狂った光を打ち砕け!
一同が宮殿を進む中、立ちはだかる白の刺客達。
粉砕男とラオンは、獣使いガルコウが送り出してきたアリガーの動きを徐々に読み始めていた。
アリガーの噛みつきも突進も、一直線上の単純な動きだ。場所が狭いのが厄介だが、そこまで立ち回りは難しくない。
「今だ粉砕男!!」
ラオンがアリガーの隙を見た。凶暴な獣とはいえ、疲労は無視できない。
粉砕男は飛翔し、拳を背中へ叩き込む!!その衝撃はアリガーの全身を突き抜け、あっという間に気絶へ追い込んだ。
階段の上に目をやる。
ガルコウは、歯を食いしばってワナワナと震えていた。
ラオンはアリガーの背中に足を乗せ、ナイフをガルコウに向ける。
「おい飼育員。お前のショーは終わりだ。さっさと通してもらおう」
同時刻。死神兄妹とれみはアルカイの投擲武器を相手に軽快に立ち回っていた。
特に体が小さく、素早く動くれみはアルカイにとっては苦手なタイプ。れみは刃の軌道を読み取って行き、アルカイとの距離を詰め続けていく。
そして…ついに1メートル以内の至近距離にまで近づけた。ここまで来ると、アルカイは自慢の投擲技術も活かせず、がむしゃらに刃を振り回すしか無い。
「ひいい!!来るんじゃないわよ!」
れみは、カールを真似たようなニヒルな笑みを見せ、飛翔。アルカイの顔面へ蹴りを食らわせた!
仰向けに倒れるアルカイ。
そして、宮殿で行われている三箇所目の戦い。
シャナイとコウハ、二人の騎士が互いの愛剣を叩きつけ合い、コロシアムの中央で汗を流していた。
観客のいない静寂の闘技場。二人から放たれる熱気が空間に充満し、鎧の熱を高める。
そんな暑さの中でも、二人の精神は一切乱れない。
コウハは剣を振るい、シャナイが受け止める。異なる素材で作られた光の剣が擦りつき合う音は、氷が少しずつ削れる音と似てる。
詰めあった距離で、コウハは言う。
「なるほどこれが地球の剣術か。以前戦った時は正直必死で、お前の攻撃をよく見れなかった」
「今は俺の攻撃を見切れるとでも言いたいのか?」
冷たく返すと、コウハの剣を押し返す。
押し返した衝撃で、シャナイは後ろへ飛び上がる。重い音と同時に着地し、空中に剣を踊らせる。
すると、黄金の小剣が五本形成され、コウハへ飛んでいく。
コウハは驚く事もなく、剣を正確に切り落とす!
彼が小剣を切り落としている約二秒間。その間にシャナイは一気に近づき、コウハの頭目掛けて剣を振る!
「くっ!」
間一髪、剣を構えて受け止めるコウハ。再び剣がぶつかり合い、鋭い音が放たれた。
「甘い」
変わらず冷たい声で発するシャナイ。足を振り上げ、コウハの腹部を蹴りつける!
鎧すら貫通せんばかりの蹴りだ。コウハの剣に乱れが生じた隙に、シャナイの剣が、コウハの剣を押しのける。
バランスを崩した瞬間に、シャナイの剣が、コウハの鎧に叩き込まれた!
「がばばっ」
その衝撃は、コウハの声帯にもダメージを与えた。乱れた声が、口から漏れる。
膝をつくコウハ。息を整えると共に、声も保っていく…。
そんなコウハの兜に、黄金の切先が岩石の如く叩き落された!
容赦無い攻撃だ。コウハの兜がバラバラになり、地球人とよく似た中年男性の顔が現れる。
むき出しになった顔にさえ、切先は向けられた。
シャナイの非情さが、唸りを上げていた。
「俺の勝ちだ。ここを通してもらう」
息を整えるのもやっとなコウハに対し、シャナイの声はあまりにも冷たい。戦場の勝者…その称号が似合う男だ。
コウハは震えながら立ち上がる。
「…コウノシン様のもとへは…行かせぬ」
コウハは、再び剣をとる。
傷ついた鎧に、急所の塊、頭部。
この姿でも、尚剣を構えられる姿。しかしながらシャナイはこんな光景には慣れていた。
幾多の戦いを乗り越えたシャナイには、こんなものは。
「…!?」
…だが、予想外の事が起きた。
コウハは、笑みを浮かべたのだ。
…作り笑いではない。正真正銘の笑顔だ。
「なぜ、笑う?」
思わず聞いてしまう。
「コウノシン様のお教えだ。笑顔は恐怖をなくし、心を輝かせる。そうして我々は敵を…」
コウハの姿が、消える!
落ち着いて周りを確認するシャナイだが…。
「殺してきたのだ!!」
…背後から、剣を叩き込まれた。
シャナイの兜も、バラバラになる。
それは、他の兵士も同じだ…。
「ガルコウのやつ、笑ってやがる…」
粉砕男は、気味悪そうに言う。
階段の上から、微笑んで見下ろしてくるガルコウ。鞭を持ち上げ、先程以上の勢いで振り下ろしてくる!
その速度に、粉砕男は対応しきれなかった。鞭が彼の服を切り裂き、血を吹き出させる!
「くっ!?何だ!?先程とは桁違いの威力だ!」
アルカイも同じだった。
笑みを無理やり貼り付けたような顔で、刃を投げ続けてくる。
その精度は正確極まりない。先程まではかわせていた三人はいよいよ対処が追いつかなくなり、手や足に刃を刺しこまれる!
素早さに優れたれみですら、足を刺された。転倒し、顔面から床に倒れ込む。
例えるなら、笑みの仮面を装着し、その仮面から活性剤でも全身に流れ出しているかのような異様な状態だった。表情筋を少し動かすだけで、ここまで力が出るものなのだろうか…?
アルカイの刃の投擲は止まらない。三人は両腕を構えて顔を覆うしか無い。
そしてガルコウも、鞭で粉砕男をひたすら叩きのめしていた。鞭から棘でも生えているかと思うほどの殺傷力。
だが鞭は極めて普通の見た目だ。ガルコウ自身の力だった。
ラオンは粉砕男を助けるべく、ナイフを振りかぶって階段を駆け上り、ガルコウを切り裂こうとしたのだが…。
「ふん!」
鞭は粉砕男の顔を叩きつけ、勢いを保ったままラオンの足に叩きつけられた!
転倒し、階段から転げ落ちるラオン。力だけでなく、精度まで上がっている…。
「ふふふふ、やはり笑顔は偉大だ。表情の中でも最も輝く、光を纏う完璧な表情だ。溢れる、脳から喜びが溢れる!」
狂気じみた声で語り続けるガルコウ。
そしてコウハに至っては、新たな技まで繰り出してくる始末だった。
剣を振るうと同時に真正面に放つ衝撃波、シャナイの周囲に光の鉄格子を出現させて動きを制限する魔術、魔力を集中させた蹴りに電撃を纏わせた剣を叩きつける攻撃。
コウハはボロボロの鎧に兜もなし。シャナイは兜を失いつつもまだ鎧は万全、シャナイ自身の肉体もそこまで傷ついていない。
にも関わらず、防戦一方となっているのはシャナイの方だ。
これが、背水の陣というやつだろうか…?
「ふん、勢いが落ちたな!」
コウハの剣は、シャナイの全身を突き刺していく。
その剣先が、シャナイの鎧を貫通し、彼の肉体に到達、分厚く硬い筋肉の壁をも容易に貫き通す。
鎧を次々に破壊されていき、シャナイの体もコウハと同じ状態になりつつあった。
「覚悟!!」
コウハの蹴りが、シャナイの胸元を蹴り上げた!
鎧が無惨に飛び散る轟音が広がり、倒れるシャナイ。
…震えながら立ち上がると、コウハの剣先が自身の前に向けられているのが目についた。
文字通りの意味で、剣先は目と鼻のすぐ先。コウハは息を切らしつつ、変わらない笑顔でシャナイに言う。
「地球の剣術も中々だった。同じ光の勢力として誇りに思う」
剣が、シャナイの顎を持ち上げる。…喉を刺す気だ。
そして今になって、先程地面に激突した衝撃が脳に回ってきた。シャナイの口から、血が垂れる。
時間が経てば経つほど、瀕死が目立ってくる。
「実質、お前は同胞だ。最期の言葉くらいなら聞いてやる」
コウハの声もまた、冷たい。その声に光など宿っていないように聞こえた。
「…それでよく、光を名乗れるな」
「ふん」
シャナイの言葉に耳を傾けず、手早く刺し殺そうとしたが…。
「んっ!!?」
コウハが、声をあげる。
痛みではない。何か違和感を覚えたのだ。
自身の腹部の辺り…そこに突きつけられた、ある物に。
「…な、何だそれは!?」
銃声が響く!!
「ぐあああああ!!!」
隠し持っていた最終兵器…カノアン01だった。
効果ありだ。コウハの体からは黒い煙が吹き出ており、床にのたうち回る。
言ってしまえば、気高い騎士の姿とは思えぬ滑稽な様子だった。
そして、カノアン01は他の場所でも唸りをあげていた。
鞭を振り回すガルコウに、ラオンがカノアン01を向ける…。
「てめえ、いい加減に…舐めんじゃねえ!!」
ラオンの怒りの声は、銃声をも超えるほどの鋭さだった。
闇の弾丸が階段上のガルコウに飛んでいき、彼の肩に直撃!
「うぐあああ!!?な、何だこれは…!!」
相当な激痛のようで、あれだけ大事に持っていた鞭を速攻で落とし、ガルコウ本人も階段から転げ落ちた。
そして、アルカイも…。
「ぎやああああ!!!」
れみ、ドクロ、テリーの前で、苦痛にのたうち回っていた。
やはり、彼らは闇の力に極端に弱いようだ。体そのものが受け付けないらしい。
だからと言って、戦争を起こして良い理由にはならない。
苦しむ上級兵士達を見下ろすワンダーズの顔は、いずれも無情だった。
「ぐっ…!!ぐあ!!」
コウハは剣を床に突き立て、無理にでも体を起こそうとする。しかしこの傷、そして闇の力を撃ち込まれた体では動く事もままならず、戦いなどもってのほか。
騎士が完全に敗北した瞬間だった。
「…」
シャナイはもはや何も言わずに彼の横を通り過ぎる。
ガルコウもアルカイも、何かを言って膝をついた。
しかし、具体的に何を言ったかは覚えていない。それぞれ対峙したメンバーは先に進むのに必死だった。
あんなやつらだ、敗北した瞬間も光への信仰を謳っていたのだろう。
カノアン01のおかげで道は開けた。だが…果たしたこれがコウノシンにも通用するかどうかだ。
他よりも先に先導したれな、葵、カール、光星王は、今まさに宮殿の最奥へ足を踏み入れようとしていた。
壁には、歴代のリーダーであろう白の刺客達の肖像画が飾られている。いよいよ玉座の間が近い。
四人の目は、決意に溢れてる。あのコウノシンを止めなければ、どんなに兵士を倒しても同じ事だ。
やつは信仰の元。
白の刺客が信仰する「光」が形を持ったような存在なのだろう。
やつの命令一つで、幾多の血が流れるのだ。
そしてその血は全て、大義の為、光の未来を築く為。
…そんな事は、ワンダーズが許さない。




