ざ.出撃
闇の一派、白の刺客への特攻作戦。その運命の日がやって来た。
輝く光王国の城の前。多くの兵士達が並べられ、ワンダーズもその中で気合を高めていた。
彼らを見渡す光星王。彼の口から、作戦が語られる。
「まず先に目的を話すと、今回の作戦の目的は闇の一派、白の刺客への攻撃だ。以前の妨害により、もはや交渉は通じない。我々はこれより、闇姫軍の行動を待つ。やつらの装置により、闇の一派、白の刺客の脳が刺激され、やつらをぶつかり合わせるのだという。こうする事で、一時的に地球から意識をそらす作戦だ」
光星王は、ある小型装置を見る。
そこにあるモニターには闇姫の顔が映っていた。
「十分後に、やつらを狂わせる魔力波装置を打ち上げる。打ち上げたら煙弾をそっちに撃って合図する」
「間違って砲弾を放たないようにな…」
長年闇姫軍と対立してきた光星王は、まだ闇姫との共闘に不安を覚えてるらしい。
そんな彼に、画面の向こうの闇姫は
先行するのは闇姫軍だ。
今から約十分後、闇姫軍が空に向けて煙弾を放つらしい。
そして、その闇姫の城では…。
「急げ急げー!」
闇姫の兵士達は、城の狭い通路を慌ただしく疾走しながら準備を進めていた。
この作戦は、闇の組織としての誇りをかけた作戦だ。彼らに抱えられたプレッシャーは相当なものだろう。
そして、そのプレッシャーは闇姫とて同じものだった。
彼女の無表情も、その日はどこか強張っているようにも見える。
自室で、戦いのイメージを固める彼女。
あのマガツカイとコウノシン…光と闇の信仰心を固めるあの二角に、何事もなく勝てるとは到底思えない。
慎重に事を進めなければ、大勢の兵士を失う可能性がある。それは避けたかった。
「らしくもないお顔立ちですよ、闇姫様」
ダイガルが、声をかけてきた。彼の小さな手が、闇姫の肩にのせられる。
常日頃闇姫の事を見てきた彼には分かる。珍しく、彼女が緊張していると。
これは…闇の頂点の一人としての戦いなのだ。緊張は、誇りの証。闇姫には誇りがあった。
もしこの戦いに負ければ、地球は破壊される。いつか、闇姫の手中に握られるはずのこの星が。
闇姫にはプレッシャーがのしかかっていた。
…が、それに押し潰される気など毛頭ない。
「ダイガル。そろそろ始めるぞ」
「御意。闇姫様の誇りにかけ、我ら、天衝く黒竜と化しましょう」
ダイガルは、体は小さいが、その声に溢れる意思は並大抵の戦士と比較にならない。
声そのものに火がついてるような、それが大気に熱を及ぼしているような…流石、闇姫軍で最も強く、最も長く闇姫と付き合っている戦士だった。
城の外に出て、中庭を見る。
黒い鎧の兵士達が、大型の大砲を取り囲んでいた。兵士達は不規則的に散らばり、足元に置いてある木箱や工具の数々が、それまでの作業の過酷さを物語っている。
兵士達は、階段の上から見てくる闇姫とダイガルに手を振った。
「闇姫様!準備完了です!いつでも撃てます!」
「ご苦労」
闇姫は階段を降り、大砲に目をやる。
ここで自分が合図すれば、作戦、及び戦いの始まりだ。
地球を守る戦い。正義の組織が散々掲げてきたその戦いを、闇姫が行う事になろうとは。
…世も末。
そんな一言だけで、今の心情は語り尽くせ無かった。
「始めろ」
静かな声で、その戦いは始まった。
大砲から、轟音が放たれる!
白い煙が吹雪のように場を包む中、一つだけ天目掛けて放たれた魔力波装置。
白く輝きながら赤い闇の空を突き抜けていく。その極小の光を目撃できたのは、闇姫軍だけだ。
城から、即座に煙弾を放たれた。
紫の煙が、柱となって空へ上がる。
その柱は、闇の世界と人間世界の境界線をも超え…。
遥か遠くにある光王国に届いた。
空の彼方に上がった、紫の柱。
戦いの煙が、空に広がった。
「…っ!!」
全員が、息を呑んだ。
あの煙が上がれば、待った無し。
それが分かってても、戦士達の反応は僅かに鈍った。
「作戦開始だ!!」
そんな彼らの心を支えるように、シャナイの声がこだました。彼の闘志が、一瞬揺らいだ迷いを止めるように。
「…おおおおおおお!!!!」
兵士達は声を上げながら、空に向かって飛んでいく。
ワンダーズは彼らの後尾に回り、空を目指していく。
戦いの場は宇宙になるだろう。
光王国の戦士達が飛び出し、恐らくこの後闇姫軍も続く。
…そして、宇宙に打ち上げられた装置もまた、活動を始めた。
装置は地球の大気圏外へ飛び出し、赤いランプを灯らせた。
魔力波が周囲に展開されていく…その魔力波は宇宙空間をスムーズに侵食していき、不可視の振動波を地球周辺に広げる。
無数に分散した魔力達は、不安定な空間をも乗り越えていき、地球から離れた星に行き渡っていく…。
初めに届いたのは…闇の一派の漆黒の星。
星を覆う黒い霧をも、何事もなく通過していく。
地球とは全く異なる大気が広がる。もしも魔力に意思があるのなら、相当な嫌悪感を覚える事だろう。
しかし彼等には意志はない。
もはや荒野しかないような星の地表へと向かっていき、見回りをしていた兵士達の頭に響き渡る。
兵士達は、はじめは何事もなく偵察を続けていたのだが…。
「…ぐっ」
突然、静かな怒りを感じさせる声を発した。
そして、暗い空を見上げ、何かを睨む。
ヘルメットの向こう側の表情には…隠しきれない怒りが宿っていた。
勿論、魔力波は外の兵士だけに留まらない。
この星最大の拠点、マガツカイの城にも同じく影響を及ぼしていた。
城の中央、マガツカイの玉座の間。多くの兵士達が、マガツカイを囲むように配置されているが、目に見えぬ魔力を防ぐ事はできない。
兵士達は、すぐ後ろのマガツカイへの恐怖に震えながら、銃を手にしていたのだが…。
「な、なんだ、この感覚は…!」
一人の兵士が、その場に合わぬような声を発した。
一応は静かで、平穏とも言える玉座の間。なのに彼の声は、まるで戦場のど真ん中のような緊迫感に溢れ、張り詰めていた。
彼の発言で、他の兵士達も自分たちに起きている感覚が気のせいではないと確信したのだろう。次々に不調を訴える者が続出した。
そして、一番最初に不調を訴えた兵士が、銃を掲げてこう叫ぶ。
「白の、白の刺客を殺す!!皆殺しだ!!殺すぞー!!」
こればかりは、マガツカイも少しばかり困惑した様子を見せる。
兵士達のどよめきようは、苛つきのようだ。だが、今の今までこの兵士達は恐怖に支配されていたはず。
「…」
マガツカイは、頬杖をつき、少し彼らの様子を見る。
そして、闇の一派の拠点星とは三時間ほどの誤差が生じる、白の刺客の拠点星でも、その奇妙な現象は起きていた。
その時正に、ブルムがコウノシンや上級兵士に武器の改造を行う事を申し出ている最中だった。
ブルムの目の前で足を組み、彼女の話に耳を傾けるコウノシン。その威厳溢れる表情に、ブルムは若干足の震えを感じつつも話を進めていたのだが…。
「コウノシン様ー!!今すぐ、今すぐにでも闇の一派への襲撃作戦を行う事をオススメしまぁーーーすっ!!」
騒がしい兵士達が、礼儀の欠片もないような勢いで玉座の間になだれ込んできた。
そのあまりの無礼ぶりに、コウノシンの周囲にいた兵士や、精鋭騎士のコウハは思わず武器を向けてしまう。
駆け込んできた兵士の顔には、白の刺客の最大の特徴とも言えるあの笑顔も無い。
「闇の一派、闇の一派…!やつらを殲滅しましょう…!」
まるで、闇の一派への殺意が爆発したようだ。しかし、明らかに唐突すぎるその豹変に、コウハは流石に違和感を覚えた。
「お、おい。どうした急に…」
その時、彼等は外から響き渡る轟音に気づく。
「…まさか」
コウノシンが、呟く。
そう、白の刺客達が、一斉に反乱を起こしたのだ。
いや、反乱ではない…。闇の一派への襲撃作戦を、彼らの独断で行おうとしていたのだ。
魔力波により、彼らの戦闘本能が制御不能に陥っている。それまで闇の一派への憎しみだけを考えて戦ってきたからこそ、ここまで暴れられるようだった。
「行くぞ!!光の力を思い知らせろ!」
一部の兵士は既に飛行を始め、黄金の空へと消えていく。
宮殿から飛び出したコウハ達は、彼らを止めようとしたが、コウノシンがそれを止める。
「待て。これは何かおかしい」
…そして、地球付近では。
大勢の兵士を引き連れた光星王が、闇の一派と白の刺客の暴走を魔力で察知していた。
「闇姫軍の科学、やはり恐ろしいな。一応はマガツカイ、コウノシンの下でコントロールされていたあの狂兵達が、本当の狂兵になってしまっている」
この勢いで両者が衝突すれば、彼らはしばらく戦いに夢中になる。その間、二つの拠点星の警備は大幅に薄れる訳だ。
「どちらから攻め入りますか」
シャナイが光星王の指示を求む。
「白の刺客からだ。あそこには裏切りの地球人が潜んでると見える。前の作戦のような妨害を仕掛けてくる可能性が高い。まずは白の刺客から無効化し、その後に闇の一派を叩く!」
光星王が、右手の拳を輝かせる。彼の闘志と決意、そして王のプライドが具現化したような、力強い光が宇宙の暗黒をも照らすようだ。
「急ぐぞ。この戦いに負ければ、地球はおしまいだ!!」
無数に連なる地球の盾が、宇宙を飛翔する!




