闇王降臨
「我々は白の反逆者。白の刺客への反逆組織として、これまで暗躍してきました」
瓦礫と砂煙に満ちた、元黄金の都市の中心にて。
兵士達がコウノシンを特殊なロープで拘束するなか、青年は地球戦士達に自分達の事について語っていた。
光に狂う白の刺客。彼らは光への信仰心が強すぎるがあまり、光以外の信仰を醜く見下すようになってしまったという。
特に光を呑む闇に対しては、異常なまでの憎しみを持っていた。闇が少しでもある星は醜い星と称し、襲撃をかけていた。
そんな白の刺客だが、狂気に侵されなかった者達もいた。それが彼等、白の反逆者だ。
コウノシンが活動を続ける中、彼らはどうにか白の刺客の暴動を抑えられないか思案し続けていた。しかし彼等の力は、コウノシン達の前ではとても及ばなかった。
路頭に迷っていたところで現れたのが、地球戦士達。自分達と同じ思想の者達が、ようやく現れたのだ。
言葉通り、天から舞い降りた救世主。れなたちはそんな大役を、知らぬ間に任されていたようだ。
そしてその救世主と力を合わせ、コウノシンを倒した。
白の明星に、真の光が差し込まれようとしていた。
「しかし、まだ終わってない」
青年の声に張りが出る。コウノシンを倒しても、まだ戦争は終わってない。
「闇の一派だな」
粉砕男が呟く。
頭上に広がる黄金の空。あの向こう側に、まだ敵が潜んでいるのだ。
地球戦士達はしばらく、白の明星の復興作業に協力していた。
地球を破壊しようとしていたコウノシンは、今捕らわれている。少なくとも地球を出た時よりは安全な状況になったはずだ。
青年は改めて、ワンダーズにお礼をした。
「ありがとう。俺の名はシャンだ。これから、また手を揃える事になるだろう」
シャンは笑顔を見せた。
白の刺客の笑顔とは違う。純粋な喜びに溢れた笑みだ。
自分達の目的を成し遂げる事ができたのだから当然だ。恐らくもっと歓声をあげたい気分だろう。
だが今は、闇の一派への攻撃を急がねばならない。
…動き回る兵士達に、シャンと話す地球戦士だが、二人、その場を離れた者がいた。
一人は葵だ。
荒れ果てた建物を横目に通り抜けながら、彼女はある人物を探していた。
その人物は、今にも倒れそうな建物の近くにいた。
「カール…」
カールだ。
彼はマグナムを片手に、周囲を見渡している。
その顔は…強敵に勝った表情とは思えない顔だった。
強張っており、シワが寄ったその顔は…まるで、今まさに戦いのさなかに立たされているかのようだ。
見る者全てにプレッシャーをかけるようなその顔のまま…カールは言う。
「ブルムがいねえ…」
そう、カールはコウノシンを倒した後、直ぐ様探し出したのだ。
地球人の裏切り者…ブルムを。
彼女により、地球の交渉作戦は失敗した。地球の命運をかけた作戦を妨害したのだ。やつを放っておけば、闇の一派との戦いにおいても危険な妨害を仕掛けてくるはずだ。
…そいつが、いない。
「…やばい」
ブルムの性根をよく理解しているのはカールだ。
そんな彼が、一言だけ呟いたのだ…。「やばい」と。
恐らく、白の明星に地球戦士がやってきた際に、彼女は白の刺客の壊滅を察したのだろう。闇姫軍の魔力波装置で兵士達が乱れている隙をつき、次の標的に移動した可能性が高い。
そしてその次の標的は…。
「闇の一派…」
葵とカールが、口を揃えた。
突如、黄金の空に異変が起きた。美しい黄金色に、不気味な黒が混じっていく。
黄金の用紙に墨汁を少しずつ垂らしていくような…ジワリ、ジワリと空が暗くなっていく。
つい今の今まで、瓦礫を持ち上げて動き回っていた兵士達が、足を止める。
この星に、今までこのような気候は訪れなかったのだろう。白の反逆者達は、何が起きているのか分からず、口々に混乱を唱え、空を指差す。
…闇姫と四天王は、何が起きているのか理解しているようだった。デビルマルマンが羽ばたきながら、闇姫に耳打ちする。
「闇姫様、これは…!」
「ああ」
ため息交じりに、闇姫は言った。
「マガツカイが来る」
…黒い空に、赤い光が幾つも出現した。
シャンも地球戦士達も、深く染み込まれた戦士の本能で、危険を察知した。
シャンが兵士達に向かって叫ぶ。
「光の魔力を全身に集中して、建物の裏に隠れろー!!!!」
的確な指示に、兵士達は従う。地球戦士も、自分達のエネルギーを全身に纏いつつ、目についた建物や瓦礫の裏に隠れる。
…空から落ちてきた物。
それは、赤く発光する闇の光弾だった。
光弾は周囲に稲妻のような魔力を放ちながら地上に着弾、無数の魔力に分散する!!
周囲に爆風が吹き荒れ、砂嵐と石礫が踊り狂う。
建物をも崩しかねない衝撃だが、戦士達は何とか耐え抜いていた。
「…出た…!」
れなは、建物の裏からそれを覗き込む。
漆黒の巨人…闇王マガツカイの到来を。
彼は付近に四つの腕を持つ石像のモンスター、黒いアーマーを纏う兵士達を従えている。
彼等の陣形の中心に、マガツカイが立っていた。兵士達を立たせているのはマガツカイへの忠誠か、それとも恐怖か…。
ふと、マガツカイが視線をずらす。
…恐怖に震える白の反逆者達の中心に倒れこむ、コウノシンの姿がそこにある。
「…」
マガツカイは、コウノシンに指を差す。
闇の一派の兵士達は、コウノシンに瞬時に狙いを定め、一斉に発砲!
大量の弾丸の嵐が、瀕死のコウノシンの全身を貫いた。輝く血が無数に飛び散り、無惨ながらも、美しい光景が広がる…。
「あっ!」
れなが叫ぶ。
撃ち抜かれたコウノシンは…既に息がなかった。
マガツカイはゆっくりと手を下ろし、コウノシンの亡骸を見て呆れた声をあげる。
「地球の輩にすらここまで負わされるとは。結局白の刺客など、闇の力の前ではカスにも満たん。俺の攻撃で仕留める価値すらないわ」
暫くの間コウノシンを見つめた後、彼は付近に目をやる。
数多くの戦士達が、睨みつけている。
そのうち、光星王はマガツカイに歩み寄り、見上げる。
マガツカイの目は赤く、まるで宝石のような輝きを放っていた。その奥に眠る底知れぬ物が、見る者を震わせる。
まるで、闇の中のような…何がいるか分からない闇に放り込まれたような、そんな悪寒を感じさせるものだった。
「マガツカイ…。今一度言う。大人しく降伏しろ。地球の戦士達と白の反逆者が、お前に牙を剥く前に」
勿論そんな言葉で臆するような相手ではない。光星王は理解していた。
「何を勘違いしている」
黒いマントを翻すマガツカイ。黒い体に黒いマント…まさに闇の巨人だ。
「降伏しろ。我々闇の一派がお前たちに牙を剥く前に」
それ以上の事は語らない。
…もう既に、闇の信仰心を語る程の相手ではないと見ているのだろう。既に拳を握っており、殺意を表していた。
…れなたちは、正直恐れていた。
こいつがマガツカイ…。闇王と呼ばれる者の一人。
こいつを相手する事は、闇そのものを相手するようなものにさえ感じられた。今空を覆い尽くした、強大な闇そのものを。
「おい」
れなの肩を誰かが殴った。
見ると、闇姫がれなの横に立っている。
「まさかマガツカイにビビってんのか」
れなは黙りこむ。他の戦士達も、あまりの威厳に圧倒されていた。
闇姫と、四天王だけはマガツカイへの視線を研いでいた。
光星王は、冷や汗を流しつつもマガツカイへ拳を向ける。
「お前達が闇を信仰してる事に文句はない。お前達はその考えを先人から教わり、生きてきたのだから。だがな」
光星王の顔が、険しく歪む。
威厳には威厳で返す…。光星王とマガツカイの視線が、互いに切っ先をぶつけ合う。
「…だがなマガツカイ。その信仰心を無理に押し付けるのは許されん。自分達の意思の尊厳だけで、他の考えを潰してどうする」
「お前が伝えようとしてる事がよく分かるぞ。幾つもの考えを理解し、それと上手くやっていこうと言うのだろう。その考えを何と言うか知っているか?『悠長』だ」
意思を守る盾も持たない。互いに信念を放ち合い、相手の心にぶつけ合う。
「全てを等しく包み込む闇。闇を信じれば、全て一つになる。一つの考え方で、闇を信仰し、闇の教えに従うままに生きる。そうすれば全ての者の思想は一つとなり、面倒な争いは起きなくなる」
「つまり…これは争いを無くす為の争いであると?理解が及ばぬな…やはり闇の勢力の考えは当分理解できそうにない」
そこへ、光星王の背後から、何者かが軽く拳を当てた。
振り返ると…実に不愉快そうな顔の闇姫が、二人を睨んでいた。
「おいジジイ。マガツカイなんぞの思想を闇の思想だと思うな。ぶっ殺すぞ」
闇姫はマガツカイに歩み寄る。
体が触れ合わんばかりの距離まで詰め寄り、中指を立ててみせた。
「テメエのやり方は、闇のイメージを醜く歪めるものだ。真の闇とは、なりふり構わず他の物を呑み込み、同化させ、甘い考えに浸らせるものではない。漆黒の拳で他の力をねじ伏せ、屈服させ、更なる力を得ていく誇り高きものだ」
光と闇の戦いではない。これは信念と信念のぶつかり合いだ。
言葉を交わし合う余裕はそろそろ終わる。ここからは…。
「邪魔は消し飛ばす。それだけだ」
…マガツカイが、手の平に魔力を集め始めた。
光星王もまた、手の平を黄金に輝かせる。
「結局、話し合いは無理か」
呆れたような光星王の言葉が、虚しく響いた。
…両者の魔力が、一斉に爆発した!
黒と黄金、全く異なる二色の魔力が、辺りに散る。
強大な魔力により、無数の石礫が付近に飛び散った!!
「…!やるぞおおお!!!」
テリーの叫びと共に、ワンダーズが駆け出した!!
光星王はマガツカイと、ワンダーズと白の反逆者はマガツカイの手先との戦いだ。
六つの腕を持つ黒石の羅兵士達が、虫のごとく無数に向かってくる。その手数は、百や千どころではないだろう。
それに対してこちらの手数はあまりにも少ない。
ならばどうする…。
「ふん!!」
ダイガルが、闇姫軍最年長クラスの意地を拳に込め、羅兵の頭を叩き割る!
デビルマルマンが、砕けた羅兵に魔力波を撃ち込み、再生を阻害する。
そうだ。一人一人が羅兵を上回る技術を行使すれば良いのだ。
バッディーが、四本の腕で羅兵の剣を受け止めながら最後のワンダーズに言う。
「こいつらは確かに強いが、闇の魔力で石の塊を動かしてるだけだ!!破壊したら、エネルギーやら魔力やらを撃ち込んで再生を阻害すれば瞬殺よ!」
その言葉に続くように、皆は次々に攻撃を仕掛ける。
シャナイは剣で羅兵の首を切り飛ばし、れなとれみは姉妹のチームワークで蹴りを打ち込む。粉砕男は自慢の剛力で、羅兵の胸を貫く。
ドクロとテリー、闇姫、ガンデル、デビルマルマンが魔力波で彼等の体を包み込み、再生を阻害。役割分担は完璧だ。
あとは敵の数次第だ。敵の数だけこの調子が続けば、マガツカイに集中できる。
勿論敵は羅兵だけではない。黒いアーマーで身を固めた兵士達も、銃を手にこちらに迫ってくる。
無数の銃弾が迫りくるが、ここまで来て臆する地球戦士ではない。
黒い空に無数の礫が舞い散る。建物は常に風に吹かれ、左右に揺れる。その様子は恐ろしくもあり、そしてゆったりと揺れ動く様は穏やかでもある。
…等しく全てを包み込む、闇のようだ。
その頃、一同と分離していたカールと葵は、ある行動に移ろうとしていた。
「ブルムを探すぞ」
え、と葵は聞き返そうとした。
マガツカイが暴れている今、優先すべきはマガツカイだと思っていたが…。
「マガツカイは後だ。あのクソ女を見つけないと、後で大変な事になる。あいつは何をやらかすか分からねえ」
確かに、やつは地球をも犠牲にしようとした恐ろしい女だ。その目的もほとんど大した事はない。ただ宇宙で金儲けをするだけだ。
やつは楽な暮らしさえできれば地球ではない異星でも良いらしい。もしそうではなければ、地球が破壊されるような発言をする訳が無い。
今やつが肩を貸してるのは恐らく闇の一派。という事は、今もこの戦いに紛れてる可能性が高い。
戦場に直接出てはいないだろう。ここのどこかに、やつが…。
「葵、ついてきてくれ」
カールがマグナムを手に、歩み始めた。凄まじい戦闘音が遠くでこだます中、辺りの建物に上手く身を隠しながら慎重に進んでいく。
「…何者だ!!やれーーー!!!」
建物の隅から、闇の一派の兵士達がこちらに向かってくる!
激戦区の他にも、兵士が配置されているようだった。彼らは、あの激戦区に乱入者を近づけない為に配置された兵士だろう。
こんな少数に押される二人ではない。葵はライフル、カールはマグナムで彼等の足や手を正確に撃ち抜き、必要最低限の攻撃で動きを封じていく。
できれば死者は出したくない。これが戦争だと承知の上でもだ。
崩れそうな建物の間を掻い潜りながら、時々現れる兵士を倒して進む。カールの慎重な足取りは、何か宛があるようだった。
「やつの隠れ場所はよく知っている。やつはこういう戦場では、必ず身を隠す盾を持って隠れてるんだ」
「遠回しな言い方は聞き飽きたわ。早くその場所を教えてよ」
カールは立ち止まり、ある場所を見る。
視線の先には…マンホールがあった。
「多分、ここだよ」
そのマンホールは、僅かにずらしたような跡があった。
マンホールを開けると、梯子が待ち構えていた。
二人は梯子を下り、地下へと進んでいく。
荒廃した地上とは違い、地下は綺麗に整っていた。
無数のパイプを横目に、地下へと降りていく。途中、壁に設置されたライトのおかげで暗闇は無かった。
こんな所にまで光の居場所を作っているようだ。地上が暗くなっている今ではありがたい。
「よっと」
カールから先に、梯子から降りた。シューズが硬い地面に降り立ち、静かで乾いた音がこだました。
「ここは…」
そこは…白の明星の地下水路のようだった。細い通路の真ん中に、水が流れている。
しかし流れている水は色褪せた黄金色。地球に流れてる一般的な水とは一味も二味も違う。
一見、兵士達の気配はない。しかし敵地である事は変わらない。この水の中にも何が潜んでいるか分からない。
全方位まんべんなく、銃を向けていく二人。いつ出てきても良いように、意識を銃口に集中させていく。
地上からは轟音が絶え間なく聞こえてくる。その音は、地下水路を照らす光の中を泳いでいく。
大地という壁で地上と隔離された、地下という世界。そこで、温度の低い構え音が聞こえていた。
「おい」
カールがある壁を指差す。
そこには、鉄の扉があった。
重々しい雰囲気のその扉には、かなりの量の錆が張り付いている。あまり目立たない場所にあるその扉は、何かを隠しているように見える。
「気をつけろ…」
二人の銃の意識が、扉の一点に集中する。一步、また一步と、硬い地面を歩く足音が鈍く広がる。
扉に手をやる。鍵はかかってない。
「…っ!」
一気に扉を開く!
二人同時に銃を振り上げた。
その部屋は、無数の機械が並ぶ研究室のようだった。
白の刺客の建造物ではない。ここだけ何やら質素で、地球人の技術で作られた施設のようだ。
各所には様々な銃やナイフなどの設計図と思しき紙が貼っている。天井は一面のパイプが張り巡らされており、この地下水路の一部を改造した名残が残ってる。
そんな怪しげな部屋の中心に立っていたのは…水色の長い髪に白衣の女。
「やあ、見つけるのが少し遅くないか?」
嫌味な笑みを見せる、ブルムが立っていた。
地上ではあれだけ凄まじい戦いが起こっているというのに、その顔は余裕そのものだ。よく見ると白衣のポケットからはハンドガンが顔を覗かせている。
葵とカールの睨みにも、ブルムは平気な顔を見せた…。




