暑苦しい射的場から出て、外の冷たい空気を浴びる三人。

歩道を歩き、適当に建物を見ていく。

遊び歩きだ。特に目的はない。

そんななか、光姫は先程の見慣れぬ男…カールの事を聞いてきた。

「葵さん、あのニヤけ面の彼は一体…」

「黄昏の狙撃手カール。西の方からやって来たという凄腕の狙撃手よ。昔は人々を守る兵士として戦争に明け暮れる生活を送っていたらしいわ。彼に助けられた人は多いけど、今では腑抜けてあの様」

確かに、カールの顔は嫌味ったらしさこそあったが、根っからの悪党と比べるとどこか違う雰囲気があった。

なるほどかつては人々の為に命をかけた男だった訳だ。多くの戦地を渡り、その身に泥や血を浴びてきたのだろう。

それを聞いても、馬鹿にされれば我慢ならないれみはまだ頬を膨らませて腕を組んでいた。

「光姫の的だったのに!!」

「私は全然気にしてないから良いんですよれみちゃん」

笑う光姫。

だが、ある疑問が頭に浮かび、パッ、と笑顔がなくなる。葵はそれに気づき、問う。

「どうしたの?」

「いえ…しかし、そんな高名な方がどうして、その、腑抜け?になってしまったのかと…」

あー、と葵は上を見た。

「そうね、そういえば考えた事なかった」

三人のなかで一番彼をよく知っていた葵も、先程初めて出会うまでは噂程度にしか彼の事を知らなかった。

確かに、別に知らなくても良いのだろうが、何だか気になってきた。

そうだ。今は目的はどうせないのだ。ならば少し彼について調べても良いのかもしれない。

「カールは有名人で、彼を知る人は多いわ。この街の情報屋なら何か知ってるかもしれないわね」

情報屋はすぐ近くにある。暇潰しに最適な距離だ。

三人は情報屋に行く事にした。



情報屋は、何度か曲がり角を曲がった先にあった。本当にすぐ近くだ。

綺麗な建物が並ぶ中、その情報屋は古ぼけており、かなり汚れている。

何だか不安になってきたが、少なくとも情報屋である事は確かだ。


キイ、という軋むような音をたてるドア…。

店は簡素な作りだ。木製のカウンターに肘をついた老人がおり、その後ろには本棚が並んでる。

老人は生気を失ったような目でこちらを見つめてくる…思わず背筋が凍る三人。

「いらっしゃい…」

「な、なんか訳ありみたいね」

そう悟った葵は、少し周りの本棚を見渡してみた。


オタマジャクシの飼い方、ケルベロスの褒め方、バケツの叩き方…多種多様ながらも、何というか、不規則なテーマの本が揃ってる。

れみが近くの棚から取り出した本の題は…目玉のくり抜き方だ。

「な、何この本…」

光姫は珍しそうに周囲を見渡してた。こういう店は光王国でも珍しいのだろう。

…いや、この辺りでも色々な意味で珍しい。

れみと葵の表情から心情を察した老人は、ため息をつきながら説明した。

「すまんね…最近情報屋への風当たりが悪くてね。デマだのインチキだの噂を流してる輩がいるんだよ…たかが噂、されど噂。まともな情報誌も出せなくなって、今はこのザマ。もうじきこの店も畳む予定だよ」

顔を見合わせる三人。正直情報屋の内事情など考えた事がなかった。

これではカールの事は調べられそうにない。代わりに情報屋を襲った闇を知ったのだった。



…その頃。


「うへへへへ、闇姫様のご命令通りデマを流したぜ。情報屋はデマで金を稼ぐ悪徳業者だとな!」

球体型の体を持つ二人の生き物…マルマンが、廃れた部屋でキーボードを打っている。

周りには多くのパソコンが並んでる。

情報屋のデマを流す、闇姫軍の計画の一つだったのだ。彼等は社会の裏にも身を潜め、このように小さな悪事も働いている。

この二人もまた闇姫軍の兵士の一人である。

「よーし、今度はどっか適当な民家のデマを流すぞ!実はそこの住人は魔王です、とか…」

盛り上がる二人。

…だが、そんな二人のもとに、一つの殺意が近づく。


「…ん!?何だ!?」

二人はその殺意に気づくが…遅すぎたようだ。

二人が声を上げたその時は既に、銃弾が放たれていた。


「ぎゃあ!!!」

短い悲鳴をあげ、二人は同時に倒れる。足から血を吹き、そのまま倒れ込む。

足が焼けるような感覚だ。痛みより先に、熱が来る。



「よおゴミクズども。派手にやってるじゃねえか」

…二人の前に、ニヤついた男が現れる。

その手にはマグナムが握られている。今撃ったのはこいつだ。

「てめえ…!ぶち殺すぞ!!」

一人が隠していた銃を取り出し、男に向ける。


…が、男はその銃目掛けてマグナムを発射!

鉄と鉄がぶつかり合う音が鼓膜の髄まで響き、壊れた銃が宙を舞う。


その神業を見て、マルマン二人は確証した。

この男は、かの黄昏の狙撃手カールだと。

「てめえら、闇姫軍だよな?もうこんな事はやめろ」

この男に、額に銃口を突きつけられればどうしようもない。二人は震え上がるしかなかった。


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