闇と光の協力作戦
闇姫が、闇の一派、白の刺客へ対抗策を練っている可能性を信じて、れなは闇の世界へと向かっていた。
どうせアンコウ鉱山の魔力で武器を作ってる間、時間はある。この時間内に、闇姫に事情を聞きに行き、あわよくば協力を得られたら…。
「…まあ、めちゃくちゃ嫌なんだけどね!!」
森の上の秘密のルートを飛んでいく。空の色が青から徐々に赤色に変わっていき、雲も黒く染まっていく。絵でしか見ないような禍々しい光景が目の前にはっきりと広がっていく。
こんな所にいる者に協力を求める…。真剣に考えるとあまりにも当てのないような話だ。
黒い建物の上を突き抜けるように飛んでいき、地上を歩く悪魔達の視線を受ける。
実を言うと、れなはここによく来ている。悪魔達も彼女が飛んでくる姿には慣れているのだろう。
…そして、闇姫も。
「来たか」
四天王を背に並べ、窓かられなを見つめてた。
こちらに真っ直ぐ直進してくるれなの目には、闘志がない。それとはまた別の熱い感情が、人工の瞳に灯されていた。
「今の状況だ。闇の一派と白の刺客に関する事で訪問しにきたに違いない。そして私の協力を得ようとしてる辺りは読めた」
「流石、闇姫様」
デビルマルマンが短い手で拍手する。
「で、どうするおつもりですか」
…れなは、闇姫の城の前に着陸する。二人の門番悪魔が槍を構え、門の前で重ね合わせた。
しかしながらこの二人の門番悪魔も、れなの突然の訪問には完全に慣れていた。その顔は何とも面倒臭そうで、これから自分達がどうなるのかも分かってる。
「どけええ!!闇姫に話があるんだ!!」
二人の兵士を突き飛ばすれな。
兵士二人は、もはや諦めモードだった。一度走り出した彼女を止められる者は極めて少ない。
「今回はどんな要件だろうな」
「この間は確か、ゲームで負けた腹いせに闇姫様に喧嘩売ってきたな。度胸あるやつだよ、つくづく」
門を叩き開き、城へと潜入するれな。
潜入するなり、配置についていた無数の兵士達が銃を向けてくる。
だが幸い、銃を向けられる事には慣れている。れなは辺りを見渡しながら、闇姫の姿を探した。
「闇姫はどこだ!?あいつを探しにきたんだけど!」
古くからの歴史を持つ城内の壁という壁に、大きな声が反響し、こだます。兵士達は誰一人として返事をせず、ただれなに武器を向け続けている。
ジリ…という音でも似合いそうな状況だ。今にも戦闘が始まりそうなその時…。
「いい加減、人ん家の入り方を学んだらどうだ能無しが」
目的の声に、れなは頭を振り上げた。
黒いツインテール髪を優雅に揺らしながら、階段を降りてくる闇姫の姿があった。
よく護衛として連れている四天王の姿は見当たらない。その様から、闇姫にも戦う意思がない事を悟った。
「闇姫、話が」
「闇の一派と白の刺客の事だろ」
全て読めているようだ。やはり闇姫も、れなの事を嫌う分、れなの事をよく分かっていた。
この二勢力の名を口にした以上、闇姫も彼らに対して何も考えてないという事はあるまい。ここは下手に出ず、話を聞くべきだとれなは黙り込む。いつも騒がしい彼女には似合わぬ様だ。
いつの間にか武器を下ろしつつ、頭を下げる兵士達に囲まれながら、闇姫は階段を降りきる。
「やつらは地球を狙ってる…という事ぐらいはお前らも知ってるか。私も手を討ち始めたところだ」
「手を?」
目の前に降りてきた闇姫に、れなはナイフのような鋭い視線を突き出す。一方の闇姫は、冷たく、光が無いような目で話し出した。
「私や四天王の力でやつらの星を破壊するのは簡単だ。しかし破壊した際のエネルギーを察知して、他の侵略性宇宙人でも現れれば面倒になる。そこで私達は、やつらを捕える事にした」
星を破壊できない理由を話してすぐに、作戦を単刀直入に話しだした。テンポの良い話し方に、れなも悔しがりながらも聞きやすさを覚えた。
「やつらの兵士ぐらいなら単純に殴り上げ、締め上げれば簡単に捕らえられ、私の下に就かせられるだろう。問題はマガツカイとコウノシンだ。やつらは私の手でも苦労する」
「ほほーう、弱気ですね」
ふざけた顔で挑発するれなの足を踏みつける闇姫。
痛みに驚き、表情が固まる彼女に闇姫は淡々と語る。
「汚い手だが、マガツカイとコウノシンを戦わせて弱らせるのが一番だ。我が軍は今、やつらの脳波を狂わせる魔力波発生装置を開発してる」
闇姫は、階段の上へ軽く視線を寄せる。すると、蛙型の怪人…四天王の一人、ガンデルが黒い石のような物を持ってきた。
これがその脳波を狂わせる装置…れなはすぐに悟った。
「石に見えるが、発動するとドローンになる。これを飛ばせれば、マガツカイとコウノシンは互いの対抗心を普段以上に燃やし、無謀な作戦に出るはずだ。そして我々は」
闇姫は一面を見渡す。兵士達が見事な経歴を見せる。
「闇の一派、白の刺客…両勢力がスムーズにぶつかり合えるように裏から両勢力を同時に援護する。弱らせたところで一気に捕獲。必要に応じて殺す」
れなは、目を細める。普段見せないその顔には、はっきりとした嫌悪が宿ってた。
「…なるべく殺しはしないでほしいな」
「お前なら言うと思った。腑抜けが。やつらを生かしておいても、地球をまた狙いに来るに違いないぞ」
れなは悔しそうに拳を握る。闇姫に対する嫌悪ではない。この事実に対する嫌悪だ。
なるべく命は奪いたくないが、相手は本気で命を奪いに来る。
殺さなければ、殺される。
殺意なく、狂兵に向かっていくのは、槍を持つ相手に、木の枝でかかってるも同然。
…闇姫は、木の枝を迷いなく捨てて槍を持てるのだ。
正直な話、羨ましかった。本来は羨ましがるような事ではないのだが、自分もそんな強い意志が欲しい。
…れなはまだ、相手を殺すのには躊躇いがあった。
闇姫と協力すれば、恐らく血を見る。
だが…より多くの命を守る為には、彼女の力があった方が何倍も楽だ。
勿論、今光王国で開発が急がれてる武器でも戦う事ができるだろう。
…しかし、妙に嫌な予感がしていたのだ。
その武器だけでは、その戦力だけでは、得体の知れない不安が拭いきれない。
根拠はない。ただただ、何か嫌な予感がしていた。
彼女はアンドロイドだが、人間で例えるならその戦いの事を考えるだけで全身が脈打つような、そんな不快な感覚があった。
「闇姫、協力してほしい」
れなは、申し出た。
「お前にしては、賢明だ」
闇姫は、少しばかり意外そうな反応だ。いつも威圧的な表情が和らぐのを見て、れなは勝ち誇りたくなるような気分だった。
…その気分は、不安によってすぐに塗り潰された。
闇姫は背を向け、階段の上の方へ視線を移しつつ、こう言った。
「テメエの事は無論憎い。だが今は、それ以上にあのニ勢力が気に食わない。闇を下劣に扱う闇の一派、低俗な光の勢力でありながらこうまで傲慢に振る舞う白の刺客。クソの一派、クソの刺客に改名してほしいものだ」
闇姫は階段をゆっくりと登りながら、冷たく発した。
「だから、やつらを始末する為に仕方なく手を組んでやる」
れなの作戦は、何とか実を結んだ。




