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動き出す黄昏の狙撃手

「戦いはそろそろ終わりかな?」

白の刺客の拠点星。

ポインターアイから一部始終を見ていたブルムが、椅子の背もたれに体を預けた。

そして、背後に視線を向けた。



「ブルム…お前、とんでもない事をしたな」

…鉄の椅子に拘束されるカールの姿がある。

ブルムは立ち上がり、彼に近づいていく。青く長い髪が、軽快に揺れていた。

「何とでも言え。絶好のビジネスチャンスを安々見逃す商人があるか」

カールは手足を拘束されており、頭には発電装置が乗せられている。電気椅子だ。

ブルムは部屋の隅にあるレバーに手を伸ばし、笑う。

「最近戦争に対してどこか悲観的な態度を見せてたお前を野放しにすると思ってたか?お前の銃に盗聴器をつけさせてもらっていた。地球でお前がこの戦争を終わらせる為にあれこれやっていたのは全てバレバレだ」

「へっ、戦争を止めようとした勇者の一人が処刑器具にかけられるとは、世の中皮肉だらけだぜ」

この気に及んでも余裕を保つ彼に、ブルムは静かに憤慨。

レバーに手を置くが、カールはまだ笑っている。

「殺すなら殺せよ。俺を殺して何が変わるのかは知らねえけどな」

嘘偽りのない、強がりもでもないニヤリとした笑みに、ブルムはしばらく黙る。


そして…レバーから手を離す。

「お前ほどの部下をあっさり殺すのも惜しい」

彼女はカールに近づき、顔を覗き込む。


「一つ働かせてやる。あのれなとやらの家には、一人の老人が一緒に暮らしてるはずだ」

それがどうした、とばかりにブルムを見る目が変わるカール。


「その老人をここへ連れてこい。彼はテクニカルシティでも随一の科学者。アンコウ鉱山調査の上で不可欠な戦力になる」

白の刺客は先程、地球を破壊しようとした。なのにまだブルムはアンコウ鉱山を諦めていないようだ。


ブルムと付き合いの長いカールは、彼女の計画がよく分かる。

恐らく…いや、間違いなく、今度は闇の一派につくはずだ。まだアンコウ鉱山を諦める素振りを見せてない闇の一派に手を貸した方が、利益が出ると考えてるのだ。

アンコウ鉱山の魔力を採集し、その魔力から作り上げた新たな武器を闇の一派に売りさばき、ゆくゆくは白の刺客を滅ぼさせる。長年の宿敵を倒す事ができた闇の一派から多額の報酬を得る…こんなところだろう。


勿論、老人を捕まえる気などカールにはなかった。彼は首を横に振る。


ブルムは言った。

「おい。私は光姫が地球に張られたバリアを解く方法を知ってるんだぞ」

何、と顔を上げるカール。

直後、うっかり余裕を崩してしまった事に気づき、焦りの様子を見せた。それを見てブルムはさぞ可笑しそうに笑う。

「あのバリアは、光姫が自分の命をかけて白の刺客と闇の一派の攻撃から地球を守る為に展開した物だ。だがそんな諸刃の剣も、私が高性能の魔力分解装置を開発すればすぐ消し飛ばせる。そしてバリアを失えば、地球は今度こそ破壊されるぞ。その時には私もアンコウ鉱山を諦めよう」

カールの命に加え、地球全土の命をも利用するブルム。

自分はどうなっても良い。だが他人の命までは…。





「では、行って来いカール」





…電気椅子から一時開放されたされたカールが、テレポート装置を手に部屋の中央に立つ。

やるしかなかった。

彼はその老人を捕える事にしたのだ。

装置のボタンを押し、彼は地球へと瞬間移動した。




…移動先は、テクニカルシティの中央広場。

周りには、今何が起きてるかも知らずに呑気に歩いていく人々の姿が。



ふと頭上を見るカール。



ポインターアイが、彼を監視していた。

「もはや逃げられないな…。ならば…」

カールは、ポケットに忍ばせたマグナムに手をつけた。


「とことんやってやる」






場面は変わり、宇宙にて。





…地球は光姫が張ったバリアのおかげで難を逃れた。


地球戦士達と白の刺客、闇の一派が対峙するなか、バリアを見たコウハが言った。

「やはり我らと同じ光の勢力。何かを守る事への使命感はあまりに見事です」



シャナイを先頭とした地球戦士達がこちらを睨んでくる。その後ろには、髪が灰色に染まり、倒れている光姫と彼女を抱きかかえ、必死に声を掛ける光星王が。


マガツカイが部下達に指示を出した。

「どうせしばらく地球に手は出せん。次の計画をたてるのだ」

彼は背を向け、去っていく。部下達も慌てて彼に続いて離れていく。



コウノシンも同じく、部下達を連れて去り行く。

二つの勢力は、一旦去った。

やつらの力では、このバリアを破壊できないようだ。


…彼らの姿が見えなくなると、シャナイが真っ先に光姫に向かった。

「姫様…!!」





地球に戻った戦士達。



光王国に集合し、ワンダーズ達は城のベッドに寝かされた光姫を見守る。

それまで常に輝いていた髪が灰色一色になり、光沢を失っている。肌も異様に白く、まるで死人だ。体温も下がりきっているらしい。光王国の救護班は一瞬も止まる事なく、行動を起こしては次の行動へと繋ぎ続けている。


シャナイが、天井を見上げながらワンダーズに説明した。

「姫は自分の命を捨てる覚悟で大量の魔力を放ち、地球を守るバリアを張ったのだ。ののバリアのおかげで地球はしばらくの間、闇の一派と白の刺客の干渉を受けなくなるだろう」

普通であれば良い知らせなのだろうが、勿論純粋に喜ぶ者など誰一人いない。

ドクロが一つシャナイに聞く。

「そういえば…光星王様は?」

「これからの方針を立案している最中だ。彼が一番この場に立ち会いたいだろうに」

シャナイは、光姫を覗き込む。兜の向こうの顔は悲しげか、それとも事態の深刻さに固くなってるのか。


「それだけではない。協力してくれた戦士達が何人も死んだ。本来ならばこんな事はなかったはずだ。実際、やつが干渉するまでは上手く進んでいた」

やつ…白の刺客に潜む人物、ブルム。地球人でありながら地球を危機に追いやった、正真正銘の敵だ。

粉砕男が落ち着いた様子で腕を組む。いつでも慎重な様子の彼はやはり一際頼れる雰囲気に満ちていた。

「地球人、という事は相手は俺達地球戦士の計画に関してもある程度の知識があるという事だな。並大抵の作戦は通用しないかもしれない」

相手の声、そして相手の言葉を聞いた事で、地球人の裏切り者が白の刺客にいるという情報が確実なものになったのは収穫だ。こちらも対策を練る必要がある。


シャナイが言う。

「単純に出撃して勝てる相手ではない。今度は確実に成功するような作戦が必要だ。失敗すれば…地球が危ない」

頷く一同。


目を覚まさない光姫が心配だが、バリアはいつまでも張られる訳では無い。バリアが消えてしまう前に、何かしなくてはならない…。



そこで、れなが手を挙げる。

「ね、ね…。白の刺客と闇の一派って、アンコウ鉱山を狙ってるんだよね?なら、私達が真っ先にアンコウ鉱山を取っちゃうのはどう?」

ワンダーズの視線がれなに向く。れなは慣れない視線の数に少しばかりたじろきながらも、続けた。

「アンコウ鉱山の魔力を採集したら、私達の戦力も上がるし、相手が奪える戦力も大幅に低下するはずだよ」

「待て」

シャナイが手を突き出した。


「危険過ぎる、ダメだ」

良い作戦だと思い始めていたワンダーズ一同の肩に力が入る。ラオンがシャナイに歩み寄って反論しようとしたが、その隙も与えずにシャナイは続けた。

「アンコウ鉱山は闇と光の魔力が入り交じり、常に魔力の化学変化に基づく現象が起き続ける、いわば鉱山の変異体のような場所。文字通り、何が起きるのか分からん。実際あそこに行って生き残った者はまだいない」

生き残った者はいない…その言葉に、ワンダーズは沈黙した。



…が、れなは諦めない。


「まだだよ、何とかできるかもしれない」

また視線がれなに集まる。今度はうろたえず、胸を張ってこう言った。



「私の博士に頼めば良い!!!」






…シャナイはそれからも反論し続けたが、れなもまたそれに反論。両者が折れるまで論争を続ける、ある種の我慢対決と化したのだ。


そして、勝ったのはれな。シャナイと比べると単純な思考回路の彼女だが、だからこそ折れなかった。


交渉作戦に参加した一部の戦士は、闇の一派と白の刺客の戦力に恐れをなし、戦えなくなっていた。そしてかなりの戦士が命を落とした事で戦力自体が大幅に下がり、まだ決意を固めている戦士もごく少数。

光王国の現戦力で立ち向かっても恐らく勝率は低く、もし勝てたとしても、戦力に大幅なエネルギーを投資し、エネルギー枯渇が起きかねない。

大きな戦力の一人である光姫はあの状態、光星王とシャナイも全くの無傷ではなく、回復にはまだ時間がかかる。


…確かにアンコウ鉱山なら、れなとれみの博士の力を借りた上で調査をすれば…。

的確な作戦というよりも、一番マシな作戦とも言えた。


れなとれみ以外のワンダーズは光王国に残り、光王国の警備に協力する事になった。

れなとれみは飛行し、テクニカルシティへ向かっていく。


森の上空で、れみが心配そうな顔をした。

「お姉ちゃん…大丈夫かな?博士がそう簡単に認めてくれると思う?」

「…」

れなは、すぐに返答を考えた。なのにすぐに口に出せなかった。


「…反対するだろうね。でも、やるしかない。博士は私達をいつも点検してくれてる凄い人。彼の力の凄さは私達が誰より知ってる。信じるしかない!」

テクニカルシティが見えてきた。二人は速度を上げ、研究所へと直行した。


…が、商店街へと向かっていった時…あまりに勢い余って、一部の店で配られていたチラシを風圧で派手に空中に散らせてしまった。

「わあああごめんなさあああい!!!」

人々に謝り倒す二人。れみが大急ぎでチラシを拾い集め始める。

ポカンと立ち尽くす人々に囲まれながら、れみが早口で言う。

「お姉ちゃん、ここは私に任せて!先に行って!!」

「で、でも…」

れみは両手一杯にチラシを持ちながら、その幼い顔に凄まじい剣幕を刻み込みながら叫ぶ。

「行けええええええ!!!」

「…っ、ごめん」

れなは、涙を流しながら飛んでいった。




「…何だこの茶番」

一人の通行人が呟いた。





れみは後から駆けつけるだろう。

気を取り直し、アンコウ鉱山の件を博士に伝えなくてはならない。研究所はもうすぐそこだった。


れなは地上に降り立ち、研究所へと走っていく。

(最初は何て言えば良いんだ…!?いきなりアンコウ鉱山を調査なんて行ったらすぐ反対されるか…それとも光王国の為なんだと、説得前提か…)

あれこれシミュレーションしながら、れなは研究所の扉を勢いよく開いた。


「博士ただいま!!あの」


…れなの声が止まる。





「…え!?」

そして、驚愕の声を上げた。






「よう。邪魔してるぜ」




…リビングには、博士を掴み、動きを封じるカールの姿があった。

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